細胞同士を繋ぎ 外界との「壁」をつくる蛋白質の構造を解明

細胞同士を繋ぎ 外界との「壁」をつくる蛋白質の構造を解明

上皮組織でのバリア機能の解明 新規治療薬の設計に期待

2013-5-13

リリース概要

大阪大学大学院生命機能研究科・医学系研究科の月田早智子教授と名古屋大学細胞生理学研究センター(CeSPI)の藤吉好則教授らの共同研究グループは、細胞と細胞を隙間なく繋げるタンパク質であるクローディンファミリー様タンパク質の分子構造を世界で初めて示し、細胞間接着装置が持つ複雑な機能の解明に向けて極めて重要な知見を得ることに成功しました。

私たちは体内と外界とをしっかりと‘隔てる’事により、体の恒常性を維持しています。この‘隔てる’役割をしているのが上皮組織とよばれる組織です。上皮組織は隣り合う細胞と細胞がしっかりと繋ぎあうことで細胞のシートを形成し、その繋ぎあう機能を果たしているのが細胞間接着装置です。その中でもタイトジャンクション【Tight junctions (TJs)】と呼ばれる構造体はクローディン【claudin】とよばれるタンパク質により細胞と細胞の距離をほぼ0にまで近づけ、体内と外界を‘隔てる’ことに寄与していることは知られていましたが、今日までクローディンタンパク質がどのような形をし、どのように結合しているのかは全く解っていませんでした。今回の研究結果はクローディンに似たタンパク質の構造を明らかにし、クローディンの構造解析に大きなヒントを与えることができました。近い将来、クローディンの構造が解明され、細胞間接着不全による炎症性腸疾患(クローン病など)への新規治療薬の設計が加速度的な進展を遂げると期待されます。

研究の背景

TJsの主要な構造分子のclaudinは細胞間接着部位において膜平面内で線状に重合 (strand形成) して上皮細胞間バリアを構築しています。claudinはヒトやマウスでは、現在27種類のsubtypeが確認されており、subtype特異的な細胞間バリア機能やstrandの形態(平行型or分岐型)が存在すると考えられています。また、TJからstrandが消失すると細胞間バリア機能がなくなることも分かっています。従って、臓器特異的に発現するclaudinが、細胞間にstrandをつくることが、適切なバリア機能の形成に必須だと考えられます。しかし、claudinは如何にして細胞膜(脂質二重層)という二次元平面の場所で、線状に重合するのでしょうか。そこにはどのような分子間相互作用が働いているのか?claudinが示す多様な細胞間バリア機能を真に理解するためには、claudinがどのような立体構造を形成しているのかを理解する必要があります。しかし、claudinの立体構造は解かれていません。claudinが膜タンパク質であり、線状で、かつ網目状に分岐もするstrandをつくる、複雑な分子間相互作用を持つ分子であることが、構造解析を非常に困難にしていると考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で我々は分子量29kDaの小さな4回膜貫通タンパク質によってこのような脂質平面内におけるTJ-strand形成原理のモデルの1つを構造学的に提示しました。将来的にclaudinの構造が解明される時、本研究はclaudinの機能および構造解析において重要な知見、テンプレートとなると思われます。さらに組織特異的に発現しているclaudinのバリア機能の解析に繋がり、claudinとの関連が報告されている疾患においても、新規治療薬の設計において大きな知見に繋がる可能性があると思われます。

特記事項

膜タンパク質が脂質膜のような2次元平面内で相互作用することで重合鎖を作る際、その結合による歪みから、重合は直線状ではなく湾曲することで、次第にはリング状の分子鎖が構成されます。しかし、IP39は4つの分子間相互作用を持つことで湾曲することを抑制し、直線状の重合鎖形成を可能としていると考えられます。2次元結晶化されたIP39の構造は、細胞骨格タンパク質の存在無しにIP39単独で直線状に重合できることを意味しており、分子量29kDaの小さな4回膜貫通タンパク質がこのような平面内配向を見せる例は過去に例が無く、構造学的にも非常に興味深い点です。なお、本研究成果は2013年4月23日に英国科学誌「Nature Communications」に掲載されます。

参考図

図1 TJでは4回膜貫通タンパク質claudinが線状(strand)に、かつ網目状に重合する。

図2

参考URL

http://www.cespi.nagoya-u.ac.jp/ (名古屋大学細胞生理学研究センター :CeSPI)