2012年10月1日

リリース概要

大阪大学レーザーエネルギー学研究センターの高部英明教授・坂和洋一准教授らの研究グループは米国の大型レーザー「OMEGA EP」を利用した米国・欧州・日本10研究機関の国際共同研究で、秒速1,000kmの超高速プラズマ流を生成し、初期に発生する電磁場乱流により衝撃波が形成される実験に成功しました(図1)。これにより、超新星の爆発後1万年以上観測される宇宙における衝撃波の生成機構や、衝撃波による宇宙線の加速機構などが実験室で研究できることを証明しました。論文は10月1日(英国は9月30日)付け『Nature-Physics』誌に掲載されます。本研究は大阪大学のグループが5年前に提案し、2年前から国際共同研究で推進中の成果です。

 

研究の背景

銀河内の宇宙線は主に超新星残骸(図2)の球形表面の衝撃波で加速されて生まれています。しかし、衝撃波生成の物理機構や電子・陽子のような荷電粒子が加速される機構は諸説あり、よくわかっていません。以前から地上での模擬実験が待たれていました。

本研究では、大型レーザーを用いることによって超新星から放出される物質速度と同等の1,000km/sという高速プラズマ流を実現できる点に着目し、米国ロチェスター大学の「OMEGA EP」レーザーで生成された対向する2つの高速プラズマ流の相互作用によって衝撃波を形成しました。プラズマ中に陽子ビームを照射し、時間と共に変化していく電磁場の空間構造を計測した結果、初期の混沌とした状態から衝撃波という秩序が形成されることが実験的に明らかになりました。その物理機構の解明には大規模計算が必要で、本日から共用利用が開始される「京」コンピュータによる3次元計算を開始します。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

宇宙線の存在が観測されてからちょうど100年になります。しかし、未だに加速機構には諸説あり解明されていませんでしたが、今回の研究により、実験室での衝撃波生成が確認されたことで、長きにわたる論争に実験的な検証が可能であることを示しました。大型レーザーを用いた実験室宇宙物理学という新たな研究分野が天文学に登場することになります。(米国天文学会はいち早く、本年、実験室宇宙物理部門を新設しました)。

 

特記事項

10月1日付け『Nature-Physics』に掲載される論文は、29人の共著論文(内、大阪大学研究者は4名)。10研究機関は、大阪大学のほか、プリンストン大学など米国の6校、オックスフォード大学など欧州の3校。

 

参考図

図1 実験で得られた電磁場の影絵。
高出力レーザーを図の上下に設置された8mm間隔のプラスチックターゲットに照射することによって1000km/sで噴射するプラズマを作り、超新星爆発の噴射を模擬する。そこに、別のレーザーで生成された超短パルスの陽子ビームを照射すると、対向噴射プラズマ内に発生した電磁場で曲げられ陽子が集まった所が黒く映る。プラズマは荷電粒子の集まりで電磁力は遠くまで及び、2番目のように電磁場乱流(混沌)が生まれる。しかし、徐々に細かい構造が消えてゆき、3番目のように大きな構造が見え始める。しばらくすると、4番目のイメージのように、上と下にほぼ対称な衝撃波の影(秩序)が見える。この構造は少しずつ広がりながら長時間維持される。このように乱流的な混沌としたプラズマの中に時間と共に秩序だった構造が形成されることを「自己組織化」と呼ぶ。実験では宇宙で1000年かけて起こる現象を、プラズマの密度を20桁近く高くすることで、ns(ナノ秒:10億分の1秒)でかつ、1cm空間の現象に相似変換して行う。航空機の風洞実験と同じ概念だ。「自己組織化」の科学は現在、生物学などで広く研究されている。ノーベル賞科学者のプリゴジンが「散逸構造の理論」として体系化を試みた。宇宙の衝撃波形成というだけでなく、非平衡統計力学などの基礎科学の研究対象も発見したことになる。

 

図2 1006年に爆発が確認されている超新星の残骸(SN1006)。
超新星の残骸からの電波のイメージ。くっきりした境界面が衝撃波。球状に3000km/sの速度で膨張を続けている。衝撃波は通常の空気中のものと異なり、電磁場乱流により形成されている。X線のイメージから衝撃波面で電子や陽子が加速され宇宙線が生まれていると推測されている。宇宙空間では爆発が起こると常に衝撃波が出来るが、その発生機構は諸説有り、解明に至っていない。特に実験的な解明が待たれており、今回の成果のさらなる展開に期待が寄せられている。

 

参考URL

http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/csp/index.html

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