2014年6月5日

本研究成果のポイント

・光学顕微鏡で見ることのできる直径数ミクロンの真球形状をした単結晶を作製することに成功
・ミクロンサイズで真球の形状をした単結晶を作製したのは世界で初めて
・非常に性能の高い光共振器や効率の良い超小型レーザーを実現でき、他方面への応用にも期待

リリース概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の岡本慎也氏(当時博士後期課程学生)と芦田昌明教授らは、同大学ナノサイエンスデザイン教育研究センターおよび大阪府立大学と共同で、超流動ヘリウム※1という特殊な液体を使い、図1のような直径数ミクロン※2の真球※3形状をした単結晶※4を作製することに成功しました。単結晶はその原子配列を反映した形状、例えば直方体や六角柱などの形をとるのが普通で、光学顕微鏡で見ることのできるミクロンサイズで真球の形状をした単結晶を作ることができるのは大きな驚きで、世界で初めての成果です。

きれいな原子配列がもたらす高い性能と最も対称性の高い形状である球が示す特長を兼ね備えた真球単結晶には、従来材料を超える新たな機能が期待されます。例えば、ミクロンサイズの微小球は光を内部に閉じ込める性能が高く、非常に性能の高い光共振器※6や効率の良い超小型レーザーを実現できます。また、光科学に留まらず多方面への応用も考えられます。

研究の背景

これまでもミクロンサイズ以下の単結晶を作ることは可能でしたが、より大きなものを作ろうとすると、結晶が自分自身の好む形に成長しようとするため、複数の単結晶が集まった多結晶状態や原子が不規則に並んだアモルファス状態(ガラス)になってしまいました。従って、ミクロンサイズの真球はガラスなどの原子・分子が乱雑に配列した状態しかなく、高性能な光共振器とはなり得ますが、自分自身で効率的な発光を示せないため、光源として使う場合は別の原子や分子などの発光体を導入する必要がありました。これに対し、自分自身が高効率発光体となる結晶そのものを微小球光共振器として使用することで発光体と共振器が一体となり、格段の性能向上が図れます。

実験方法と実験結果

物質に高強度レーザーを照射してその表面を破壊あるいは融解させ、原子・分子やそれらの集合体(微粒子等)を作製する手法はレーザーアブレーションと呼ばれています。この方法を超流動ヘリウム中で行うことで、様々な材料の真球単結晶化に成功しました。物質が融解して液状になると、表面張力※7によって真球形状をとります。その真球の周囲を気化したヘリウムガスが取り囲むため、極低温の液体との直接の接触が避けられて急冷が回避される一方で、周囲のガスを媒介して液体からの等方的な圧力を受けながら冷却していくため、結晶特有の形状に変化することが抑制されます。この絶妙な条件がミクロンサイズの真球単結晶を作製できる要因であると考えられます。

作製された微粒子のうち、ミクロンサイズのものは光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡※8で、より小さなものは透過型電子顕微鏡で観察することができました。そのようにして得られた画像の一つが図1です。六角柱を示すことで有名なZnOが真球形状をとっていることがわかります。さらに、作製されたサブミクロンサイズのZnO真球単結晶の透過型電子顕微鏡像を図2(左)に示します。真球形状を示している上、図2(右)には原子配列に対応する格子縞と呼ばれる構造が観測されています。球の表面まで原子の規則正しい配列が続いており、表面が原子スケールで平坦であることもわかります。

さらに、直径2μm程度のZnO真球単結晶を紫外線照射すると、図3に示すような発光を生じました。十数本の鋭い線は真球が光共振器としてはたらいたことによるレーザー発振線に対応し、目で見える最もエネルギーの小さな1.8eV付近から紫外線に相当する3.4eV付近まで、可視光全体をカバーしており、ミクロンサイズの白色レーザーとなっています。電子回路に代わり格段に省エネな光回路の利用が検討されている今日、その光源として利用することも可能です。

本研究成果の意義

上で取り上げたZnO以外にも、異方的な結晶構造を示すCdSe, ZnSeといった物質にこの手法を適用して真球単結晶を作ることに成功し、さらにそれらの高効率なレーザー発振を観測しています。従って今回の手法は、非常に多くの物質の真球単結晶を作製できる一般的なものであると考えられます。

真球単結晶は、光の波長を変換する、光で光の強度などを変化(させて光のスイッチと)する、などの非線形光学素子と呼ばれるものとして、従来材料の特性を大幅に上回る可能性があります。一方、真球形状に加えて表面が原子スケールで滑らかなため、周囲との摩擦が小さく、潤滑剤としての利用や薬を体内に運搬するいわゆるドラッグデリバリーへの応用など、光科学以外の様々な分野への適用が考えられます。

特記事項

本成果は大阪大学大学院基礎工学研究科の岡本慎也氏と稲葉和弘氏(当時博士後期課程学生)、芦田昌明教授、ナノサイエンスデザイン教育研究センターの市川聡特任准教授、および大阪府立大学の飯田琢也准教授、石原一教授との共同研究によるものです。また、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究Bおよび挑戦的萌芽研究の助成を受けました。英科学誌ネイチャーパブリッシング・グループの電子ジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」に平成26年6月5日付けで公開されます。(論文題目” Fabrication of single-crystalline microspheres with high sphericity from anisotropic materials”)

参考図

図1 作製したZnO※5真球単結晶の走査型電子顕微鏡像

図2 作製したZnO真球単結晶の透過型電子顕微鏡像(左)とその拡大図(右)

図3 作製したZnO真球単結晶の発光スペクトル(光のエネルギーを横軸に、発光強度を縦軸にとったグラフ)

用語解説

※1 超流動ヘリウム
水素に次いで軽い元素であるヘリウムは、大気圧ではどれだけ低温にしても固化しないため、その沸点であるマイナス269℃以下の極低温状態を実現するのに用いられます。その温度をマイナス271℃以下にすると、超流動状態という、物質に対する摩擦力に相当する粘性が無視できるほど小さくなる状態に変化します。この液体は普通の液体と異なり、数々の異常な性質を示すことが知られています。

※2 ミクロン
正式にはマイクロメートル(百万分の一メートル)とすべきですが、以前はこの名称が使われていたため、今でもこのように呼ぶことがあります。ここでは、より身近で簡潔な表現でもあると考え、敢えてこの呼び方を使いました。

※3 真球
ミクロンサイズ以下の微小なサイズの粒子、いわゆる微粒子のうち、多面体形状をしていないものは微小球と呼ばれることが多く、その真球度(球形にどの程度近いかを表す指標)は問題にされません。ここでは特に真球度の高さを強調するため、「真球」と称しています。

※4 単結晶
物質全体にわたって原子が規則正しく配列した状態で、配列が不規則なアモルファスや小さな結晶が集まってできる多結晶とは異なり、電気伝導や光学特性が非常に優れているのが特長です。パソコンなどで使われている大規模集積回路や半導体レーザーなどは、全て品質の良い単結晶を材料として作られます。

※5 ZnO
透明な半導体(不純物添加等で電気伝導度を制御可能な物質)で、紫外線や可視光の発光材料としても期待されています。日本語名は酸化亜鉛で、化粧品にも使われている身近な物質です。

※6 光共振器
特定の波長(振動数)をもつ光を閉じ込め、その選択・増幅など、光の制御を行う装置です。

※7 表面張力
液体の表面の分子に、その表面積が最も小さくなるようにはたらく力で、このために自由空間中の液体は球状になります。

※8 電子顕微鏡
光を使った普通の顕微鏡、すなわち光学顕微鏡の空間分解能(どれだけ小さなものが観察できるか)は使用する光の波長程度です。電子の波長は光の波長よりも遙かに短いため、原子サイズの空間分解能をもつ観察が可能です。電子を物質に照射した際、表面から生じる二次電子を観測することで表面形状を調べる走査型電子顕微鏡と、物質を透過した電子を観測することで物質の内部の様子も調べることができる透過型電子顕微鏡があります。

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻未来物質領域微小物質ダイナミクス講座
http://laser.mp.es.osaka-u.ac.jp/

論文URL
http://www.nature.com/srep/2014/140605/srep05186/full/srep05186.html

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