2018年9月6日

サンプルの周辺だけ真空にしない

電子で微小なものを見る電子顕微鏡では、酸素や窒素、その他大気中のガス分子に当たると電子は容易に散乱するため、通常は顕微鏡内を真空に保つ必要がある。「これでは、金属ナノ粒子触媒などが機能している環境下で、どんな様子をしているのか見られません」。吉田准教授が用いるETEMは、サンプルの周りだけに薄い層のガスを注入する一方、ポンプを使って電子の通り道はできるだけ真空に近い状態を作る。こうして、サンプルの本来置かれている場所に近い環境での観察を可能にしている。

構造解明に向けた三つの取り組み

主な研究は三つある。第一は、カーボンナノチューブの成長の仕組みの解明。カーボンナノチューブを作れても、成長途中を原子レベルで見ることはできなかったが、吉田准教授はETEMを通して「成長途中では、鉄などの触媒は炭化鉄となり、取り込みきれなかった過飽和の炭素がカーボンナノチューブとして産生される」と明らかにした。

第二は、金ナノ粒子触媒の反応の仕組みの解明。一酸化炭素を酸化させ、毒性の少ない二酸化炭素にする際に、金ナノ粒子が触媒として機能する反応を探求した。通常の電子顕微鏡でみる真空下の金ナノ粒子と、ETEMでみる反応環境中(一酸化炭素を含む空気中)の金ナノ粒子を比べると、明らかに最表層の原子の並び方が違っていた。吉田准教授は、この違いは反応環境下で表面の金原子に一酸化炭素が吸着したために起きたと考えている。


第三は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する「熱電発電」の材料開発に関わる取り組み。発電効率の悪さゆえに、実用化が進まない熱による発電だが、センサーなど微小電力しか必要としない装置なら利用できると考えられている。吉田准教授は、熱電材料の原子スケールの構造や温度分布の分析を進めている。「熱電発電は温度差を利用した発電ですから、温度分布を知ることが大切。構造が温度分布、さらに熱電発電の性能に与える影響を知りたいと考えています。実際にナノスケールの熱電発電素子を作る際、『こういう構造にすれば性能が上がる』と提案できるようにしたいですね」

きっかけは原子が見える楽しさ

現在の研究に取り組むきっかけは、学生時代に「電子顕微鏡で原子を見た」こと。「高校までは『原子は見ることはできない』と教わってきました。しかし、つぶつぶと原子がきれいに並んでいるところを見て驚き、面白いと感じました」。大学院に進み、カーボンナノチューブの成長を電子顕微鏡で見るプロジェクトに参加した。  「出来上がったサンプルを見るだけでなく、合成の段階からTEM(透過電子顕微鏡)の中で行い、その成長過程の構造を見ることは、大変ではあるが、非常に面白いですね」

●吉田秀人(よしだ ひでと)
2007年大阪大学大学院理学研究科博士後期課程修了、理学博士。05年理学研究科特任研究員、10年産業科学研究所助教、13年より現職。

(2018年3月取材)

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