2014年12月1日

本研究のポイント

■食品として摂食している酵母が腸内細菌叢を変化させることにより、多発性硬化症の発症予防や治療に有効である可能性を発見。
■潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患にも効果が期待できる。
■今後他の酵母でも様々な効用が見出される可能性が示唆される。

リリース概要

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(神経内科学)の高田和城医員、中辻裕司准教授、望月秀樹教授らは、ソチなどがあるコーカサス地方に1000年以上前から伝わるケフィア※1という発酵食品に含まれている酵母カンジダ・ケフィールが、多発性硬化症※2や炎症性腸疾患※3の疾患モデル動物で症状改善に有効であることを見出しました。摂食した酵母が腸内細菌叢※4を健康に良い状態へ変化させることにより疾患を改善します。これらの発見は食生活を改善することにより難病の多発性硬化症や潰瘍性大腸炎、クローン病といった炎症性腸疾患の症状を改善できる可能性やさらに他の自己免疫疾患の予防にもつながる大変重要な知見と考えます。

本研究成果は、アメリカ神経学会オープンアクセス誌(Annals of Clinical and Translational Neurology)に12月4日に掲載されました。

研究の背景

多発性硬化症は20~40歳代女性に好発する神経難病で日本に約1万5千人余りの患者さんがいます。症状として手足のしびれ、麻痺や視力障害を来たし再発を繰り返しながら徐々に障害が強くなることが知られています。また潰瘍性大腸炎、クローン病といった炎症性腸疾患は下痢、下血、腹痛などの症状を呈する難治性腸炎です。多発性硬化症、炎症性腸疾患ともに欧米に患者数が多い疾患でしたが、近年日本において患者数が増加しており、都市化などの環境要因、特に食生活の変化が患者数増加の一因と考えられています。

研究チームは味噌、醤油、発酵乳飲料、パン、酒など発酵食品に含まれている様々な酵母が前記の難病の発症に関係しているのではないかと考え、多発性硬化症の疾患モデル動物(実験的自己免疫性脳脊髄炎、EAE)に酵母を摂食させて検討しました。そして検討した酵母のなかで、ケフィアという発酵乳飲料に使用されている酵母カンジダ・ケフィールが症状を改善させることを見出しました。その症状改善効果は腸内細菌叢をいわゆる善玉菌優位に変化させ、免疫のバランス調節に役立っていることが明らかとなりました。カンジダ・ケフィールの効果は炎症性腸疾患のモデル動物でも確認されました。

これらの研究結果は食生活によって腸内細菌叢が変化し、多発性硬化症のような神経難病をはじめ、炎症性腸疾患などの免疫介在性の疾患の発症に関わっていること示しており、食生活の改善が治療・予防法となることを示唆するものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

多発性硬化症の治療薬はインターフェロンベータ※5、フィンゴリモド※6などありますが、非常に高額であり、しばしば副作用も出現します。炎症性腸疾患も同様で、ともに治療効果は十分とは言えません。食生活の改善によって健康に良い腸内細菌を生育させ、これらの難病の発症予防、治療に繋がれば、安全、安価で患者負担の少ない理想的な医療になると考えます。

用語解説

※1 ケフィア
カスピ海と黒海に挟まれたコーカサス地方に1000年以上前から伝わる伝統的な健康食品として知られている発酵乳製品。

※2 多発性硬化症
脳、脊髄、視神経に病変をきたす自己免疫疾患で、厚生労働省の特定疾患に指定されている神経難病です。20~40歳代の女性に好発し、症状として手足のしびれ、麻痺や視力障害を来し、症状の増悪(再発)と軽減(寛解)を繰り返しながら進行してゆきます。欧米には患者さんが大変多く、若年成人で生活に支障をきたす神経疾患の筆頭にあげられる疾患です。日本には約1万5千人余りの患者さんがおられ、増加傾向にあります。

※3 炎症性腸疾患
主に腸に慢性炎症を来す疾患の総称で一般には潰瘍性大腸炎とクローン病を指します。ともに腸に慢性炎症や潰瘍を来し、下痢、下血、腹痛などを主症状とします。日本には潰瘍性大腸炎約13万人強、クローン病約3万5千人の患者さんがおられ、増加傾向にあります。

※4 腸内細菌叢
ヒトの腸内には一人当たり100種類以上、約100兆個以上の腸内細菌が生息しており、全身の免疫調節に重要な働きをしていることが近年明らかとなっています。

※5,6 インターフェロンベータ、フィンゴリモド
共に多発性硬化症の治療薬として承認されている薬剤。インターフェロンベータはヒトのリンパ球などから分泌される物質で、多発性硬化症の再発予防効果があり、患者さんはインターフェロンベータを自宅で隔日に1回、あるいは週に1回自己注射されています。フィンゴリモドは血液循環中のリンパ球を減少させることにより再発を予防する薬剤で、毎日経口で服薬します。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座(神経内科学)
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/neurol/myweb6/Top.html

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