2016年10月31日

本研究成果のポイント

・交感神経がリンパ球の体内動態※1 を制御する仕組み※2 は発見していたが、免疫応答での役割は不明だった
・今回、交感神経の活動性の日内変動にともなうリンパ球の体内動態の変化が、免疫応答の日内変動を生み出すことを解明
・免疫応答の日内変動を利用してワクチンの効果を高めることが可能

リリース概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センターの鈴木一博特任准教授(常勤)らの研究グループは、交感神経によって免疫応答の日内変動が生み出されるメカニズムを解明しました(図)

免疫応答の日内変動を把握すれば、免疫応答の強く起こる時間帯にワクチンを接種してその予防効果を最大限に引き出すことが可能になります。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Experimental Medicine』(日本時間10月31日22時)にオンライン掲載されました。

図 リンパ球の体内動態と免疫応答の日内変動

研究の背景

「病は気から」と言われるように、神経系が免疫系の調節に関わっていることは昔から指摘されてきました。交感神経は循環器や呼吸器、消化器など様々な臓器の機能を調節する自律神経です。研究グループは、これまでに交感神経がリンパ球の体内動態を制御する仕組みを発見していましたが、この仕組みが免疫応答においてどのような役割を果たしているかは不明でした。

本研究の内容

交感神経の活動性には、1日のうちで身体の活動性が高まる時間帯に上昇し、身体の活動性が低くなる時間帯に低下するという日内変動があります。研究グループは、交感神経の活動性の高まる時間帯にリンパ球のリンパ節からの脱出が抑制される結果、リンパ節におけるリンパ球数が増加することをマウスを用いた実験で明らかにしました。交感神経の活動性が高まる時間帯にマウスにワクチンを接種したところ、リンパ節におけるリンパ球数の増加を反映してより強い免疫応答が起こり、高いワクチンの効果が得られることがわかりました(図)。これらの結果から、交感神経がリンパ球の体内動態を制御する仕組みが、免疫応答の日内変動を生み出すことが明らかになりました。

本研究成果の意義

ワクチンによる感染症の予防効果は、個人差が大きいことが問題となっています。今回得られた知見を利用して、交感神経の活動性が高く免疫応答が強く起こる時間帯(ヒトの場合は午前中)にワクチンを接種すれば、より高く安定した効果が得られると期待されます。

また本研究成果は、神経系と免疫系の関連性についても興味深い示唆を与えます。交感神経の活動性が高まる時間帯は、身体の活動性の高まりとともに病原体に遭遇するリスクも高まる時間帯です。このような時間帯に、リンパ節においてより強い免疫応答を起こす準備ができているということは、感染防御という観点から非常に理にかなっています。したがって、交感神経による免疫応答の日内変動の仕組みは、神経系と免疫系が相互作用しながら進化する過程で編み出された生物の生存戦略の一つであると考えられます。

研究の背景

「病は気から」ということわざにも示されるように、神経系がなんらかの形で免疫系を調節していることは古くから指摘されてきました。事実、リンパ節をはじめ免疫応答の場であるリンパ器官には神経細胞が分布しており、免疫応答の担い手である免疫細胞には神経細胞からの入力を受け取る神経伝達物質受容体が発現しています。しかし、神経系からの入力がどのようにして免疫系に影響を及ぼすのか、その仕組みは現在でもなお十分に理解されていません。

交感神経は、心拍数や血圧、呼吸機能や消化管の運動など様々な臓器機能の調節に関わる自律神経です。鈴木一博特任准教授(常勤)らの研究グループは、これまでの研究において交感神経がリンパ球の体内動態を制御する仕組みを発見しました(図1)。しかし、この仕組みが免疫応答においてどのような役割を果たしているのかは不明でした。

図1 交感神経よるリンパ球の体内動態の制御
リンパ節に分布する交感神経からノルアドレナリンが分泌されると、リンパ球に発現するβ2アドレナリン受容体が刺激される。β2アドレナリン受容体とケモカイン受容体の間には、シグナル伝達のクロストークが存在し、β2アドレナリン受容体が刺激されるとケモカイン受容体のシグナル伝達が促進される。交感神経からのノルアドレナリンの入力は、この受容体間クロストークを介してリンパ球のリンパ節への保持を促し、リンパ球のリンパ節からの脱出を抑制する(Nakai et al. JEM 2014)。

本研究成果の内容

交感神経によってリンパ球の体内動態が制御されることの免疫応答における意義を明らかにするにあたって、研究グループは交感神経の活動性に日内変動が存在することに着目しました。交感神経の活動性は、一般的に身体の活動性に合わせて変動し、ヒトの場合には昼間に、マウスのような夜行性の動物の場合には夜間にピークに達します。マウスのリンパ節におけるリンパ球数を1日を通して測定したところ、交感神経の活動性の変化に一致して、夜間に増加することがわかりました(図2左)。さらに研究グループは、このリンパ節におけるリンパ球数の増加の原因が、交感神経の活動性が高まることによってリンパ球のリンパ節からの脱出が抑制されるためであることを突き止めました。交感神経の活動性が高まる夜間にマウスにワクチンを接種したところ、リンパ節におけるリンパ球数の増加を反映して強い免疫応答が起こり、昼間にワクチンを接種した場合に比べてより高い効果が得られました(図2右)。これらの結果から、交感神経がリンパ球の体内動態を制御する仕組みが、免疫応答の日内変動を生み出すことが明らかになりました(図3)

図2 リンパ節におけるリンパ球数と免疫応答の日内変動
左:マウスのリンパ節におけるB細胞の数(赤)とノルアドレナリンの含有量(交感神経の活動性の指標,青)を1日を通して測定した。いずれも昼間(8時~20時)に比べて夜間(20時~8時)に高い値をとる。右:昼間(13時)と夜間(1時)にマウスにワクチンを接種し、ワクチンの効果の指標として血清中の抗体価を測定した。交感神経の活動性が高まる夜間に免疫した方が抗体価の上昇が顕著である。

本研究成果の意義

同じワクチンを接種しても、ある人では感染症の予防効果が得られるが、別の人では得られない、というようにワクチンの効果には個人差があり、医療政策上の大きな問題となっています。今回の研究成果は、交感神経の活動性が高く免疫応答が強く起こる時間帯を選んでワクチンを接種すれば、より高い効果が得られることを示しています。したがって、ヒトの場合には交感神経の活動性がピークを迎える午前中にワクチンを接種すれば、より高く安定した効果が得られると期待され、ワクチンの効果の個人差という問題の解決につながる可能性があります。

また本研究成果は、神経系と免疫系の関連性についても興味深い示唆を与えます。現代社会においては当てはまらないかもしれませんが、人類が狩猟生活を営んでいた時代には、交感神経の活動性が高まる時間帯は、身体の活動性の高まりとともに病原体に遭遇するリスクも高まる時間帯だったと推測されます。このような時間帯により強い免疫応答を起こす準備ができているということは、感染防御という観点から非常に理にかなっています。したがって、交感神経による免疫応答の日内変動の仕組みは、神経系と免疫系が相互作用しながら進化する過程で編み出された生物の生存戦略の一つであると考えられます。

図3 交感神経による免疫応答の日内変動の仕組み
1日のうちで交感神経の活動性が高まる時間帯(ヒトでは昼間、マウスでは夜間)には、リンパ球のリンパ節からの脱出が抑制され、リンパ球がリンパ節に蓄積する。この時間帯に免疫を施す(ワクチンを接種する)と、リンパ節におけるリンパ球数の増加を反映して、交感神経の活動性が低い時間帯に比べてより強い免疫応答が起こる。

用語解説

※1 リンパ球の体内動態
B細胞やT細胞に代表されるリンパ球は、リンパ節からリンパ液中に出て行き(脱出し)、リンパ液が血液と合流するのにともなって血流に乗り、再びリンパ節に戻ってくるという形で全身をめぐっている。

※2 交感神経がリンパ球の体内動態を制御する仕組み
リンパ節に分布する交感神経から神経伝達物質ノルアドレナリンが分泌されると、リンパ球に発現するβ2アドレナリン受容体が刺激される結果、リンパ球のリンパ節からの脱出が抑制される(研究の解説、図1参照)

掲載論文・雑誌

Kazuhiro Suzuki, Yuki Hayano, Akiko Nakai, Fumika Furuta and Masaki Noda.
Adrenergic control of the adaptive immune response by diurnal lymphocyte recirculation through lymph nodes.
The Journal of Experimental Medicine (JEM)
日本時間10月31日22時オンライン掲載

特記事項

大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)は、日本が科学技術の力で世界をリードしていくため「目に見える世界的研究拠点」の形成を目指す文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択されています。

参考URL

大阪大学免疫学フロンティア研究センター 免疫応答ダイナミクス(鈴木研究室)HP
http://kazuhirosuzuki.com/

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