「未来科学捜査」歩容鑑定

「未来科学捜査」歩容鑑定

世界初、たった1枚の画像からの歩容認証に成功!

2020-9-15工学系

研究成果のポイント

・1枚の歩行画像で分析可能な歩容認証 手法を開発し、従来手法と比較して、認識誤り率を約15分の1に低減
・従来の歩容認証手法では、認証に用いる画像枚数が減ると大幅に認証精度が低下していたが、1枚の歩行画像から1周期(左右2歩)分の歩行映像を復元することで精度を改善
・本技術により、たった1枚の歩行スナップ写真からの歩容鑑定、全身像が一瞬しか見えないような混雑環境下での防犯・監視応用、リアルタイムのアクセスコントロールへの応用等が期待

概要

大阪大学産業科学研究所の八木康史教授・槇原靖教授らの研究グループは、1枚の歩行画像で分析可能な歩容認証手法を世界で初めて開発しました。

従来の歩容認証手法は、1周期(左右2歩の約1秒分)の歩行映像を用いるものが主であり、認証までのタイムラグが生じること、また、混雑環境下で全身像が一瞬しか観測されない状況では利用が困難といった問題がありました。また、任意枚数の歩行画像を入力とする歩容認証手法も提案されていますが、入力の歩行画像の枚数が1枚になると、認証精度が大幅に低下するという問題を抱えていました。

今回、本研究グループは、1枚の歩行画像から1周期分の歩行映像を復元する深層学習モデルを開発し、歩容認証のための深層学習モデルと共にモデルパラメータを学習することで、従来手法と比較して、認識誤り率を約15分の1に低減することに成功しました。これにより、たった1枚の歩行スナップ写真からの歩容鑑定、全身像が一瞬しか見えないような混雑環境下での防犯・監視、リアルタイムのアクセスコントロール等への応用が期待されます。

本研究成果は、コンピュータビジョンに関する第16回欧州会議(ECCV2020,会期: 2020年8月23日~28日)において、発表されました。

研究の背景

歩容認証は、カメラから遠く離れた場所でも利用できる唯一のバイオメトリクス(生体情報) として、防犯カメラ映像を用いた科学捜査への活用が進んできました。従来の歩容認証手法は、1周期(左右2歩の約1秒分)の歩行映像を用いるものが主であり、認証までのタイムラグが生じること、また、混雑環境下で全身像が一瞬しか観測されない状況では利用が困難といった問題がありました。また、任意枚数の歩行画像を入力とする歩容認証手法も提案されていますが、入力の歩行画像の枚数が1枚になると、認証精度が大幅に低下するという問題を抱えていました。

今回、本研究グループは、1枚の歩行画像から、その位相(歩行姿勢)を推定しつつ、1周期分の歩行映像を復元する深層学習モデルを開発しました。1周期分の歩行映像が復元されると、従来の様々な歩容認証手法と組み合わせて用いることが可能になります。そこで、復元した1周期分の歩行映像を入力した歩容認証の深層学習モデルと1周期復元の深層学習モデルを組み合わせて、双方のモデルパラメータを全体最適化によって学習する枠組みを構築しました (図1) 。約10,000人を含む公開歩行映像データベースを用いて認証精度の評価実験を行い、従来手法と比較して、本人認証 における等価誤り率 を約15分の1に低減し、個人識別 (登録人数を約5,000人とした場合)における1位認証率 を約5.5倍に改善することに成功しました。

図1 1枚の歩行画像からの1周期復元による歩容認証

本研究成果が社会に与える影響

本研究成果により、1枚の歩行画像しか利用できない場面や、リアルタイム性が必要とされる場面においても歩容認証が利用可能になります。これにより、例えば、犯行現場で目撃情報として得られた犯人の1枚の歩行スナップ写真から歩容による鑑定を実施すること、混雑環境下において全身像が一瞬しか見えず少数の歩行画像しか利用できない状況でウォッチリストを検出・監視すること、アクセスコントロ-ルのために入退室を許可された人物か否かをリアルタムに判断すること等、様々な応用展開が期待されます。

特記事項

本研究成果は、コンピュータビジョンに関する第16回欧州会議(ECCV2020,会期:2020年8月23日~28日)において、発表されました。

タイトル:"`Gait Recognition from a Single Image using a Phase-Aware Gait Cycle Reconstruction Network"
著者名:C. Xu, Y. Makihara, X. Li, Y. Yagi, and J. Lu

なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A)JP18H04115、基盤研究(A)JP20H0060、新学術領域研究JP19H05692の一環として行われました。

参考URL

産業科学研究所 八木研究室HP
http://www.am.sanken.osaka-u.ac.jp/index-jp.html

用語説明

歩容認証

歩行映像中に含まれる歩き方(歩幅・腕振りの大きさ・背筋の伸び等)の個性に基づいて個人を認証する技術である。他のバイオメトリクスと異なり、低解像度の画像であっても利用可能であることから、カメラから遠く離れた場所にいる対象であっても認証できるという特徴を持つ。

バイオメトリクス(生体情報)

各個人が身体的もしくは行動的に持つ固有の情報で、例えば、身体的特徴としては、DNA、指紋、静脈、光彩、顔等があり、行動的特徴としては、筆跡、声、歩容等がある。

本人認証

ある一組のバイオメトリクス特徴が与えられた時に、それらが本人同士であるか他人同士であるかを判定する問題である。一対一認証とも呼ばれる。与えられた一組のバイオメトリクス特徴間の相違度(違いの度合い)を計算し、それがある閾値よりも小さければ本人同士として判定し、そうでなければ他人同士として判定する。

等価誤り率

本人認証における、他人受け入れ誤り率(本当は他人同士であるにも拘わらず、誤って本人同士として判定する誤り率)と本人拒否誤り率(本当は本人同士にあるにも拘わらず,誤って他人同士として判定する誤り率)が釣り合うように閾値を設定した場合の誤り率である。

個人識別

複数人物のバイオメトリクス特徴が登録されている時に、その内の一人のバイオメトリクス特徴が新たに入力として与えられた時に、その入力が登録されているどの人物であるかを特定する問題である。一対多認証とも呼ばれる。一般的には、入力と各登録のバイオメトリクス特徴間の相違度を計算し、最も相違度が小さくなる登録人物を識別結果とする。

1位認証率

個人識別において、最も相違度が小さくなる登録人物と、実際の入力の人物が一致する率、即ち、正解率である。