配線接合部のクラック発生"音”を捉える!故障の予測診断法を開発

配線接合部のクラック発生"音”を捉える!故障の予測診断法を開発

ドローンや6G に至る高速大容量通信などへの実用化に期待

2020-10-15工学系

研究成果のポイント

・SiCパワーモジュール の熱サイクル疲労により、配線接合部分で発生する微小クラックの振動を、AE(Acoustic-Emission) の圧電センサで正確かつリアルタイムに読み取ることを実現
・微小クラック発生時の音をカウントして積算することで、デバイス内の亀裂進展度を見積もり、新たな故障診断の予測方法を開発
・本研究成果により、パワーモジュールの運用管理が適切に行われ、動作中の故障を回避することができ、安全安心かつ軽量低コストの低損失電力変換機器が実用化

概要

大阪大学産業科学研究所フレキシブル3D実装協働研究所の陳伝彤特任准教授(常勤)、菅沼克昭特任教授らの研究グループは、SiCパワーモジュールの配線接合部分の微小なクラックが発生するときの微小振動を、AEの圧電センサで正確かつリアルタイムに音信号を読み取ることに世界で初めて成功しました。

本研究グループは、パワーモジュールの寿命診断を行うデータ取得技術に対し、熱サイクル疲労に起因するアルミリボンワイヤー接合部分の微小なクラックが発生するときの微小振動をAEの圧電センサで読み取り、その振動をカウントして積算していくことで、最終的に故障に至る時期を予測できる可能性があることを突き止めました。分析の結果、AEによるデータは、断線故障時期に近づくに従い計測数が増加していることが分かりました。従って、このAEデータをセンシングすれば、パワーデバイス中の故障に至る寿命の時期がかなり正確に判断できます。

今後は、高温環境下で微小振動が検出できる小型のAEセンサを開発することと、実使用を想定した小型のAEセンサがパワーモジュールに内蔵することで、パワーデバイスやEV/HEVやドローンなどの電動移動体、5Gから6Gに至る高速大容量通信などへの実用化が期待できます。

本成果は、日本時間9月19日(土)にアメリカ電気電子学術誌「IEEE transactions on power electronics」にオンライン( https://ieeexplore.ieee.org/document/9200556 )で公開されました。

図1 AE(Acoustic-Emission)の圧電センサでパワーモジュール接合部疲労による劣化検出技術

研究の背景

これからのWBG半導体 は、200°C~300°Cの環境下で動作することが求められますが、WBG半導体を用いたパワーモジュールは実使用環境下で室温~300°C近辺の温度プロセスが何度も繰り返されるため、金属接合部材とセラミック部材との熱膨張率の差により繰り返し熱疲労の影響を受け、接合部破断、配線部の断線などによる故障が生じやすいという問題がありました。これは、半導体や絶縁基板(主にセラミックス)と、接合部分(主に金属)の熱膨張率差に起因するもので、熱サイクルが繰り返されるパワーモジュールでは避けて通れない問題です。このような故障は突然発生するため、使用中の故障トラブルを回避するために、システムに冗長性を持たせる手段などが講じられています。

従来の方法では、電圧変動や熱抵抗変動などのパラメーターで故障を検知できましたが、 (図2) の黒線に示されたように、モジュールに印加される電圧が、電圧値の断線故障が生じるまでの変化が少なく、このデータだけでは故障直前の時期を判別することが難しい状況でした。一方、AEによるデータでは、断線故障時期に近づくに従い計測数が増加していることがわかるため、このAEデータをセンシングすればリアルタイムで初期き裂の発生、進展と故障に至る寿命の時期がかなり正確に判断できると考えられます。結果的に、パワーデバイスの「故障予測」「寿命予測」が可能となる高精度、高品質の劣化検知システムが実現できます。

図2 パワーサイクル試験中にパワーモジュールに印加される電圧(黒線)とAEによるデータ信号(赤点)の検出

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、パワーモジュール動作中に故障する問題を回避することができ、またシステム冗長性を低減することもできるので、全体として軽量・低コスト化するだけではなく、SiCやGaNが広い範囲で使われることで、あらゆる電力変換機器の損失を低減することが可能となります。そのため、EV車の普及にもつながり、市場の拡大とともにエネルギーロスの削減にもつながるため、小型化や低消費電力化に貢献できます。

特記事項

本成果は、日本時間9月19日(土)にアメリカ電気電子学術誌「IEEE transactions on power electronics」にオンライン( https://ieeexplore.ieee.org/document/9200556 )で公開されました。

タイトル:"Real-time acoustic emission monitoring of wear-out failure in SiC power electronic devices during power cycling tests"
著者名:Chanyang Choe, Chuantong Chen, Shijo Nagao, Katsuaki Suganuma
DOI:10.1109/TPEL.2020.3024986

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)ALCA「高周波化を実現するGaNパワーモジュール実装技術開発」の一環として行われました。

研究者のコメント

大阪大学産業科学研究所フレキシブル3D実装協働研究所では、パワー半導体の実装技術において、特に熱に関連する研究開発を推進してきました。放熱性をより向上させる接合技術の開発と併せ、実使用下で発生している熱衝撃サイクルによる接合部の疲労劣化による破損が原因となるモジュールの故障に対し、疲労劣化の発生メカニズム解明とその検出方法の検討を行い、電圧変動、過渡熱特性変動などを調べている過程で、微小クラック発生時の微小振動をカウントすることで破損に至る過程が分析できることを独自に見出しました。これらの結果を元に、AEセンシング、電圧変動センシング、過渡熱変動センシング等を組み合わせ、より精度の高いパワーモジュール寿命予測法が開発できると思います。

参考URL

産業科学研究所 フレキシブル3D実装協働研究所HP
http://www.f3d.sanken.osaka-u.ac.jp/#/

用語説明

パワーモジュール

電力を制御するパワー半導体チップや絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などのパワーデバイスの駆動回路や自己保護機能を組み込んだ電力用半導体素子である。

AE(Acoustic-Emission)

AE法:

AE(Acoustic-Emission)波を材料表面に設置したAEセンサ(圧電素子センサ)によって電気信号に変換して検出し、破壊や変形の様子を非破壊的に評価する手法をAE法と呼ぶ。AEは、材料が破壊に至る前の小さな変形や微小クラックの発生に伴って発生するので、AEの発生挙動を捉えることで、材料や構造物の欠陥や破壊を発見・予知することができる。

WBG半導体

ワイドギャップ半導体との意味で、バンドギャップの大きい半導体を指す。ここでいう「大きい」は相対的なものではっきりとはしないが、シリコンのバンドギャップが1.12eVであることから、その2倍程度である2.2eV程度以上のバンドギャップを持つ場合にワイドギャップと呼ぶことが多い。