自然科学系

2020年8月26日

研究成果のポイント


・二種類の高分子を混合することで、傷を自然に修復できる非常に強靭な材料を創製。
・一般的な混合装置「遊星型ボールミル」で実現。
・分子設計と混合法によって、これまでにない迅速な自己修復を実現。
・材料を再度混合することで、リサイクルが容易に可能に。高分子材料が長寿命化し、低環境負荷に貢献。

概要

大阪大学大学院理学研究科博士後期課程3年の朴峻秀さんと大﨑基史特任講師(常勤)、同高等共創研究院(兼任・大学院理学研究科)の髙島義徳教授、同産業科学研究所の原田明特任教授(常勤)、山形大学大学院有機材料システム研究科の松葉豪教授らのグループは、高速に自己修復するゴム・エラストマー材料を作製することに成功しました。

今回本研究グループは、二種類の高分子化合物を合成し、これを遊星型ボールミルという一般的な混合装置で混ぜ合わせることで、強靭であり、さらに自己修復機能※1をあわせもった、何度もリサイクル可能な超分子材料※2を得ました(図1)。本研究グループでこれまでに合成してきた超分子材料と比べ、性能に優れ、工程も簡単で、産業への応用がさらに容易になり、次世代材料である自己修復性超分子材料の普及を推進するものと期待されます。例えば、機械や電子機器、自動車、航空機、ロボットの表面保護コートとして利用できます。傷ついてもすぐに修復するため、これらの製品のメンテナンスの手間が大きく低減されます。

この材料の機能とその機構を解明した研究成果は、国際学術誌「Advanced Materials」にて8月26日(水)午後7時(日本時間)に公開されました。

図1 本研究で開発した強靭で自己修復性を有するリサイクル可能な超分子材料
(a)自己修復やリサイクルを可能とする分子間相互作用の様子。(b)超分子材料のコーティングに傷を入れてもすぐ元通りに戻る。(c)破壊された超分子材料を遊星型ボールミルで再成型して元の状態に戻すことができる。

研究の背景

高分子材料(ポリマー※3材料)は軽くて柔らかく製造も比較的簡単で、その発見以来、我々の生活に欠かせない材料です。しかし、近年、廃棄プラスチックによる環境汚染や原料となる資源の枯渇などの問題に直面しており、高分子材料の強靭化・長寿命化がこの数十年特に求められています。分子の間の力を利用した超分子材料は、強靭な材料であるだけでなく、材料がダメージを受けても自然に治る性質をもっており、上記の課題の解決に有望な材料です。この材料を機能強化し、さらに、製造過程を簡便にすれば、実用化へのハードルは下がります。

研究の内容

上記の研究グループは、ホストポリマーとゲストポリマーという二種類の高分子化合物(ポリマー)を合成し、これを遊星型ボールミルという一般的な混合装置で混ぜ合わせることで、二種類のポリマーがホスト-ゲスト相互作用※4とよばれる弱い分子の間の力で組み合わさった超分子材料を得ました。このとき、より強い混合力を与えることで、得られる超分子材料がより強靭になることを発見しました。ボールミルの強い力が絡み合った紐のような二種類のポリマーをよくほぐし、強力に混ぜ合わせることで、ポリマーを分子レベルで動きやすくし、ホスト-ゲスト相互作用のもつ性能・機能を最大限に発揮しました。

この材料でコーティング膜を作り、その表面に傷を入れると、ほんの数秒で傷が消失しました。ホスト-ゲスト相互作用はポリマー中の分子間で何度もくっつけたり離したりできるために、超分子材料は傷を修復し、まるで生命のような自己修復挙動を示しました(図2)。また、傷の修復と同じ理由で、超分子材料を完全にバラバラに破壊しても、もう一度混合処理を行うことで、材料を元の形に再生使用することができ、強度も回復しました。

図2 超分子材料の構造とその自己修復機能(表面傷の回復)
(a)ボールミル処理後の超分子材料の内部構造。巨視的に高分子の絡み合いが塊として存在し、塊は自由に動ける高分子鎖(ホストポリマーとゲストポリマー)からなる。両ポリマーの間ではホスト分子とゲスト分子とのホストーゲスト相互作用が働き、両ポリマーを繋ぐ。(b)材料の表面に傷を入れた直後の顕微鏡写真。イメージ処理して傷の断面積を計算した。(c)60°Cで10分間静置した後の顕微鏡写真。傷が完全に消失した。

本研究成果が社会に与える影響

本研究によって、強靭で自己修復性を有したリサイクル可能な超分子材料が得られました。この超分子材料の作製技術は、現在広く一般に使われている様々な種類のゴム、プラスチック類に応用が可能で、次世代材料を創る新たなアプローチとなります。今回示した二種類の高分子を混ぜ合わせる方法は非常に簡便で、超分子材料の実用化を大きく推し進める魅力的な手法と考えます。超分子材料が社会に広がり、ポリマー材料を長寿命化、メンテナンスフリー化することで、上記の環境問題を含む様々な社会課題の解決へつながることが期待されます。

図3 期待される超分子材料の製品・用途

特記事項

本研究成果は、2020年8月26日(水)午後7時(日本時間)に国際学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載されました。
タイトル: Extremely Rapid Self-Healable and Recyclable Supramolecular Materials through Planetary Ball Milling and Host-Guest Interactions
著者: Junsu Park, Shunsuke Murayama, Motofumi Osaki, Hiroyasu Yamaguchi, Akira Harada, Go Matsuba, and Yoshinori Takashima
本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)「可逆性・可動性超分子を架橋点とする機能性超分子材料の創製」(文部科学省)ならびに新学術領域研究「水圏機能材料:環境に調和・応答するマテリアル構築学の創成」(日本学術振興会)、未来社会創造事業「地球規模課題である低炭素社会の実現」(科学技術振興機構)の一環として行われ、公益財団法人 小笠原科学技術振興財団(現・小笠原敏晶記念財団)ならびに公益財団法人東燃ゼネラル石油研究奨励・奨学財団の研究助成事業の支援を得て行われました。

修復挙動の動画:

 

自己修復メカニズムのイメージ動画:

用語説明

※1 自己修復機能
材料が力や変形などで外傷を受けたとき、接着剤などの修復剤なしで、材料が自然に元の状態を回復する機能。自己修復機能をもつ材料は、損傷を自ら回復するため、修理の手間の要らないメンテナンスフリー材料や長寿命材料の実現が期待される。

※2 超分子材料
分子は共有結合と言われる強い結合で結びついているが、複数の分子が弱い分子間力で結びつき、組織化された分子集合体を超分子という。この超分子の構造を有する材料は超分子材料と呼ばれ、その特徴的な分子間力によって、従来の材料ではみられない性質や機能を発現させることができる。

※3 ポリマー
小さな分子(モノマー)が紐状にあるいは網状に無数につながってできた巨大な分子(高分子)。ゴムやプラスチック、繊維などのほか生体組織も含め、身の回りの多くの物質は高分子でできている。

※4 ホスト-ゲスト相互作用
環やカップのような形の比較的大きな分子(ホスト)と球や棒のような形の小さな分子(ゲスト)の間にはたらく、分子間力の一種。ホストはゲストを内部に取り込み、包接錯体とよばれる分子複合体を形成する。本研究では、ホスト分子にシクロデキストリン(環状オリゴ糖)、ゲスト分子にアダマンタンを利用しており、これらのホストとゲストが自発的に包接錯体をつくる性質を材料作製に用いた。シクロデキストリンはトウモロコシなどの糖分を原料として合成されており、環境に配慮した原料にて超分子材料を作製している。

研究者のコメント

本研究成果は、ポリマー複合化による方法で自己修復機能やリサイクル性、さらには強靭性を有する超分子材料の作製が可能となりました。産業界では遊星型ボールミルを用いて化合物や材料の混合に広く使われていますが、超分子材料との混合に使われている例はありません。本研究成果を応用して、現在、世の中のあらゆる高分子と超分子材料を混合して、これまでの高分子材料になかった機能を付与する研究活動を行っております。現在、この技術を用いて複数の企業と実用化に向けた共同研究を行っています。

参考URL

高等共創研究院 高島研究室HP
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/takashima/

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