2015年6月23日

本研究成果のポイント

・合成ゴムの原料などに利用されるブタジエン※1の二種類の炭素のうち、内側の炭素のアルキル化反応※2を初めて実現
・安価な銅を触媒として用い、調製方法を工夫することにより新たな触媒機能を発見
・反応生成物は、ポリマー原料や有機分子の合成原料として利用価値の高い末端オレフィン※3 であり、安価な炭素資源の有効活用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の神戸宣明教授、岩﨑孝紀助教らの研究グループは、安価な銅触媒を用いたブタジエンの内部炭素選択的なアルキル化反応を達成しました。これは、従来の合成反応の多くがブタジエンの末端炭素上に置換基※4 を導入するのとは対照的な位置選択性です。本研究で開発した手法により、安価なブタジエンを原料に高付加価値な末端オレフィン類を合成することができます。

この成果は、平成27年6月19日(ドイツ時間)にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』の速報版としてジャーナルHPに公開されました。

研究の背景と経緯

ブタジエンは最も分子量の小さな共役ジエン(二重結合を2つもった炭化水素)であり、安価かつ反応性に優れた炭素資源としてタイヤやゴムホース等の高分子素材の原料やブタンジオール、クロロプレン等の工業的に重要な化合物の原料など幅広い分野で利用されています。

複数の分子を連結し、より複雑な構造の化合物を合成する有機合成反応において求められる要件の一つに、複数の反応し得る位置を選択し、望みの位置で反応を行うことが挙げられます。この様な観点から見ると、ブタジエンには末端(外側)炭素と内部炭素の二種類の反応可能な位置があります。しかし、これまでのブタジエンの反応の多くは、末端炭素上での反応であり、より混み合った内部炭素で分子を連結する一般性の高い方法は知られていませんでした。特に、アルキル基をブタジエンの内部炭素に導入し、分岐構造を有する末端オレフィンを与える反応は知られていませんでした(図1)

一方、神戸教授らは、安価かつ生成物に残存しない環境調和型配位子としてブタジエンを銅、ニッケル、コバルト触媒※5 によるクロスカップリング反応※6 に利用し、その手法を用いて有機分子の基本骨格を構築する反応を世界に先駆けて開発していました。これらの研究の過程で、反応条件によっては銅触媒を用いた際に触媒が失活※7 し黒色の沈殿が生じ、クロスカップリング反応が停止してしまうことがわかりました。この失活した触媒を逆に利用する方法を検討する中で、フッ化アルキルとブタジエンが反応することを見いだし、ブタジエンの内部炭素にアルキル基が導入された末端オレフィンが生成することを明らかにしました。

研究の内容

これまでの研究により銅触媒と配位子※8 としてブタジエンを組み合わせて用いることにより、種々のハロゲン化アルキルとアルキルグリニャール試薬※9 とのクロスカップリング反応を効率よく触媒することを見出しています。この反応ではブタジエンが配位子として銅触媒を安定化することにより目的の反応のみが進行し、1分子の触媒により100万分子以上の生成物が得られます。このクロスカップリング反応の反応溶液は、黄色の均一な溶液となります(図2上) 。一方、銅触媒とブタジエン、アルキルグリニャール試薬を50 ℃で10分間作用させることにより黒色の沈殿が生成します(図2下)

この黒色沈殿はクロスカップリング反応を触媒しません。一方、この溶液にアルキル化剤としてフッ化アルキルを加えて反応を行うことにより、ブタジエンの内部炭素にアルキル基が、末端炭素に水素がそれぞれ結合した末端オレフィンが得られることを明らかにしました。この時末端炭素に結合する水素は、グリニャール試薬のアルキル基由来であることを明らかにしています。今回開発した反応では様々な官能基※10 を有するフッ化アルキルが利用可能であり、官能基化されたオレフィンを合成することが可能です。本反応の特徴として、共役ジエンのみが選択的に反応することが挙げられます。すなわち、代表的な不飽和結合であるアルケン(二重結合)やアルキン(三重結合)構造を有する反応基質を用いても、それらの不飽和結合は反応することなく、ブタジエンの連続した二重結合上でのみ反応が進行します。また、共役ジエンとして、分岐構造を有するジエンも用いることが可能であり、分岐した炭素骨格を有する末端オレフィンを合成することが可能です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

末端オレフィンは、重合反応※11 のモノマーとして広く利用されています。また、炭素―炭素二重結合部位を足掛かりに様々な官能基が導入可能であり、有機合成上利用価値の高い合成試剤です。本研究では安価な炭素資源から分岐構造を有する末端アルケンを合成する新手法を見出しました。本成果は、様々な有機材料の合成手法の開拓につながると期待されます。また、ブタジエンはエタノールから合成することが可能です。すなわち、本研究成果は近年注目を集めているバイオエタノールから、高付加価値化合物である様々な末端オレフィン類へと変換する新たな可能性を示すものです。

また、有機基と銅元素からなるギルマン試薬※12 は、大学の化学系学部の有機化学で習う代表的な有機金属反応剤です。今回、ギルマン試薬が分解した化学種が、触媒として機能することを明らかにしました。これは、反応剤として広く利用されている銅元素の新たな活用法を示す成果であり、今後更なる展開が期待されます。

特記事項

この成果は、平成27年6月19日(ドイツ時間)にドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』の速報版としてジャーナルHPに公開されました。

【論文タイトル】
Cu-Catalyzed Regioselective Hydroalkylation of 1,3-Dienes with Alkyl Fluorides and Alkyl Grignard Reagents

【著者】Takanori Iwasaki, Ryohei Shimizu, Reiko Imanishi, Hitoshi Kuniyasu, Nobuaki Kambe

【DOI】10.1002/anie.201503288

また、本研究は、日本学術振興会の科学研究費補助金および日独共同大学院プログラム、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究、公益財団法人京都技術科学センターならびに公益財団法人宇部興産学術振興財団の支援を受けて行われました。

参考図

図1 ブタジエンのアルキル化反応の位置選択性に関する従来法と本研究成果の比較

図2 触媒活性種の変化と新たな触媒の発見

用語解説

※1 ブタジエン
C4H6の分子式で表される炭素―炭素二重結合を2つ持つ不飽和炭化水素化合物。炭素が二重結合、単結合、二重結合で連結したものを共役分子(代表例:ベンゼン)といい、特徴的な性質を示す。ブタジエンは最小の共役分子。

※2 アルキル化反応
一般式CH3(CH2)nで表される飽和炭化水素基(アルキル基)を分子へと導入する反応。

※3 末端オレフィン
炭素―炭素二重結合を含む炭化水素をアルケンもしくはオレフィンと呼ぶ。オレフィンのうち、炭化水素骨格の端に二重結合を有するものを末端オレフィンと呼び、末端以外の位置に二重結合を持つものを内部オレフィンという。末端オレフィンは高い反応性を持つ。

※4 置換基
有機分子の基本骨格である炭素と水素からなる炭化水素骨格に結合した原子団の総称。

※5 触媒
反応前後において自らは変化せず反応を促進する物質。

※6 クロスカップリング反応
二つの異なる有機分子を連結する反応。狭義には有機ハロゲン化物と有機金属試薬の二つの炭素を連結する反応をいい、代表的なパラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応の開発により、鈴木章教授、根岸英一教授らに2010年ノーベル化学賞が授与された。

※7 失活
触媒は反応前後において自らは変化しないため原理的には反応を永続的に促進し続けることが可能であるが、何らかの原因により触媒が変化し、活性を失い反応を促進しなくなる現象。

※8 配位子
金属元素に結合する分子。配位子を金属元素に結合させることにより、溶剤への溶け易さや触媒機能を調整することができる。

※9 グリニャール試薬
有機ハロゲン化物に金属マグネシウムを作用させて得られる化合物。炭素とマグネシウムの結合を持ち、その炭素は高い反応性を示す。

※10 官能基
酸素や窒素の様な原子を含む原子団であり、化合物に反応性や物性などの特徴を付与する。代表的なものにエステルやアミノ基、水酸基がある。

※11 重合反応
重合反応とは同じ反応が繰り返し起こり、繰り返し単位を有する高分子を与える反応。重合反応の反応試剤をモノマー(単量体)、生成物をポリマー(重合体)と呼ぶ。例:ポリエチレン(重合体)はエチレン(モノマー)の重合反応によって得られるポリマーである。

※12 ギルマン(Gilman)試薬
銅元素に二つの有機基が結合した化合物であり、様々な炭素—炭素結合形成反応を実現する有用な化学種である。有機リチウム試薬やグリニャール試薬と銅塩から調製され、一般式R2Cu-•m+ (R = 有機基、m = Li, MgX)で表される銅のアート錯体(金属が負電荷を有する化学種)である。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科触媒合成化学領域 神戸研究室HP
トップページ
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~catsyn/index.html

研究内容
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~catsyn/theme.htm

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