工学系

2020年6月10日

研究成果のポイント

・水素化反応において"発火性がなく、高活性な"非貴金属合金ナノ粒子※1触媒の開発に成功
・ニトリルからアミンへの水素化反応における触媒活性は既存の触媒の20-500倍
・反応後の触媒は繰り返し再使用可能
・医薬品やポリマー原料として重要なアミンを安全かつ低コスト・省エネルギーでつくり出す、高効率かつ環境に優しい次世代型触媒プロセスの開発に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科満留敬人准教授らは、大気中安定で発火性のない非貴金属合金ナノ粒子※1を合成し、その合金ナノ粒子がニトリルからアミンへの水素化反応において在来の触媒の20~500倍の触媒活性を示すことを見出し、反応後の触媒は繰り返し再使用できることも明らかにしました。

水素化反応は、化学工業において最も重要な反応の一つです。特に、ニトリルの水素化反応は、水素化して得られる1級アミンが、医薬品やポリマーの原料などの様々な化学品に必要不可欠な化合物であるため重要です(図1)。化学工業におけるニトリルの水素化反応では、一般にニッケルとアルミとの合金を作り、そのアルミだけを塩基により溶かすことで、ニッケルをスポンジ状にして高表面積化した、スポンジニッケルが触媒として用いられています。しかしながら、スポンジニッケルは、極めて発火性が高く危険で、大気中ではすぐに酸化され失活します。よって、触媒プロセスの全工程を嫌気性雰囲気下で行わなければならず、触媒の取り扱いが難しいという問題を抱えています。また、スポンジニッケルは触媒活性が低いため、反応を促進させるためには高温・高水素圧が必要です。よって、発火性がなく、取り扱いが容易で、さらに高活性な触媒の開発が求められていました。

今回、満留敬人准教授らの研究グループは、安価で入手可能な非貴金属であるコバルトとリンとを複合化したナノメートルサイズの合金粒子(nano-Co2P)(図2)を開発し、nano-Co2Pが大気中で安定かつ、ニトリルの水素化反応に高活性を示すことを見出しました。nano-Co2Pは従来の触媒の20~500倍の活性を示し、様々なニトリルを高選択的に1級アミンへと変換できます。また、非貴金属触媒では世界で初めて、常圧(1気圧)の水素下という極めて温和な条件下でニトリルを1級アミンへと変換できました。さらに、開発した触媒は、固体触媒※2であるため、反応液からのろ過により簡単に分離ができ、回収した触媒を繰り返し使用することができます。これにより、より安全かつ省エネルギー・低コストでニトリルをアミンへと変換する、環境に優しい次世代型触媒プロセスの開発が期待されます。

本研究成果は、2020年6月9日に英国王立化学会誌のChemical Science(オンライン)に掲載されました。

図1 ニトリルからアミンへの水素化反応

図2 開発した合金ナノ粒子触媒(nano-Co2P)の電子顕微鏡像:ロッド状のナノ粒子の(a)側面と(b)前面

研究の背景

ニトリルを還元して得られるアミンは、医薬品やポリマーなど様々な用途で必要不可欠な化合物です。これまでニトリルからアミンへの水素化反応では、様々な貴金属及び非貴金属をベースとした触媒の開発が熱心に研究されてきました。一般に、水素化能の高い貴金属触媒を用いると、温和な反応条件下でニトリルを水素化することが可能です。しかし、貴金属は稀少かつ高価な元素であるため、使用量の低減や代替材料の開発が希求されています。一方、非貴金属をベースとした触媒は、経済性に優れていますが、水素化用の非貴金属は、電子が豊富な低酸化状態(0価)にあるため、大気中の酸素により容易に酸化され、活性を失います。また、発火性もあり危険なため、触媒の取り扱いが難しいという点があります。さらに、非貴金属触媒は、貴金属に比べ活性が低いため、反応を促進させるためには高温・高水素圧(高エネルギー)が必要であるなど、多くの問題点が残っています。したがって、安全性が高く、高活性な非貴金属触媒の開発が望まれてきました。発火性のない、大気中安定な非貴金属ナノ粒子に関する研究では、非貴金属ナノ粒子を窒素を含む炭素膜でコーティングする方法が唯一の手法としてこれまでに報告されています。しかしながら、この手法では、活性点となる金属表面を炭素で覆ってしまうため、高い触媒活性は発現しません。

満留敬人准教授らの研究グループでは、コバルトとリンを合金化する方法により大気中安定な非貴金属ナノ粒子を合成しました。この金属をリン化する手法は、安定な非貴金属ナノ粒子を作る新たな手法です。

さらに、この合金ナノ粒子がニトリルからアミンへの水素化反応において極めて高い活性を示すことを見出しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

発火性がなく取り扱いが容易で、かつ温和な反応条件(常圧水素下)でニトリルの水素化反応を効率よく促進する触媒の開発に成功しました。本触媒は、安価な非貴金属をベースとしているため低コストです。また固体触媒なので触媒の回収・再使用を簡便に行うことができます。現在の化学工業で行われているニトリルの水素化反応では、発火性の触媒が用いられ、かつ高温・高水素圧を必要としていることから、本研究成果により、現行の触媒プロセスを代替する、より安全かつ省エネルギー、低コストのニトリル水素化反応プロセスの開発が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年6月9日に英国王立化学会誌のChemical Science(オンライン)に掲載されました。

タイトル:"Cobalt phosphide catalyst for hydrogenation of nitriles"
著者名:Takato Mitsudome, Min Sheng, Ayako Nakata, Jun Yamasaki, Tomoo Mizugaki, and KoichiroJitsukawa

なお、一部は、科学研究費補助金(基盤研究(B)研究代表者:満留敬人)、新学術領域「3D活性サイト科学」(領域代表:大門寛)の支援の元に行われました。

用語説明

※1 合金ナノ粒子
コバルトとリンから構成される、長さ20ナノメートル,直径約10ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1(10-9)メートル)のロッド状合金ナノ粒子を合成することに成功しました。このナノ粒子が、ニトリルからアミンへの水素化反応を非常に効率よく促進させます。

※2 固体触媒
化学反応を進行させる触媒は、溶液に溶け込む均一系触媒と溶け込まない不均一系触媒(=固体触媒)に大別できます。固体触媒は、粉末であるため反応溶液からろ過により簡単に取り除くことができる他、再使用ができるなどの多くの実用的な利点があります。

研究者のコメント

当研究グループでは、新たな触媒開発を通して環境・エネルギー問題の解決に貢献したいと考えています。本研究では、コバルトとリンを合金化することで大気中でも安定な非貴金属ナノ粒子を作ることに成功し、その合金ナノ粒子がニトリルからアミンへの水素化反応を非常に効率よく進行させる触媒であることを見出しました。この"リン化"は安定かつ高活性な非貴金属ナノ粒子を作る有用な手法となり、様々な反応に応用されると予想されます。

参考URL

大学院基礎工学研究科 反応化学工学講座HP
http://www.cheng.es.osaka-u.ac.jp/Mizugakilabo/home.html

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top