2016年4月18日

本研究成果のポイント

・成人の筋ジストロフィー(筋強直性ジストロフィー)における不整脈が、心臓のNaチャネル※1 のRNA異常によることを世界で初めて発見
・異常なタイプのNaチャネルは機能が低下しており、その増加は不整脈をマウスで引き起こすことを証明
・成人の筋ジストロフィーでは不整脈による突然死が多いことから、不整脈の原因解明が治療法開発につながることに期待

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科の髙橋正紀教授をはじめとする国際共同研究チームは、成人で最も多い筋ジストロフィーである筋強直性ジストロフィーの不整脈の原因が、心臓のNaチャネルのRNA異常であることを、初めて発見し、そのメカニズムを明らかにしました。筋強直性ジストロフィーには現在のところ根本的治療法がなく、しかも不整脈が関与すると考えられる突然死が多いことから、今回の不整脈の原因解明が突然死の予防や早期介入に役立ち、新たな治療法開発につながることが期待されます。

本研究成果は英国の科学誌「Nature Communications」の電子版に2016年4月11日(日本時間)に掲載されました。

研究の背景

筋強直性ジストロフィーは成人でもっとも頻度の高い筋ジストロフィーであり、頻度は人口10万人当たり8人程度とされることから、日本には1万人程度の患者が存在するとされています。おもな遺伝的原因はリン酸化酵素(DMPK)遺伝子のCTG繰り返し配列※2 の異常伸長ですが、筋強直・筋萎縮以外に白内障、糖尿病、不整脈など様々な症状を呈する全身疾患です。死因として突然死が多いのが特徴で、不整脈がその原因の一つと考えられていました。

筋ジストロフィーが様々な全身症状を示す原因として、近年RNAの異常が原因として注目されています。つまり、異常伸長したRNAは核内に異常に蓄積しやすいことから、核内で起こるRNAのスプライシング※3 に必要なタンパク質を取り込んでしまいます。そのため、さまざまなRNAのスプライシングが正常に制御できなくなり、結果的に多くのタンパク質の異常を引き起こし、多彩な症状を呈すると考えられるようになってきています。例えば、筋ジストロフィーに特徴的な筋強直現象はスプライシング異常による塩化物イオンチャネル※4 のタンパク質の減少であることが、2002年に髙橋正紀教授らにより示されていましたが、不整脈の原因は長らく不明でした。

(イオン)チャネルとは、膜タンパクの一種で、特定のイオンを選択的に通過させる穴を持つ特殊なタンパクです。心臓のNaチャネルは、心筋細胞の電気活動で最も大事な働きを担っています。心臓のNaチャネルに病気を引き起こす遺伝子異常が多数見出されています。そのうち、チャネル機能低下を示す異常の多くは、致死的な不整脈を引き起こすブルガダ症候群※5 を呈することが知られています。

図 筋強直性ジストロフィーの不整脈とNaチャネルの異常スプライシング
CUGの伸びたRNAが核内に蓄積し、RNA結合タンパク(MBNL)が吸着され、きちんと機能できるMBNLが不足する。正常ではMBNLの働きでエクソン5-6B-7とつなぎ合わされた成人タイプのNaチャネルになるところ、MBNLが不足するため5-6A-7とつなぎ合わされた胎児型が筋強直性ジストロフィーで増加する。マウスで胎児型を増加させると最下段のように、伝導遅延と不整脈が認められる。

本研究の内容

筋強直性ジストロフィー患者の心臓を調べたところ、心筋型のNaチャネルのRNAスプライシングに異常があることを見出しました。この異常なNaチャネルの機能を電気生理学的に検討したところ、チャネルの機能の低下が示されました。この結果から、患者はブルガダ症候群類似の病態を示し、致死性不整脈につながっていることが予想されました。実際に、患者で見られたのと同様のRNA異常を実験動物(マウス)で引き起こすと、不整脈が認められ、さらに、コンピューターシミュレーションでもNaチャネルの機能低下は、患者と類似した心電図の異常を起こすことが示されました。これらのことから、筋強直性ジストロフィー患者さんの不整脈や突然死は、心筋型のNaチャネルのRNAスプライシング異常によると結論付けられました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

筋強直性ジストロフィーの不整脈の原因が明らかになったことで、不整脈の進行の予測、早期介入につながり、突然死の予防につながることが期待されます。筋強直性ジストロフィーにも含まれるリピート病※6 は神経変性疾患などを中心に数多くの疾患が含まれるため、今回の研究手法や、RNA異常による病態メカニズムという考え方が、様々な疾患の病態研究にも応用されると考えられます。

特記事項

本研究成果は、英国の科学誌「Nature Communications」の電子版に2016年4月11日(日本時間)に掲載されました。

<論文タイトル>
Misregulation of the alternative splicing of the cardiac sodium channel SCN5A is associated with cardiac conduction delay and heart arrhythmia in myotonic dystrophy.

<著者>
Fernande Freyermuth, Frederique Rau, Yosuke Kokunai, Thomas Linke, Chantal Sellier, Masayuki Nakamori, Yoshihiro Kino, Ludovic Arandel, Arnaud Jollet, Christelle Thibault, Muriel Philipps, Serge Vicaire, Bernard Jost, Bjarne Udd, John W. Day, Denis Duboc, Karim Wahbi, Tsuyoshi Matsumura, Harutoshi Fujimura, Hideki Mochizuki, François Deryckere, Takashi Kimura, Nobuyuki Nukina, Shoichi Ishiura, Vincent Lacroix, Amandine Campan-Fournier, Vincent Navratil, Emilie Chautard, Didier Auboeuf, Minoru Horie, Keiji Imoto, Kuang‐Yung Lee, Maurice S. Swanson, Adolfo Lopez de Munain, Shin Inada, Hideki Itoh, Kazuo Nakazawa, Takashi Ashihara, Eric Wang, Thomas Zimmer, Denis Furling#, Masanori P. Takahashi#, Nicolas Charlet-Berguerand#(# 共同責任著者)

<研究メンバー>
本研究は、大阪大学大学院医学系研究科の髙橋正紀教授、中森雅之助教、大阪大学医学部附属病院の穀内洋介医員(当時)、滋賀医科大学の堀江稔教授、芦原貴司学内講師、伊藤英樹学内講師、国立循環器病研究センターの稲田慎博士、国立病院機構刀根山病院の藤村晴俊臨床研究部長、松村剛神経内科部長、米国フロリダ大学のモーリス・スワンソン教授、フランスの遺伝分子細胞生物学研究所の二コラ・シャレーベルゲラン博士、同じくフランスのソルボンヌ大学、サルペトリエール病院のデニー・ファーリン博士、ドイツのフリードライヒ・シラー大学のトマス・ツィマー博士など多数の研究者が参加する国際合同研究チームにより行いました。

用語解説

※1 Naチャネル
膜タンパクの一種で、Naイオンを選択的に通過する穴を持つ特殊なタンパク。心臓、神経などの電気的興奮に欠かせない役割を担っている

※2 CTG繰り返し配列
C(シトシン)、T(チミン)、G(グアニン)の3塩基の並びが、ゲノムのうえで繰り返した配列。DMPK遺伝子の下流部分にもそのような配列が存在し、通常では20回程度であるが、筋強直性ジストロフィーの患者では50回以上の繰り返しになっている。

※3 スプライシング
DNAから写しとった遺伝情報から、タンパクを作るのに不要なRNAの部分を除く作業

※4 塩化物イオンチャネル
膜タンパクの一種で、塩化物イオンを選択的に通過する穴を持つ特殊なタンパク。骨格筋に多く存在し、電気的な興奮を抑える役割がある。

※5 ブルガダ症候群
ブルガダ兄弟が初めて報告した、発作性の不整脈による失神や突然死を引き起こす遺伝性の疾患。俗にいう「ぽっくり病」の原因の一つとも考えられている。

※6 リピート病
遺伝子に存在する3-6塩基の繰り返し配列(リピート)が通常以上に伸長することにより発症する疾患の総称。筋強直性ジストロフィーのほかに、様々な遺伝性脊髄小脳変性症や一部のALSなどの神経変性疾患が含まれる。なかでも3塩基の異常伸長によるトリプレットリピート病がよく知られている。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科神経内科学 筋疾患グループ
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/neurol/myweb6/group04.html

論文掲載先(Nature Communication)
http://www.nature.com/ncomms/index.html

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