2018年8月21日

物性を予測し、研究の効率化へ

「全ての物質のもとになる原子または電子を出発点として、実験結果に依存しない理論という意味で『第一の原理』。第一原理計算では、原子番号さえ分かれば、量子力学に則った計算により、物性を調べられる。新しい素材を開発する際にも、事前に構造や状態、エネルギーを予測できます」と、下司特任准教授は説明する。
シミュレーションで有効な物質を絞り込むことで、従来の実験の積み重ねによる経験的な研究と比べ、大幅に無駄を省ける。「刑事ドラマで例えれば、実験は現場での聞き込みなどの実際の捜査活動、計算はしっかりとした物理や化学の理論に基づいたプロファイリングですね。どちらも必要な両輪です」。応用範囲は広く、ナノテク分野などでは既に必須の手法となった。「スマホにもその成果が詰まっているのですが、まだまだ世間一般からの関心は薄い」と課題を語る。

年2回のワークショップを企画

下司特任准教授が事務局を務める「CMDⓇ(コンピュテーショナル・マテリアルズ・デザイン)ワークショップ」は、計算科学技術の普及と人材育成を目的とし、2002年から年2回開催している。5日間かけて基礎から応用まで学ぶもので、大学院の単位、社会人教育プログラムの必修単位でもある。「受講者は大学院生と社会人が半々で、のべ1400人を越えました。研究室の門を叩くより気軽に参加できるので、『第一原理計算を勉強するなら、まずここへ』との認知が広がってきています」。 受講者のレベルや講義・実習内容に応じて5つのコースが設けられ、時代に合わせたニーズに応えるように発展してきている。

スパコンを使いこなせる人材の育成

『京(けい)』などの最先端のコンピュータを使い、高性能な計算を可能にするアプリケーションを開発できる人材を育成するための講義も開催している。講義はライブ配信され、全国17カ所で視聴可能。さらに録画配信も行っている。「京コンピュータに代わる『ポスト「京」』プロジェクトが進行していますが、スパコンは人間が正しく使うことができて初めて真価を発揮します。計算機を活かしたソフトウェアを開発できる人材が必要なのです」

共同研究は「シーズとニーズの出会い」

CMDワークショップを受講した企業側から声がかかり、17年には、ナノサイエンスデザイン教育研究センター内に企業との共同研究部門を設置した。企業は第一原理計算を自社の研究開発に応用するための研究を行い、同センターが支援・アドバイスをする。「大学は実用化される前の技術や知識など『シーズ』を蓄積する場所。それが企業の『ニーズ』を受けて実用化されます。この取り組みは、いわば『シーズとニーズの出会い』です。内容が具体的・実践的で、参加する院生にとっては非常に勉強になる。同時に企業の研究者のスキルを磨くことにも主眼を置いています」

●下司雅章(げし まさあき)
2000年金沢大学大学院自然科学研究科数理情報科学専攻修了。博士(理学)。National Research Council of Canada研究員、東京大学大学院工学系研究科学術研究支援員、大阪大学大学院基礎工学研究科助手/助教、大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター特任講師(常勤)、特任准教授(常勤)、東京大学物性研究所特任研究員などを経て、2016年から現職。

(2018年2月取材)

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