2015年10月5日

本研究成果のポイント

・廃熱を電気に変換する熱電材料の高性能化には、高い電気伝導率・低い熱伝導率の同時達成が必要です。
・高い電気伝導率を維持して熱伝導率を自在に制御できるナノ構造・技術の開発に成功しました。
・今後、本概念・技術をもとに、廃熱を利用した熱電発電実現への取り組みが加速すると期待できます。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の中村芳明教授らは、極小なゲルマニウム(Ge)ナノ結晶を、シリコン(Si)中に結晶方位※1 を揃えて埋め込んだ構造を作製しました。本構造では、電流はSi中を流れ、熱伝導はナノ結晶の存在により阻害されるため、高い電気伝導率・低い熱伝導率が同時に実現しています。Geナノ結晶の形状・寸法を制御因子とすることで、熱伝導を自在に制御することができます。その結果、Si/Ge界面での熱抵抗を従来の2-3倍の値に増大させ、世界最大のSi/Ge界面熱抵抗を得ることに成功しました。

廃熱を直接電気エネルギーに変換可能とする熱電材料の高性能化は、熱を通しにくく電気が流れやすいという特徴が要求されますが、ナノ構造における熱伝導の機構・制御機構が明らかにされていませんでした。本研究成果を用いることで、廃熱を再利用可能な電気エネルギーに変換する熱電材料の大幅な性能向上が期待できます。

本研究成果は、2015年10月5日(英国時間)に「Scientific Reports」に公開されました。

研究の背景

廃熱を直接電気エネルギーに変換可能とする熱電材料の高性能化は、環境問題解決につながると期待されています。高性能熱電材料は熱を通しにくく、電気が流れやすいという特徴が要求されます。熱と電気の伝導には相関があるため、熱と電気の伝導を独立に制御することは長年の課題となっています。上記性質を満たすため、従来の高性能熱電材料には、希少・高価で毒性をもちうる元素が使われており、そのため、熱電材料の社会利用が制限されています。こうした元素を用いず、上記性質を満たす材料を開発する方法として、ナノメートルスケール(ナノは10億分の1)の構造(ナノ構造)の導入が注目されています。一般には、ナノ構造導入による熱伝導率低減が性能向上につながることはわかっているのですが、ナノ構造における熱伝導の機構・制御機構が明らかにされておらず、そのため熱と電気の伝導の同時制御を可能とする最適な熱電材料用ナノ構造は開発されておりません。

こうした背景の下、熱と電気を同時に制御可能な材料開発の方法論確立が求められており、大阪大学 中村芳明教授は独自のナノ構造を提案し(図1) 、この挑戦に取り組んできました。

研究の手順と結果

中村芳明教授は、電気伝導率が比較的高いシリコン(Si)を電気伝導層とし、数ナノメートルサイズの球形ナノ結晶(ナノドット)を熱伝導の阻害物として導入する構造に注目しました(図1) 。本構造では、ナノドット材料としてゲルマニウム(Ge)を用い、図2に示すような極小Geナノドットが、超高密度(~2×1012cm-2)にSi上にエピタキシャル成長※2 して導入されています。その結果、Si/Geの界面に生じる熱抵抗を、~1×10-8 m2KW-1という従来に比べて2-3倍の値まで増大させることに成功しました(図3) 。これは、盛んに研究されてきたSi/Ge材料の界面熱抵抗の最高値となっております。その結果、15%という少ない量のGeを利用するだけで、熱伝導率を従来のバルクSiの約1/130倍の~1.2 Wm-1K-1まで低減することに成功しました(図4)。この値は、少ないGe含有量において、現在産業利用されているSiGeバルク結晶※3 に比べても低い値となっております。

一方、電気はエピタキシャル成長したSi層を主に流れるため、ナノ構造導入による電気伝導率の悪化が抑えられ、バルクSiの約半分程度という高い電気伝導率を得ております。これは、高い電気伝導率と低い熱伝導率を同時達成したことを意味しており、本結果は、高性能Si系熱電材料実現の可能性を示したことを意味します。

また、本構造において、ナノドットの形状・サイズを調整することで熱の伝導が自在に制御できるようになりました(図3図4)。これは、熱伝導に寄与するフォノン※4 の伝導をナノドットが阻害しているためと考えられます。そのナノドットサイズ依存性から、本構造におけるフォノン散乱機構は、光でいうところのレイリー散乱、ミー散乱に相当する散乱機構に由来するもので、ナノドット形状等を考慮することで説明できるものと考えられます。これは、光のアナロジーでフォノン伝導を制御したことを意味しており学術的に興味深い結果です。

本研究のナノ構造の特徴

従来のボールミリング※5 と焼結によって作製される熱電ナノ材料では、ナノ構造の制御が困難であり、ナノ結晶体によるフォノン散乱の効果は不明瞭のままでした。本論文で開発した独自技術は、ナノドットの結晶配列構造、寸法、扁平度、配向、密度の精密作製を可能とし、ナノドットの形状によるフォノン散乱効果を実験的に明らかにしました。本研究で開発した新規ナノ構造(Geエピタキシャルナノドットを導入したSi構造)は、極小エピタキシャルGeナノドット、エピタキシャルSi層、極薄Si酸化膜層という三つの要素から成り立っています(図1) 。独自技術である極薄Si酸化膜を用いることで、従来ではなし得なかった極小のエピタキシャルGeナノドットをSi層上にエピタキシャル成長することが可能となります。この構造中において、熱の担体となるフォノンは極小Geナノドットによって散乱され、一方電気の担体となるキャリア※6 はエピタキシャルSi層を伝導します。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究の結果は、高電気伝導率を有する材料中にエピタキシャル成長した極小のナノドットを導入することで、熱と電気の伝導を同時に制御することに成功したことを示しており、Siに限った結果ではなく、工場・車などの廃熱利用に期待される他の材料を用いた熱電材料開発においても、本研究の成果を取り入れることで大幅な性能向上が期待できます。

情報化社会が進む現在、パソコンやサーバにおけるLSI※7 から生じる廃熱は、年々莫大なものになっており、これを熱電発電として利用するにはLSIとの調和性を持つSi系熱電材料の開発が必要となります。本研究は、Si中にナノ構造を導入することで、熱電変換性能の向上の可能性を示しており、LSI廃熱用Si系熱電材料の実現のブレークスルーとなりうるものです。

特記事項

本研究成果は、論文タイトル“Phonon transport control by nanoarchitecture including epitaxial Ge nanodots for Si-based thermoelectric materials”(Si系熱電材料開発に向けたエピタキシャルGeナノドット含有ナノ構造によるフォノン伝導制御)として、2015年10月5日(英国時間)に「Scientific Reports」にに公開されました。

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業さきがけ研究の一環として行われ、大阪大学 大学院基礎工学研究科 山阪司祐人(博士後期課程3年)、酒井朗(教授)の協力を得て行われました。

参考図

図1 GeナノドットをSiに導入した構造と、そこでのフォノン伝導とキャリア伝導の概念図

図2 極小エピタキシャルGeナノドットの 走査トンネル顕微鏡像

図3 1層当たりの熱抵抗のナノドットサイズ依存性

図4 開発した新規ナノ構造と従来のSiGe材料の熱伝導率の比較

用語解説

※1 結晶方位
結晶中では原子が規則的に配列していますが、その配列にもとづいて定義される方向。

※2 エピタキシャル成長
下地結晶基板とある一定の結晶方位関係をもって結晶が成長すること。

※3 バルク結晶
表面からの影響が無視できる巨視的なサイズの結晶

※4 フォノン
結晶格子振動を量子化した粒子。

※5 ボールミリング
原料とともに硬質なボールを容器に入れて回転させることで、原料の摩砕、粉砕を行うこと。

※6 キャリア
材料中の電気伝導を担う電子などの粒子。

※7 LSI(Large scale integrated circuit)
大規模集積回路

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻 中村研究室
http://www.adv.ee.es.osaka-u.ac.jp/

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