生命科学・医学系

2019年5月14日

研究成果のポイント

・免疫細胞の移動をつかさどるケモカイン受容体のシグナル伝達に関わる分子としてCOMMD3/8複合体を同定
・COMMD3/8複合体が抗体の産生を含めた免疫応答の成立にきわめて重要な役割を果たしていることを解明
・自己免疫疾患などの炎症性疾患の治療においてCOMMD3/8複合体が創薬ターゲットになる可能性を示唆

概要

大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫応答ダイナミクス研究室の中井晶子助教、大学院生の藤本潤(博士課程)、鈴木一博教授(微生物病研究所兼任)らの研究グループは、免疫細胞の移動に関わる分子としてCOMMD3/8複合体※1を発見し、COMMD3/8複合体が免疫応答の成立にきわめて重要な役割を果たしていることを解明しました。

我々の体内では免疫細胞が絶えず動き回り、病原体の侵入に備えて効率よく免疫応答を起こす準備を整えています。この免疫細胞の移動をつかさどるのがケモカインとその受容体であるケモカイン受容体※2です。鈴木教授らの研究グループは、免疫細胞の移動を制御する新たなメカニズムを探索する過程で、ケモカイン受容体に会合する(くっつく)分子としてCOMMD3/8複合体を同定しました。研究グループは、COMMD3/8複合体がケモカイン受容体のシグナル伝達※3を促進し、免疫細胞の一種であるリンパ球の移動を促すことを見出しました。さらに、COMMD3/8複合体を欠損するマウスの体内では、リンパ球の移動が異常を示すのにともなって、抗体の産生をはじめとする免疫応答が著しく低下することが判明し、COMMD3/8複合体が免疫応答を引き起こす上できわめて重要な役割を果たしていることが明らかになりました(図1)

本研究成果から、COMMD3/8複合体の機能を阻害することによって、過剰な免疫応答によって引き起こされる自己免疫疾患※4やその他の炎症性疾患の病態が改善される可能性が示唆されました。したがって、COMMD3/8複合体はこれらの疾患の治療における新たな創薬ターゲットになると期待されます。また、ケモカイン受容体を含めたGタンパク共役型受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)※5の新たなシグナル制御機構を解明した点においても本研究は有意義です。

本研究成果は、米国科学誌「The Journal of Experimental Medicine」に、5月14日(火)午後10時(日本時間)に公開されました。

図1 ケモカイン受容体のシグナル伝達に関わる新たな免疫制御因子COMMD3/8複合体

研究の背景

我々の体内では絶えず免疫細胞が動き回っています。免疫細胞の移動は、免疫細胞が病原体の侵入を監視し、病原体を検知した場合には効率よく免疫応答を引き起こす上で必要不可欠です。一方、免疫細胞の移動は自己免疫疾患をはじめとする炎症性疾患の病態にも深く関わっており、ある種の炎症性疾患では免疫細胞の移動を標的とした治療法の有効性が確立されています。この免疫細胞の移動をつかさどっているのが、ケモカインとその受容体であるケモカイン受容体です。鈴木教授らの研究グループは、免疫細胞の移動に焦点を当てて研究を行っています。これまでにも交感神経が免疫細胞の移動を調節するという興味深い知見を発表してきました(The Journal of ExperimentalMedicine 2014, 2016)。今回、研究グループは免疫細胞の移動を制御する新たなメカニズムを探索する過程で、ケモカイン受容体に会合する分子としてCOMMD3/8複合体を同定し、その機能を解析しました。

本研究の成果

研究グループは、COMMD3/8複合体が欠損すると、ケモカイン受容体を刺激することによるリンパ球の移動が低下することを見出し、COMMD3/8複合体がケモカイン受容体のシグナル伝達を促進することを示しました。さらに、そのメカニズムについて解析を進めた結果、COMMD3/8複合体がGRK6※6というシグナル伝達分子をケモカイン受容体に呼び寄せることによって、ケモカイン受容体のシグナル伝達を促進することを突き止めました(図2)

ケモカイン受容体によって制御されるリンパ球の移動は免疫応答に大きな影響を及ぼすことから、研究グループはCOMMD3/8複合体を欠損するマウスの体内におけるリンパ球の移動と免疫応答を解析しました。その結果、COMMD3/8複合体を欠損するマウスでは活性化B細胞(リンパ球の一種)の移動が異常を示すのにともなって、抗体の産生をはじめとする免疫応答が著しく低下することがわかりました。このことから、COMMD3/8複合体が生体内でのリンパ球の移動と免疫応答の成立にきわめて重要な役割を果たしていることが明らかになりました(図3)

さらに、研究グループはCOMMD3/8複合体を構成するCOMMD3とCOMMD8が興味深い性質をもっていることを見出しました。COMMD3あるいはCOMMD8のいずれか一方を欠損する細胞では、他方が分解されてしまうことがわかりました。つまり、COMMD3とCOMMD8は複合体をつくることによってはじめて安定に存在し得るのです。

図2. COMMD3/8複合体の作用メカニズム
COMMD3/8複合体はGRK6をケモカイン受容体に呼び寄せる(動員する)ことによってケモカイン受容体のシグナル伝達を促進し、リンパ球の移動を促す。

図3 COMMD3/8複合体の免疫応答における役割
(A)免疫3時間後のマウスの脾臓の組織像。野生型の活性化B細胞はB細胞領域の外側に移動するのに対し、COMMD3/8複合体を欠損する活性化B細胞はT細胞領域側に移動する。(B)COMMD3/8複合体を欠損するマウスでは免疫後の抗体の産生が低下する。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

COMMD3/8複合体を欠損させることで免疫応答が低下したことから、COMMD3/8複合体の機能を阻害し、免疫応答を抑制することによって、過剰な免疫応答により引き起こされる自己免疫疾患やその他の炎症性疾患の病態が改善される可能性が示唆されました。したがって、COMMD3/8複合体はこれらの疾患の治療における新たな創薬ターゲットになると期待されます。COMMD3とCOMMD8には複合体をつくらないと分解されてしまうというユニークな性質があることから、COMMD3とCOMMD8を引き離す物質を見つけることができれば、それがすなわちCOMMD3/8複合体の阻害剤になり得ると予想されます。これまでケモカイン受容体を含めGPCRのシグナル伝達については精力的に研究が行われてきましたが、GPCRのシグナル伝達のこれまで認識されていなかった新たな制御メカニズムを解明した点においても本研究の意義は大きいと言えます。

研究者のコメント(中井晶子助教)

COMMD3/8複合体は、私が大学院に進学した当初から研究してきた分子です。COMMD3/8複合体を欠損するマウスの解析から、この分子が免疫応答において重要な役割を果たしていることは早い段階でわかっていました。しかし、COMMD3/8複合体がケモカイン受容体のシグナル伝達を促進するメカニズムを解明するまでに長い時間を要しました。結果的にケモカイン受容体のみならず多くのGPCRに共通するであろう新しいシグナル制御機構が明らかになったことは非常に有意義であると感じています。

掲載論文

本研究成果は、2019年5月14日(火)午後10時(日本時間)に米国科学誌「TheJournal of ExperimentalMedicine」(オンライン)に掲載されました。

【タイトル】“The COMMD3/8 complex determines GRK6 specificity for chemoattractant receptors.”
【著者名】 Akiko Nakai1, Jun Fujimoto1,2, Haruhiko Miyata3, Ralf Stumm4, Masashi Narazaki2, Stefan Schulz4, Yoshihiro Baba5, Atsushi Kumanogoh2, Kazuhiro Suzuki1,6,*(* 責任著者)
【所属】
1 大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫応答ダイナミクス研究室
2 大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
3 大阪大学 微生物病研究所 遺伝子機能解析分野
4 Institute of Pharmacology and Toxicology, Friedrich Schiller University, Germany
5 九州大学 生体防御医学研究所 免疫ゲノム生物学分野
6 大阪大学 微生物病研究所 分子免疫制御分野

特記事項

本研究は、日本学術振興会(JSPS)、日本医療研究開発機構(AMED)、科学技術振興機構(JST)の支援を受けて行われました。なお、本研究はドイツ Friedrich Schiller University と共同で行われました。

用語説明

※1 COMMD3/8複合体(コムディー・スリー・エイト複合体)
COMMD3(コムディー・スリー)とCOMMD8(コムディー・エイト)というタンパクから構成される分子複合体。

※2 ケモカイン受容体
細胞の移動を促すタンパクであるケモカインの受容体。哺乳類では約20種類存在する。ケモカイン受容体は、ケモカインを感知すると細胞をケモカインの濃度の高い方向へ移動させる働きをもつ。

※3 シグナル伝達
受容体に特定の物質(ケモカイン受容体の場合にはケモカイン)が結合することによって生じた信号(シグナル)が細胞内を伝搬し、細胞に生理的な反応(ケモカイン受容体の場合には細胞の移動)をもたらす過程。

※4 自己免疫疾患
本来は起こらないはずの自己に対する免疫応答によって生体組織が傷害される疾患。代表的な自己免疫疾患として慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどがある。

※5 Gタンパク共役型受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)
Gタンパクと呼ばれるタンパクを介してシグナル伝達を行う受容体。ケモカイン受容体を含め800種類を超えるGタンパク共役型受容体が知られており、様々な生理機能の発現や病態に関与している。現在使用されている薬剤の実に半数以上がGタンパク共役型受容体をターゲットにしているとされる。

※6 GRK6
GPCRのシグナル伝達に関わる分子にGPCRリン酸化酵素(GPCR kinase, GRK)という分子群があり、GRK6はそのうちの一つである。GRK6がケモカイン受容体をリン酸化するとケモカイン受容体のシグナル伝達が促進されることが知られていた。

参考URL

大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫応答ダイナミクス研究室
http://www.ifrec.osaka-u.ac.jp/jpn/laboratory/kazuhiro_suzuki/

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