2020年3月18日

発表のポイント

・ミクロな法則である量子力学と、マクロな法則である熱力学とを橋渡しする、新しい関係を理論的に発見しました。
・感受率※1という物理量が、量子力学的には特異な振舞を示すことを発見し、その特異性を通じて熱力学的な二種類の感受率と結び付いていることを証明しました。
・物理現象をミクロな立場から説明する量子力学とマクロな立場から説明する熱力学の関係を明らかにする、という物理学の大きな問題を部分的に解決しました。この大問題の研究を加速すると期待されます。

概要

東京大学大学院総合文化研究科先進科学研究機構の千葉侑哉大学院生、清水明機構長、大阪大学全学教育推進機構の浅野建一教授は、ミクロな法則である量子力学と、マクロな法則である熱力学とを橋渡しする、新しい関係を理論的に発見しました。

まず、物質に磁場を突然かけたときに量子力学に従って磁化が誘起される程度を表す感受率が、かける磁場の波数の関数として不連続に飛ぶことを示しました。そして、この飛びの前後の値が、ゆっくり磁場をかけて熱力学に従って磁化が変化する場合に得られる二種類の感受率にそれぞれ等しくなることを発見しました。さらに、このように量子力学の結果と熱力学の結果が綺麗に整合するために物理系が満たすべき条件も明らかにしました。

これらは、ひとつの物質にミクロ法則とマクロ法則が矛盾なく成り立っている仕組みと関係を解明するための重要な一歩になるものです。

発表内容

物理学では、物質は、ミクロには量子力学に従い、マクロには熱力学に従うと信じられています。一方、量子力学と熱力学はあまりにも違う理論であるため、両者がどのようにして整合しているのか、どのように対応しているのかが、およそ百年の長きにわたって議論されており、いまだ十分には解明されていません。ようやく近年になって、実験技術の発展により、物理系を外界から孤立させる理想的な状況で実験することができるようになり、実験と理論が急速に進展しつつあります。とくに「クエンチ」と呼ばれる、物理的なパラメーターを突然変化させて、物理系のその後の量子力学的な時間発展を調べる研究が広く行われ、熱力学との整合性が議論されています。

従来の研究では、クエンチ後にさまざまな物理量の値が熱力学の予言する値に緩和するかどうかに重点がおかれ、クエンチ前後での物理量の値の変化率である感受率については調べられていませんでした。量子力学と熱力学が整合するためには、感受率の値も両者で一致する必要があります。ところが、熱力学の感受率には「等温感受率」と「断熱感受率」という2種類があり※2、量子力学が与える「クエンチ感受率」を、そのどちらと比較すべきかという点すら明らかではありませんでした(図1)。そのため、どちらかに一致するのか否かも、そのための条件は何かも、分かっていませんでした。

東京大学大学院総合文化研究科先進科学研究機構の千葉侑哉大学院生、清水明機構長、大阪大学全学教育推進機構の浅野建一教授は、磁場を印加したときの磁化の変化を表す感受率を例にとって、この感受率の問題を理論的に解明することに成功しました。

まず、外部磁場が一様ではなく有限の波数kで空間的に変化するような場合を考察する、というように問題自体を拡張しました。このときのクエンチ感受率は、磁場で生じた波数kの磁化の変化率であり、kの関数になります。そして、量子力学に従う運動が十分に複雑であれば、このクエンチ感受率がk=0で不連続になる(k=0での値とk→0の極限値が異なる)、という特異性を持つ事を証明しました(図2)

さらに、この不連続性によって、クエンチ感受率は、異なる熱力学的感受率を両方とも与えることを見いだしました。すなわち、クエンチ感受率のk=0における値は断熱感受率を与え、k→0の極限は等温感受率を与えます。

そして、量子力学の結果と熱力学の結果がこのように綺麗に対応して整合するために物理系が満たすべき条件も明らかにしました。また、これらの条件が、従来の研究で、クエンチ後に物理量の値が熱力学の予言する値に緩和するための条件として挙げられていたいずれの条件とも異なっている、新しい条件になっていることも分かりました。

さらに、これらの発見を具体的な物理系について例示し、実験で得られるであろう結果を予言するために、一次元スピン系※3について具体的に、量子力学が与えるクエンチ感受率と、熱力学が与える等温感受率と断熱感受率を、波数kの関数として求めました(図2)。その結果、系の量子力学的な運動が複雑になるケースでは確かに上記のような振舞になることも、運動が単純になるケースでは条件が満たされなくなりクエンチ感受率が熱力学の感受率のいずれとも一致しなくなることも、確かめられました。

今回の研究で、クエンチ感受率と熱力学的感受率の関係やそのための条件が明らかになりました。これは、物理現象をミクロな立場から説明する量子力学と、マクロな立場から説明する熱力学の関係を明らかにするという物理学の大きな問題を部分的に解決したと言えます。この研究を契機に、この大問題に対する理解が進展することが期待されます。また今回明らかとなったクエンチ感受率の特異的な振舞が、今後実験的に検証されることも期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Physical Review Letters(オンライン版3月20日掲載)
論文タイトル:Anomalous behavior of magnetic susceptibility obtained by quench experiments in isolated quantum systems
著者:Yuuya Chiba*, Kenichi Asano, and Akira Shimizu

用語解説

※1 感受率
外場を変化させた結果、物理量が変化するとき、その変化率のこと。たとえば、外部から印加する磁場をΔhだけ増やした結果、磁化がΔmだけ変化したとき、その変化率Δmhのこと。

※2 等温感受率、断熱感受率
熱力学が与える感受率のうち、温度が一定に保たれるように大きな浴槽などに入れてゆっくり外場を変化させたときの感受率を等温感受率と言い、外部と熱のやりとりがないように断熱容器に入れてゆっくり外場を変化させたときの感受率を断熱感受率と言う。両者は一般には異なる値をとる。

※3 一次元スピン系
量子力学的な物理量であるスピンが、一次元的に並んで相互作用している物理系。相互作用の仕方を表すパラメーターの値によって、系の運動が複雑になったり単純になったりする。

添付資料

図1 物質に外部から印加している磁場をΔhだけ増やすと、磁化がΔmだけ変化する。この過程が、量子力学的なクエンチ過程の場合(赤)と、断熱容器に入れた熱力学過程の場合(青)、そして、温度一定の熱力学過程の場合(緑)の、3つのケースについて、感受率Δmhを比較した。

図2 一次元スピン系について、図1の3つのケースの感受率Δmhを計算で求めた結果を、波数kの関数としてプロットした。量子力学的なクエンチ過程の感受率はk=0で不連続に変化し、k=0における値は、断熱容器に入れた熱力学過程の断熱感受率に一致し、k→0の極限は、温度一定の熱力学過程の等温感受率に一致する。なお、僅かなずれは、系のサイズが小さいためで、サイズを大きくするにつれてずれは小さくなっていく。

参考URL

大阪大学 全学教育推進機構 量子物性論グループHP
http://wwwacty.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~asano/index.html

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