工学系

2020年10月22日

研究成果のポイント

・従来の倍の速度で増殖し、組換え糖タンパク質を速く生産可能なチャイニーズハムスター肺由来細胞(CHL-YN細胞)を樹立した。抗体医薬、ワクチン、等の生産系の構築時間を最大半分にできる可能性がある。
・CHL-YN細胞は、動物由来成分を含まない完全合成培地による無血清浮遊馴化培養に成功し、純度試験による生物学的安全性が確認されていて、産業応用がすぐに可能である。
・権利関係にとらわれない、CHO細胞に代わる日本発のオリジナル宿主細胞となることが期待される。

概要

大阪大学大学院工学研究科の山野-足立範子助教、大政健史教授らの研究グループは、高増殖で組換えタンパク質を速く生産可能なチャイニーズハムスター肺由来細胞を樹立することに成功しました。チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の卵巣由来細胞(Chinese hamster ovary:CHO細胞)は、組換えタンパク質の高度な翻訳後修飾※1が可能、無血清馴化培養※2が可能などの理由により、タンパク質医薬品の生産宿主細胞※3として多用されています。今回、大政教授らの研究グループは、従来のCHO細胞に代わる高生産宿主細胞の開発を目的とし、チャイニーズハムスター肺組織の初代培養から、新規Chinese hamster lung(CHL)-YN細胞の樹立を行いました。本細胞は、CHO細胞と同じ無血清培地(完全合成培地※4)への馴化に成功し、純度試験(無菌試験・マイコプラズマ否定試験・in vitroウイルス試験・逆転写酵素活性試験)による生物学的安全性が確認できました。また、増殖は従来のCHO細胞と比較して約2倍速く、等量の糖タンパク質をより短期間で生産することができました。これにより、CHL-YN細胞が、今後、CHO細胞に代わる日本発のオリジナル宿主細胞となることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に、日本時間10月19日(月)午後6時(英国時間10月19日(月)午前10時)に公開されました。

図1 CHL-YN細胞(RIKEN BRC 細胞材料開発室―CELL BANK-ホームページより)

研究の背景

チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)の卵巣由来細胞(Chinesehamster ovary:CHO)細胞は、生産したタンパク質の高次構造の形成や糖鎖修飾などの高度な翻訳後修飾が可能、無血清馴化培養が可能などの理由により、タンパク質医薬品生産宿主細胞として多く利用されています。一方で、CHO細胞は大腸菌や酵母など他の宿主細胞と比較すると増殖が遅いこと、また商用利用するためには高額なライセンス料が必要となる等の課題がありました。

この度、チャイニーズハムスター肺組織の初代培養から新規に細胞を樹立することで、増殖が従来のCHO細胞と比較して約2倍速く、糖タンパク質をより速く生産可能なCHL-YN細胞を得ることに成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、CHL-YN細胞が、今後、権利関係にとらわれない、CHO細胞に代わる日本発のオリジナル宿主細胞となることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に、日本時間10月19日(月)午後6時(英国時間10月19日(月)午前10時)に公開されました。

タイトル:"Establishment of fast-growing serum-free immortalised cells from Chinese hamster lung tissues for biopharmaceutical production"
著者名:Noriko Yamano-Adachi, Rintaro Arishima, Sukwattananipaat Puriwat, and Takeshi Omasa
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-020-74735-0

なお、本研究は、経済産業省の「平成25年度個別化医療に向けた次世代医薬品創出基盤技術開発(国際基準に適合した次世代抗体医薬等製造技術)」及び平成26年度次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(国際基準に適合した次世代抗体医薬等製造技術))」、及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」の研究(次世代バイオ医薬品製造技術研究組合)の一環として行われました。

用語説明

※1 翻訳後修飾
合成されたタンパク質は、その後の糖鎖付加などの化学的な修飾により、その機能が調節される。

※2 無血清馴化培養
血清を使用しない培地(無血清培地)に細胞を馴化させること。動物由来成分である血清は、ウイルス感染のリスクを上げることが知られている。また、細胞を無血清培地に馴化させることで、細胞を浮遊状態で培養することが可能となり、高密度かつ大規模な培養を容易に行うことができるようになる。

※3 宿主細胞
生産するための細胞。外来遺伝子をホスト(宿主)となる宿主細胞に導入し、宿主細胞内で外来遺伝子を発現させることで、組換えタンパク質が生産される。

※4 完全合成培地
化学的な成分が明らかな培地。動物由来成分を含まず、既知の成分を合成して組み合わせている。

参考URL

工学研究科 大政研究室HP
http://www-bio.mls.eng.osaka-u.ac.jp

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