2012年5月4日

<リリース概要>

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(神経内科学)の中辻裕司講師らは、血液中に存在するセマフォリン4A※2が、神経難病の多発性硬化症※3患者さんで増加していることから簡便な補助診断法となることを見出しました。本研究は、同研究科内科学講座(呼吸器・免疫アレルギー内科学)熊ノ郷淳教授らと共同で行われました。さらに重要なことは、このセマフォリン4Aの値が高い患者さんには多発性硬化症の第一選択薬であるインターフェロンベータ療法が有効でないことを見つけました。これらの発見は、より早期に診断し、より適切な治療を選択開始する上で大変重要な知見と考えます。

本研究成果は、免疫学の領域で定評のある米国免疫学会誌(Journal of Immunology)に5月3日に掲載される予定です。

 

<研究の背景>

多発性硬化症は20~40歳代女性に好発する神経難病で、日本に約1万人余りの患者さんがいます。症状として手足のしびれ、麻痺や視力障害を来し、再発を繰り返しながら徐々に障害が強くなるため、早期診断と適切な早期治療開始が重要です。これまでの補助診断法としては脊髄液を採取する検査がありますが、患者さんの負担が大きく、簡便な検査法が待たれていました。今回開発した方法は、少量の採血のみで簡便に補助診断が可能となります。

また、早期の適切な治療開始が病気の進行抑制に重要であり、これまでインターフェロンベータ療法※4が第一選択薬として広く使用されていますが、全ての患者さんに効果があるわけではありません。どのような患者さんに効果があり、どのような患者さんには効果が無いのかがわかれば、無効な治療に時間を費やすことなく適切な治療を開始することができ、このような指標が世界中で待たれています。多発性硬化症の病態ではTh17細胞※5という炎症性の細胞が増悪に関与していることがわかっていましたが、セマフォリン4Aの値が高い患者さんではこの増悪因子が高いことが今回明らかとなり、さらにこれらの患者さんにインターフェロンベータ療法を行うと、無効か、むしろ症状が悪くなる傾向があることがわかりました。

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<本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義).

多発性硬化症は若年成人に発症し、長く再発寛解※6を繰り返し、進行を抑制するには早期診断と早期治療が欠かせない病気です。セマフォリン4Aを測定することにより早期診断と適切な治療選択ができれば、患者さんにとって非常に有用な発見と考えます。

また、インターフェロンベータ療法は非常に高額な治療薬であるにも関わらず、これまで診断がつけば半ば盲目的に施行していました。無効な患者さんを予想できれば患者さんにとって望ましいばかりでなく、医療経済的にも大きな貢献ができると考えます。

 

<用語解説>

 

※1 マーカー
病気の診断や治療方針の指標。バイオマーカーと同義です。

※2 セマフォリン4A
セマフォリンという物質はヒトの神経系の発生において神経の軸索(突起)が伸びる方向を決める働きとともに、免疫系においては様々な免疫調節作用を持っています。約30種以上のセマフォリンが見つかっていますが、その一つがセマフォリン4Aとよばれる物質で、今回自己免疫疾患の多発性硬化症で重要な働きをしていることを見つけました。

※3 多発性硬化症
脳、脊髄、視神経に病変をきたす自己免疫疾患で、厚生労働省の特定疾患に指定されている神経難病です。20~40歳代の女性に好発し、症状として手足のしびれ、麻痺や視力障害を来し、症状の増悪(再発)と軽減(寛解)を繰り返しながら進行してゆきます。欧米には患者さんが大変多く、若年成人で生活に支障をきたす神経疾患の筆頭にあげられる疾患です。日本には約1万人余りの患者さんがおられ、増加傾向にあります。症状の進行を抑制するために、早期診断とインターフェロン療法等の適切な早期治療開始が重要とされています。

※4 インターフェロンベータ療法  インターフェロンベータはヒトのリンパ球などから分泌される物質で、多発性硬化症の再発予防効果があることがわかっており、日本を含め世界の多くの国で第一選択治療薬として繁用されています。患者さんはインターフェロンベータを自宅で隔日に1回、あるいは週に1回自己注射されています。

※5 Th17細胞
リンパ球の一種であるT細胞のなかに、ヘルパーT細胞(Th細胞)というグループがあります。Th細胞はその働きにより、大きくTh1,Th2,Th17の3群に分けることができますが、Th17は多発性硬化症をはじめとした自己免疫疾患の増悪に関与しています。

※6 寛解
再発により症状が増悪したのちに、治療あるいは自然経過により症状が軽減すること。多発性硬化症は病気が完全に治る(治癒)することは一般には無く、症状の増悪(再発)と軽減(寛解)を繰り返します。

<参考URL>

http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/neurol/myweb6/Top.html

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