2016年3月18日

本研究成果のポイント

・合成ゴムの原料などに利用されるブタジエン※1 を原料に、4つの有機基※2 を一挙に連結し、複雑な有機化合物を合成することに成功
・以前に開発した銅触媒※3 と今回のニッケル※4 触媒を使い分けることにより、ブタジエンから異なる炭素骨格を作り分けられることを実証
・生成物は、ポリマー原料や有機分子の合成原料として利用価値の高い末端オレフィン※5 であり、安価な炭素資源の有効活用に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の神戸宣明教授、岩﨑孝紀助教らの研究グループは、安価なニッケル触媒を用いた二つのブタジエン、アルキル基※6 、ベンゼン環※7 を一挙に連結する手法を開発しました。

複数の有機分子を一挙につなげる多成分反応※8 は、反応を繰り返して分子を一つ一つつなげる手法に比べて効率・経済性に優れた手法ですが、連結される分子の数や連結する位置を上手く制御しなければならず、その方法は限られていました。

本研究では、触媒として安価なニッケルを用いてブタジエンを2分子つなぐことにより、炭素8つからなる炭素骨格を作り、さらにアルキル基を内部炭素に導入するとともにベンゼン環も導入する合成手法を初めて開発しました。この手法により、安価なブタジエンを原料に高付加価値な末端オレフィン類を合成することができます。

タイヤやゴムホース等合成ゴムの原料やブタンジオール、クロロプレン等の工業的に重要な化合物の原料など幅広い分野で利用されているブタジエンから、触媒を使い分けることにより、様々な有機分子を作り分けることに成功した本成果は、様々な有機材料の合成手法の開拓につながると期待されます。また、ブタジエンはエタノールから合成することが可能であり、近年注目を集めているバイオエタノールなどの高付加価値化合物を、触媒の使い分けにより異なる化合物へと自在に変換する可能性を示すものです。

本研究成果は、平成28年3月3日(木)(ドイツ時間)にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』の速報版としてジャーナルHPに公開されました。また、論文誌の表紙に研究成果が取り上げられました。

研究の背景と経緯

複数の有機分子を一挙につなげる多成分反応は、反応を繰り返して分子を一つ一つつなげる手法に比べて効率・経済性に優れた手法です。しかし、連結される分子の数や連結する位置を上手く制御しなければなりません。

ブタジエンは最も分子量の小さな共役ジエン(二重結合を2つもった炭化水素)であり、安価な炭素資源として高分子素材や工業的に重要な化合物の原料など幅広い分野で利用されています。

安価なブタジエンから多成分反応を利用し、より付加価値の高い分子をつくるためには、ブタジエンの異なる二種類の炭素を見分けて反応する位置を上手く選択する必要があります。すなわち、ブタジエンには末端(外側)炭素と内部炭素の二種類の反応可能な位置があるため、これらを見分けて望みの位置のみで反応を行う必要があります(図1)

特に、より付加価値の高い末端オレフィンを与える内部炭素で分子をつなぐ方法は限られていました。

この様な背景のもと、神戸教授、岩﨑助教らの研究グループでは、昨年、触媒として銅を用いると、ブタジエンの内部炭素が選択的にアルキル化され、付加価値の高い末端オレフィンが得られることを報告しました。

今回、この内部炭素選択的なアルキル化反応※6 を改良し、触媒として安価なニッケルを用いてブタジエンを2分子つなぐことにより炭素8つからなる炭素骨格を作り、さらにアルキル基を内部炭素に導入するとともにベンゼン環も導入する合成手法を開発しました(図2)

図1 ブタジエンの多成分反応で考えられる3種類の生成物
ブタジエンは末端炭素と内部炭素の異なる反応性の炭素を有する。さらに、異なる有機分子AとBが導入される多成分反応を考えた場合、3種類の生成物が考えられる。

図2 本研究成果と以前の銅触媒を用いる反応の比較 波線部が新たにできた結合

研究の内容

本研究における多成分反応は、安価なニッケルを触媒として用い、ブタジエン、フッ化アルキル、アリールグリニャール試薬※9 を室温で混ぜるだけで効率よく進みます。この反応で、ブタジエン2分子がつながった炭素数8、二重結合を二つ有する炭素骨格の内部炭素にアルキル基、さらに末端炭素にアリール基(ベンゼン環および類似化合物の総称)が、一挙につながった化合物が単一の生成物として得られます(図2b)

図1に示したように、ブタジエンの反応では、新たに結合が出来る位置を見分ける必要があります。本反応では2分子のブタジエンが生成物に組み込まれることより、考えられる位置異性体※10 は9種類におよびます(二重結合の向きなどに由来する異性体も生じるため、実際に考えられる異性体は20種類以上)。しかし、今回見出した反応では、二つのブタジエンの末端炭素間、一方のブタジエンの内部炭素とアルキル基、およびもう一方のブタジエンの末端炭素とアリール基との間の3ヶ所に新たな結合ができますが、望む位置のみで結合ができ、位置の異なる生成物はまったく得られません。また、ブタジエンが取り込まれる数も2分子であり、1分子もしくは3分子以上のブタジエンが取り込まれた生成物もまったくできません。

また、以前に報告した銅触媒によるブタジエンのアルキル化反応においてもブタジエンの内部炭素がアルキル化されますが(図2a)、ニッケル触媒を用いる本研究では、さらに、もう1分子のブタジエンとベンゼン環が導入されます。これら二つの触媒を使い分けることにより、同じ原料から異なる化合物が作り分けることが出来ることを明らかにしました。

これらの成果は、いずれも安価な銅やニッケル触媒を使い分けることにより、安価なブタジエンから様々な高付加価値な分子を作り分けられることを示すものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

末端オレフィンは、重合反応※11 のモノマーとして広く利用されています。また、炭素―炭素二重結合には様々な官能基※12 が導入可能であり、有機合成上利用価値の高い合成試剤です。本研究ではブタジエン2分子を連結し、さらにアルキル基、アリール基を位置選択的に導入する多成分反応を見出しました。以前の研究成果も合わせて、触媒を使い分けることにより安価な炭素源から様々な有機分子を作り分けることに成功しました。本成果は、様々な有機材料の合成手法の開拓につながると期待されます。また、ブタジエンはエタノールから合成することが可能です。すなわち、本研究成果は近年注目を集めているバイオエタノールから、高付加価値化合物を触媒の使い分けにより異なる化合物へと自在に変換する可能性を示すものです。

特記事項

この成果は、平成28年3月3日(ドイツ時間)にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』の速報版としてジャーナルHPに公開されました。また、論文誌の表紙に選ばれました。

【論文タイトル】Nickel-Catalyzed Dimerization and Alkylarylation of 1,3-Dienes with Alkyl Fluorides and Aryl Grignard Reagents
【著者】Takanori Iwasaki, Xin Min, Asuka Fukuoka, Hitoshi Kuniyasu, Nobuaki Kambe
【DOI】 10.1002/anie.201601126

また、本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金および日独共同大学院プログラム、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究、公益財団法人宇部興産学術振興財団ならびに公益財団法人住友財団の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 ブタジエン
C4H6の分子式で表される炭素―炭素二重結合を2つ持つ不飽和炭化水素化合物。炭素が二重結合、単結合、二重結合で連結したものを共役分子(代表例:ベンゼン)といい、特徴的な性質を示す。ブタジエンは最小の共役分子。

※2 有機基
炭素と水素からなる炭化水素骨格からなる原子団の総称。

※3 以前に開発した銅触媒を用いたブタジエンのアルキル化反応
【論文タイトル】Cu-Catalyzed Regioselective Hydroalkylation of 1,3-Dienes with Alkyl Fluorides and Alkyl Grignard Reagents
【著者】Takanori Iwasaki, Ryohei Shimizu, Reiko Imanishi, Hitoshi Kuniyasu, Nobuaki Kambe
【掲載雑誌】Angewandte Chemie International Edition 2015年54巻9347ページ
【DOI】 10.1002/anie.201503288
【概要】http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2015/20150623_1

※4 ニッケル
元素記号Ni。金属元素の中でも比較的安価であり、触媒としても広く利用されている。50円硬貨や100円硬貨はニッケルと銅の合金である。

※5 末端オレフィン
炭素―炭素二重結合を含む炭化水素をアルケンもしくはオレフィンと呼ぶ。オレフィンのうち、炭化水素骨格の端に二重結合を有するものを末端オレフィンと呼び、末端以外の位置に二重結合を持つものを内部オレフィンという。末端オレフィンは高い反応性を持つ。

※6 アルキル基/アルキル化反応
一般式CH3(CH2)nで表される飽和炭化水素基(アルキル基)を有機分子へと導入する反応をアルキル化反応と呼ぶ。

※7 ベンゼン環
6個の炭素原子が単結合と二重結合(共鳴により平均化されるため1.5重結合)により正六角形に繋がった化合物。

※8 多成分反応
有機化合物を合成する反応の多くは、二つの有機化合物同士を連結して新たな分子を作る。一方、三つ以上の有機化合物を一挙に連結する反応を多成分反応と呼ぶ。

※9 アリールグリニャール試薬
グリニャール試薬は、有機ハロゲン化物に金属マグネシウムを作用させて得られる化合物。炭素とマグネシウムの結合を持ち、その炭素は高い反応性を示す。マグネシウムに結合する有機基がベンゼン環や類似する骨格(アリール基)を有するものを総称してアリールグリニャール試薬と呼ぶ。

※10 位置異性体
分子中で原子同士の結合位置が異なる化合物。同じ組成を持つが、物理的、化学的な性質は異なる。

※11 重合反応
同じ反応が繰り返し起こり、繰り返し単位を有する高分子を与える反応。重合反応の反応試剤をモノマー(単量体)、生成物をポリマー(重合体)と呼ぶ。例:ポリエチレン(重合体)はエチレン(モノマー)の重合反応によって得られるポリマーである。

※12 官能基
酸素や窒素の様な原子を含む原子団であり、化合物に反応性や物性などの特徴を付与する。代表的なものにエステルやアミノ基、水酸基がある。炭素—炭素二重結合は反応性に富むので、様々な官能基が導入可能である。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科触媒合成化学領域 神戸研究室
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~catsyn/

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