2020年1月24日

発表のポイント

・スーパーコンピューターを用いた計算により,炭素と酸素の原子核からなる分子共鳴の存在を予言。
・超新星爆発の際に,マグネシウムやケイ素の原子核が大量に作られる可能性を示唆。
・宇宙に存在する物質の起源解明に期待。

概要

北海道大学大学院理学研究院の木村真明准教授と香川高等専門学校情報工学科の谷口億宇講師の研究グループは,元素の起源となる分子共鳴※1の存在を予言しました。

超新星爆発の際に起こる炭素と酸素の核融合反応が,元素の起源に重要な役割を果たすことは以前から予想されてきました。しかし,地上の加速器で超新星爆発と同じ環境を再現し,実験を行うことは極めて難しいため,理論研究による検証が待たれていました。

今回,研究グループは炭素原子核の「回転効果」などを取り入れた,最新の理論モデルによるシミュレーションを行いました。具体的には,ケイ素原子核の構造をスーパーコンピューターによる数値シミュレーションで調べたところ,炭素と酸素の原子核同士が弱く結合した分子共鳴が,これまでの観測よりもずっと低い極低エネルギーに存在する可能性を指摘しました。この分子共鳴の存在により超新星爆発の際に炭素と酸素の核融合反応が爆発的に起こり,マグネシウムやケイ素の原子核が大量に作られる可能性があります。

今後,研究グループは同様のシミュレーションによって炭素と炭素の核融合反応なども調べ,分子共鳴の性質を包括的に解明する計画です。これにより,超新星爆発の際にどのような元素がどれほど作られているのかが明らかになり,宇宙に存在する元素の起源解明につながると期待されます。

なお,本研究成果は,2020年1月10日(金)公開のPhysics Letters誌に掲載されました。

図1 (左)分子動力学模型によって計算した,分子共鳴の密度分布。(右)分子共鳴のエネルギー。赤丸が,今回新たに見つかった分子共鳴。

背景

私たちの身の回りや宇宙に存在する元素は,星の内部や超新星爆発,中性子星の合体などの天体現象の際に,核融合反応によって作られたと考えられています。その一つである超新星爆発の際の炭素や酸素原子核の核融合反応は,超新星爆発の頻度や強度,宇宙に存在するマグネシウムやケイ素の量に大きく影響を及ぼすことが指摘されています。超新星爆発の環境を地上の実験で再現することは困難なため,シミュレーションによる解析が必要ですが,従来のシミュレーション解析では以下で述べる「回転効果」などが十分に取り入れられておらず精度が不十分なため,より高精度な研究が求められていました。

研究手法

本研究では,原子核を構成する陽子と中性子の運動を波束で記述する「反対称化分子動力学模型」を用いて,分子共鳴の性質を調べました。炭素原子核は鏡餅のように扁平な形状を持つため,分子共鳴を形成する際に様々な方向を向くことができます。この「回転効果」を記述するために,方向の異なった炭素原子核の波動関数を重ね合わせ,分子共鳴のエネルギーとその発現メカニズムを明らかにしました。

研究成果

数値シミュレーションの結果,高いエネルギー領域と低いエネルギー領域の両方に分子共鳴が存在することがわかりました。このうち,高いエネルギー領域の分子共鳴は,すでに測定された実験データと良く一致し,本研究の計算の信頼性が示されました。一方,低いエネルギー領域の分子共鳴は,炭素原子核の回転効果などによって作られており,実験での直接測定は難しいものの,超新星爆発の際に核融合反応を促進すると考えられます。

今後への期待

研究グループは,今後さらにシミュレーション研究を進め,分子共鳴の性質を包括的に明らかにしていく計画です。それによって,私たち自身や宇宙を形作っている元素がどこで作られているのか,また超新星爆発などの超高エネルギー天体現象がどのようにして起こっているのか,その詳しい様子が明らかになると期待されます。さらに,核融合反応の理解を深化させることで,エネルギー生産や物質創生など未来の技術開発への貢献が期待されます。

なお本研究は,服部報公会工学研究奨励援助金「パウリ原理を取り入れた量子分子動力学模型による原子核の構造変化及び反応シミュレータ開発」,大阪大学核物理研究センタープロジェクト研究「新しい反応プローブを用いた,原子核クラスターの理論研究」,日本学術振興会科学研究費助成事業(19K03859),筑波大学計算科学研究センターの学際共同利用プロジェクトの一環として行われました。

論文情報

論文名:12C+16O molecular resonances at deep sub-barrier energy(深クーロン障壁エネルギーの炭素-酸素分子共鳴)
著者名:谷口億宇1,3,木村真明2,31香川高等専門学校情報工学科,2北海道大学大学院理学研究院,3大阪大学核物理研究センター協同研究員)
雑誌名:Physics Letters(物理学の専門誌)
DOI:10.1016/j.physletb.2019.135086
公表日:2020年1月10日(金)

用語解説

※1 分子共鳴
原子核と原子核とを衝突させると,電気力による反発力と,陽子や中性子との間に働く核力による引力の両方が働く。それらがうまくバランスすると,2つの原子核が結合した分子状の準安定状態が作られることがあり,これを分子共鳴と呼ぶ。分子共鳴が存在すると,原子核反応が促進されることが知られており,宇宙で様々な元素が合成される際に重要な役割を果たしていると考えられている。

参考URL

大阪大学 核物理研究センター
https://www.rcnp.osaka-u.ac.jp

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