工学系

2020年3月9日

研究成果のポイント

・タンパク質の折りたたみや組立てに重要な役割を果たすKDEL受容体1遺伝子を過剰発現させることで、タンパク質の細胞内輸送を改善し、組換えタンパク質生産の効率を上げることに成功した。
・これまでの細胞工学的アプローチでは、小胞体保留シグナル※1に着目した研究は行われていなかった。
・近年、売り上げを伸ばしているバイオ医薬品生産において、本技術を用いることで生産効率が向上することが期待される。

概要

大阪大学大学院工学研究科の大政健史教授らの研究グループは、タンパク質の折りたたみや組立てに重要な役割を果たすKDEL受容体1遺伝子を過剰発現させることで、タンパク質の細胞内輸送を改善し、組換えタンパク質生産の効率を上げることに成功しました。これまでの細胞工学的アプローチでは本機構に着目した研究は行われておらず、世界で初めての結果となります。

組換えタンパク質生産とは、外来遺伝子をホストとなる宿主細胞に導入し、宿主細胞内で外来遺伝子を発現させる(組換えタンパク質を作らせる)技術です。今回、大政教授らの研究グループは、宿主細胞として広く産業に利用されているCHO細胞※2を用いて、KDEL受容体1遺伝子を過剰発現させることにより、生産させたいモノクローナル抗体(IgG)※3の比生産速度※4を上昇させました。これにより、近年売り上げを伸ばしているバイオ医薬品生産において、生産効率が向上することが期待されます。

本研究成果は、ドイツ科学誌「Biotechnology Journal」(オンライン)に、2月19日(水)に公開されました。

図1 異なる二つの生産段階(Exponential、Deceleration期)におけるIgG1抗体の比生産速度(★:有意差有)

研究の背景

大政教授らの研究グループでは、これまでに、合成した組換えタンパク質であるIgG1※5が宿主細胞であるCHO細胞内に残留し、全てを分泌できていないことを明らかにしていました。そこで、タンパク質の折りたたみや組立てに重要な役割を果たすKDEL受容体1遺伝子をCHO細胞に過剰発現させることで、タンパク質の細胞内輸送を改善し、組換えタンパク質生産の効率を上げることに成功しました。これまでの細胞工学的アプローチでは本機構に着目した研究は行われておらず、これは世界で初めての結果となります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、近年、売り上げを伸ばしているバイオ医薬品生産において、生産効率が向上することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年2月19日(水)にドイツ科学誌「Biotechnology Journal」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Improvement of Intracellular Traffic System by Overexpression of KDEL Receptor 1 in Antibody-Producing CHO Cells”

著者名:Andrew Samy, Kohei Kaneyoshi, and Takeshi Omasa

なお、本研究は、JSPS科学研究費助成事業基盤研究(S)の工業用動物細胞を用いた統合バイオプロセスに関する基盤的研究、及び、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代医療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業の一環として行われました。

用語説明

※1 小胞体保留シグナル
タンパク質がタンパク質合成に関わる小胞体に局在化するためのシグナル配列(KDEL配列)

※2 CHO細胞
1957年にPuck氏らによって、チャイニーズハムスターの卵巣(Chinese hamster ovary)から樹立された細胞。バイオ医薬品生産の宿主細胞として汎用されている。

※3 モノクローナル抗体
単一の抗体生産細胞に由来して増殖した細胞から得られた抗体

※4 比生産速度
一細胞あたりの生産能力を示すパラメーター

※5 IgG1
抗体と呼ばれる分子で、免疫グロブリン(Immunoglobulin)のクラスG、サブクラス1に分類される。抗原と結合して生体を防御する。バイオ医薬品のうち、抗体医薬品として用いられている。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学専攻 大政研究室
http://www-bio.mls.eng.osaka-u.ac.jp/#

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