2014年10月21日

本研究成果のポイント

●安価な四フッ化エチレンから液晶化合物を短工程で合成できる新反応の開発に成功
●液晶以外の新たなフッ素原子を含む機能性材料の開発に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科の生越専介教授、大橋理人講師らは、大阪大学ダイキン(フッ素化学)共同研究講座との共同研究により、含フッ素化成品の基幹工業原料である「四フッ化エチレン※1」から次世代液晶ディスプレイの素子材料として期待されている「テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物※2」を短工程で合成する新規反応を開発しました。今回の発見は、低コストでの新たな含フッ素機能性材料の開発や、高性能光学デバイスの実用化・普及の一層の促進につながるものと期待されます。

テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物の短工程合成の概要図

研究の背景

四フッ化エチレンは、フライパンのコーティング剤としてなじみの深いテフロン®をはじめとするフッ素系樹脂※3の基幹工業原料であり、工業的には非常に安価な化合物です。しかし、その用途はフッ素系樹脂の製造に限られており(図1)、医薬品・農薬・機能性材料など多岐に渡る含フッ素化成品の製造原料として利用されることはほとんどありませんでした。一方、四フッ化エチレンの分子中に含まれる2つの炭素(C)原子それぞれに炭素官能基を1つずつ結合させた「テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物」は、次世代の液晶ディスプレイの素子(液晶)材料として期待されており(図2)、これを安価に、かつ大量に合成できる手法が確立されれば、高機能光学デバイスの実用化・普及に弾みがつくと期待されています。しかし、このような化合物の代表的な合成法は、汎用性に乏しいことに加え、非常に高価な、あるいは毒性の強いフッ素化剤※4を用いるため、環境に優しく安価な合成法が強く求められていました。

本研究グループは今回、四フッ化エチレンの分子中に含まれる2つの炭素(C)原子それぞれに異なる芳香環を1つずつ結合させる反応の開発に取り組みました。具体的には、「カルボメタレーション※5(図3)という手法を四フッ化エチレンに適用したところ、四フッ化エチレンの一方の炭素原子に1つ目の芳香環を、もう一方の炭素原子に銅(Cu)を結合させる反応(「カルボキュプレーション※6」)により「フルオロアルキル銅化合物」が高収率で得られることを見出しました(図4)。得られたフルオロアルキル銅化合物は、ヨードベンゼンとの反応により銅原子を2つ目の芳香環へと置換可能であることを明らかにしました(図5)。異なる2つの芳香環が導入された化合物はテトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物へと短工程かつ良好な収率で変換可能です(図6:本手法を用いることにより6工程 収率64%;既知法では10工程以上を要する)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

四フッ化エチレンは安価な工業原料ですが、日々の生活を快適に過ごす上で欠かせない、多様な含フッ素化成品の製造原料として利用されることはほとんどありませんでした。本研究の成果は、低コストで液晶化合物を合成することを可能にするだけでなく、四フッ化エチレンを原料とした新たな含フッ素機能性材料の開発につながるものであり、四フッ化エチレンの新たな用途展開に繋がると期待されます。

特記事項

本研究成果は、米国化学会雑誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されるに先立ち、オンライン版(2014年10月10日付)に掲載済(http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja5093776):
Fluoroalkylcopper(I) Complexes Generated by the Carbocupration of Tetrafluoroethylene: Construction of a Tetrafluoroethylene-Bridging Structure
(四フッ化エチレンのカルボキュプレーションによって生じるフルオロアルキル銅(I)錯体を経由するテトラフルオロエチレン架橋鎖を有する有機フッ素化合物の新規合成法の開発)

本成果は、本学 ダイキン(フッ素化学)共同研究講座との共同研究によるもので、独立行政法人科学技術振興機構 助成事業(A-STEP)の研究課題(課題名:「トリフルオロビニルモノマーを変性剤とする新規PTFEの開発」)実施の過程において得られました。

参考図

図1 四フッ化エチレンから製造される主なフッ素系樹脂
四フッ化エチレンは2つの炭素(C)原子と4つのフッ素(F)原子からなる分子であり(図中 青色で示した分子)、テフロン®をはじめとする含フッ素樹脂の基幹工業原料として工業的スケールで大量に生産されています。しかし、その用途はフッ素系樹脂(高分子)の製造に限られているのが現状です。

図2 テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物
四フッ化エチレンの2つの炭素原子間を結ぶ二重結合(C=C)が単結合(C-C)に変わるとともに、それぞれの炭素に1つずつ炭素原子が結合した骨格を「テトラフルオロエチレン架橋鎖(C-CF2―CF2-C)」と呼び、両端の炭素原子を含む部分として様々な構造(置換基)を有する化合物を総称して「テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する有機化合物」といいます。このような化合物のうち、両端の構造(置換基)が適切に設計された化合物は高性能な液晶として働くことが知られています。

図3 カルボメタレーション
アルケン(C=C結合を有する化合物の総称)等の多重結合に対する有機金属化合物(金属(M)-炭素(C)結合を有する化合物)の付加反応を『カルボメタレーション』と呼びます。この反応によって得られる生成物もまた有機金属化合物であり、正に帯電した金属元素と結合した炭素原子は負に分極しているため、炭素求電子剤(負に分極した炭素と結合しやすい炭素官能基、例えば、電気陰性度が大きいハロゲン(ヨウ素や臭素など、Xとして表わされる元素)と結合した炭素官能基)と反応させることによって新たな炭素―炭素結合へ誘導することができます。

図4 四フッ化エチレンのカルボキュプレーション
四フッ化エチレンに対するカルボメタレーションを様々な反応条件下で行ったところ、1,10-フェナントロリン配位子(窒素(N)を2つ含む有機化合物:phenと標記)を有する有機銅化合物を用いた際に40℃という穏和な条件下で付加反応(カルボキュプレーション)が効率よく進行することを見出しました(図4a)。1,10-フェナントロリン配位子は有機銅試薬の安定性を向上させる働きがあります。また、この反応で用いる有機銅試薬は、市販の有機ホウ素(B)化合物、銅アルコキシド、phen配位子を混合するだけで簡単に調製することが可能です。

図4bには、得られたフルオロアルキル銅化合物の分子構造を直接観察、可視化した結果を示しています。ご覧のとおり、四フッ化エチレン由来の炭素原子の一方に銅原子が、他方に芳香環が結合していることが分かります。

図5 フルオロアルキル銅化合物と求電子剤との反応
有機銅試薬と四フッ化エチレンとのカルボキュプレーションが速やかに進行するがことがわかりましたので、得られたフルオロアルキル銅化合物を炭素求電子剤の1つであるヨードベンゼンと反応させたところ、銅原子からベンゼン環への置換反応が進行し、当初企図したテトラフルオロエチレン架橋鎖を有する有機化合物が得られることを見出しました(図5a)。この反応では、ベンゼン環に種々の置換基が結合した様々なヨードアレーン類を適用することが可能です。

また、フルオロアルキル銅化合物と種々の求電子剤との反応により、炭素官能基以外の原子団で銅原子を置換することも可能です(図5b)。

ResOU

図6 テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物の短工程合成
本反応を用いて液晶化合物を実際に合成してみました。従来法では、10工程以上かかった反応が本手法を用いることにより6工程(収率64%)で液晶化合物を合成することが可能です。

用語解説

※1 四フッ化エチレン
炭素(2つ)とフッ素(4つ)の2種類の原子からなる分子(分子式C24)。
テフロンRや他の含フッ素樹脂の工業原料として国内外で広く利用されている。図1を併せて参照のこと。

※2 テトラフルオロエチレン架橋鎖を有する液晶化合物
四フッ化エチレンの分子中に含まれる2つの炭素原子それぞれに1つずつ新たな炭素原子を含む官能基(これをR,R’で表わす)を結合させることによって生じる、一般式R-CF2-CF2-R’ で表わされる化合物の総称。官能基R,R’の構造を制御することにより、これらの化合物は液晶性を示すことが知られている。図2を併せて参照のこと。

※3 フッ素系樹脂
フッ素原子を含む合成樹脂(いわゆるプラスチック)のこと。通常のプラスチックと比較して、耐熱性や耐摩耗性、耐薬品性に優れるものが多い。四フッ化エチレンのみから合成されるフッ素系樹脂はテフロンRとして有名である。図1を併せて参照のこと。

※4 フッ素化剤
合成反応において標的化合物にフッ素原子を導入する際に使用する試薬。工業規模で大量に用いられるフッ素化剤としてフッ素ガス(F2)やフッ化水素(HF)が挙げられるが、これらは毒性・腐食性の高さが問題となっている上、反応性が高すぎるために特定の反応点のみを部分的にフッ素化することは困難であることが多い。一方、前述の毒性を低減させるとともに、適度な反応性を有する種々のフッ素化剤が近年多数開発されている。しかしながら、これらの試薬は非常に高価であるため、工業スケールで大量に使うには不向きである。

※5 カルボメタレーション
2つの原子A-B間の多重結合が解裂し、原子A,Bがそれぞれ別の原子団と新たな単結合を形成する『付加反応』のうち、炭素(C)―金属(M)結合を有する化合物(有機金属化合物)が原子A,Bに結合する反応をカルボメタレーションと呼ぶ。図3を併せて参照のこと。

※6 カルボキュプレーション
カルボメタレーションのうち、金属原子として銅(Cu)を含む反応を特にカルボキュプレーションと呼ぶ。

参考URL

掲載論文
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja5093776
研究室WEBサイト
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~ogoshi-lab/research/index.html

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