工学系

2020年9月11日

 

研究成果のポイント

・大きな結晶構造変化を起こす二酸化バナジウムのMEMS※1を用いたマイクロアクチュエータのナノ精密変位制御・高速動作の実証に成功。
・これまでのピエゾ効果※2、モーター駆動を利用したアクチュエータとは異なり、結晶構造変化を利用することで高速でナノレベルでの精密な変位制御ができるマイクロアクチュエータの開発に世界で初めて成功。
・高速機械スイッチ、マイクロロボットの精密制御を実現する技術として期待される。

概要

大阪大学産業科学研究所の神吉輝夫准教授・イタリアCNR研究員Luca Pelligrino氏、Manca Nicola氏・ジェノバ大学Daniele Marré教授との共同研究グループは、二酸化バナジウムの構造相転移を利用したマイクロアクチュエータを開発、ナノレベル精密変位制御・高速動作を世界で初めて実現しました。

今回、70°C付近で結晶構造相変化※3を起こす二酸化バナジウムを用いた酸化物MEMS技術によりV字ブリッジ構造をデザインし弱いパルスレーザー光照射により、最大2kHzの高速で数百ナノメートルのリニア変位※4を起こすマイクロアクチュエータを実現しました。今回の成果は、酸化物の結晶構造変化を利用することでナノレベルの精密な変位制御とMEMSデザインを施すことでリニア変位を起こすことを証明したものです。結晶構造変化とMEMSデザインの両者を活用しナノレベルでの高速動作アクチュエータを動作実証した世界で初めての例です(図1)

今後は、さらにMEMSデザインを施すことで、回転変位、多軸変位ができる高機能マイクロアクチュエータの開発が進み、マイクロロボティクスへの応用が期待されます。

本成果は、日本時間8月26日(水)にアメリカ化学会学術誌「Nano Letters(ナノレター)」にオンライン速報(https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.nanolett.0c02638)で公開されました。

図1 V字タイプマイクロアクチュエータ(左)、結晶構造変化に伴うリニア変位(300nm)を実証(右)

研究の背景

これまで、MEMS技術によるマイクロアクチュエータの研究開発は、変位原理として静電引力を利用した静電効果、電圧によるピエゾ効果、磁石による磁歪効果、熱による伸縮変化を中心に研究されてきました。変位に要する時間がかかり履歴現象も生じることから、精密制御・高速動作には困難な原理で制御されてきました。

本共同研究グループでは、大きな結晶構造変化を引き起こす酸化物結晶の構造相変化を原理としたアクチュエータの開発に取り組み、長年来酸化物MEMS技術を磨いてきました[Advanced Materials 29, 1701618 (2017), Advanced Material 25, 6430 (2016), Appl. Phys. Exp. 7, 023201 (2014)など]。今回の成果は新原理とMEMS技術の両輪によって2kHz高速動作(図2)、ナノ変位制御がシンプルに行えることが最大の成果で、アクチュエータ技術の発展をもたらすものと期待できます。

図2 光パルスによる熱により相転移温度に達し、室温と70°C以上の熱変化を光パルス周波数を変化させ変位状態を観測したものである。2kHz付近まで変位が追随していることが分かる。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、高速な機械スイッチ、マイクロロボットの精密動作制御が期待されます。ロボットの動作精密制御をシンプルな素子で省電力・高速・精密動作できるアクチュエータの開発は将来の医療・エネルギー問題を解決する一役を担うことが期待され、本研究での新規アクチュエータの提案は大きな意義があります。

特記事項

本研究成果は、2020年8月26日(水)0時(日本時間)に米国化学会学術誌「Nano Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:"Planar Nanoactuators Based on VO2 Phase Transition"
著者名:Nicola Manca, Teruo Kanki, Fumiya Endo, Daniele Marré and Luca Pellegrino
DOI :https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.0c02638

なお、本研究は、日本学術振興会二国間交流事業「機能性酸化物ナノ電気機械素子による巨大電気-機械変換と高感度センシングの実証」の一環として行われました。

用語説明

※1 MEMS
「微小な電気機械システム(Micro Electro Mechanical Systems)」の略称で機械要素部品のセンサ・アクチュエータ・電子回路などをひとまとめにしたミクロンレベル構造を持つデバイスである。

※2 ピエゾ効果
ピエゾ効果とは電圧を加えることで結晶が変位する現象のことである。

※3 結晶構造相変化
結晶構造が、温度、電圧、圧力によって異なる構造へ変化する現象で、格子定数の大きさがかわる。単結晶の場合は変位する方向が揃うので大きな変位効果が期待できる。

※4 リニア変位
直線的に前後に移動すること。

研究者のコメント

今後の発展として、単結晶二酸化バナジウム薄膜にMEMSデザインを施すことによりこれまでの変位効率がさらに10倍以上になることが予想されます。単結晶二酸化バナジウムの大きな異方性変位制御は非常にセンシティブですぐに壊れてしまう問題点がありますが酸化物MEMS技術をさらに発展させ従来以上の高効率で高速なマイクロ/ナノアクチュエータの研究開発を行っていきたいと思います。

参考URL

産業科学研究所 産業科学ナノテクノロジーセンター 田中研究室HP
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/bis/

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