なぜ天体は強烈に光るのか?「磁場凍結の破れ」が放つ、高速電子ジェット

なぜ天体は強烈に光るのか?「磁場凍結の破れ」が放つ、高速電子ジェット

天体からのガンマ線発生機構を解明

2019-12-20工学系

研究成果のポイント

・「磁場凍結の破れ」 という新しい現象によって、高速の電子ジェット 、および高いエネルギーの光(ガンマ線 )が発生することを理論的に明らかに。
・かに星雲など、天体が強いガンマ線を放つことが知られており、磁気リコネクション と呼ばれる現象が関わっていることが予想されているが、その仕組みはよく分かっていなかった。
・今回、宇宙の天体が強烈な粒子や光を放つ仕組みが明らかになった。この現象は強いレーザーを用いて実験で再現できることから、今後、新しい粒子発生装置の開発につながることが期待される。

概要

チェコ共和国 ELI-BeamlinesのYanjun Gu(ヤンジュンギュ)博士、Sergey V Bulanov(セルゲイ ブラノフ)博士、大阪大学レーザー科学研究所の余語覚文准教授らの研究グループは、宇宙の天体が強烈な粒子や光を放つ仕組みを、理論的に明らかにしました。

宇宙空間では、物質の多くは「プラズマ 」と呼ばれる状態で存在します。このプラズマの中では、電流が流れたり、磁場が発生することで、様々な現象が起こります。

本研究では、プラズマの中で、逆方向を向く磁場同士がぶつかって繋ぎ変わる現象(磁気リコネクション現象)に注目し、極めて速く動く電子がさらに加速されることを発見しました。

磁気リコネクション現象は、オーロラや太陽のフレアでも重要な役割を担っていますが、本研究が解明したのは、さらに激しい現象です。プラズマの中に磁場があると、電子といった電荷を持つ粒子は、磁場に纏わり付いて、一緒に動きます(磁場の凍結)。しかし、極めて高温の状態では、相対論効果 により、電子が重たくなることで、この磁場の凍結が破れる領域(非断熱領域:Non-adiabatic Region)が生まれます。その結果、1cmあたり300億ボルト(30ギガボルト)の電圧が生じ、光の速さの99%におよぶ高速の電子ジェットが放たれることを、3次元理論シミュレーションで明らかにしました。

本研究は、チェコ(ELI-Beamlines、チェコ科学アカデミー・プラズマ科学研究所)、イタリア(ピサ大学、国立光学研究所)、ロシア(ロシア科学アカデミー・ケルディッシュ応用数理研究所、プロコロフ基礎物理学研究所)、日本(大阪大学レーザー科学研究所)からなる国際チームで実施されました。本研究成果は、英国Springer Nature社の科学誌「Scientific Reports」に、12月19日(木)19時(日本時間)に公開されました。

図1
[上]かに星雲(hubblesite.orgより転載)
[下]大阪大学の高強度レーザー施設LFEX

研究の背景

宇宙には、強烈な光や粒子を放つ、不思議な天体が数多く存在します。たとえば、「かに星雲 (図1) 」は爆発した巨大な星の残骸(超新星残骸)ですが、高いエネルギーの光(ガンマ線)を放つことが知られています。近年になって、ガンマ線が生み出される仕組みに、相対論的な磁気リコネクション現象が深くかかわっていることが予想され、謎の解明が待たれていました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で明らかにした高速の電子ジェットのエネルギーは、ガンマ線に変えられて放出されます。本研究の成果は、かに星雲といった超新星残骸からガンマ線が放たれる仕組みや、ブラックホールが起源と考えられる、さらに強力な爆発的ガンマ線(ガンマ線バースト)など、未知の宇宙現象の解明につながります。

また、本研究では、2本の強いレーザーを用いれば、実験的に現象を再現できることを明らかにしました。チェコ共和国 ELI-Beamlinesと大阪大学レーザー科学研究所は、実験に必要な高強度レーザー施設 (図1[下]) は大阪大学のLFEXレーザー施設 )を保有しており、宇宙現象の理解のみならず、新しい粒子発生装置の開発につながる研究に取り組んでいます。

研究者のコメント

2018年ノーベル物理学賞受賞者であるMourou博士、Strickland博士の発明したレーザー増幅手法によって、我々、大阪大学のLFEXレーザー施設や、チェコのELI-Beamlines施設が実現し、相対論的なプラズマの研究が大躍進しました。今後も国際的な研究チームで、新しい研究にチャレンジします。

特記事項

本研究成果は、2019年12月19日(木)19時(日本時間)に英国Springer Nature社の科学誌「ScientificReports」(オンライン)( https://www.nature.com/srep/ )に掲載されました。

タイトル:“Electromagnetic Burst Generation during Annihilation of Magnetic Field in Relativistic Laser-Plasma Interaction”
著者名:Y.J. Gu, F. Pegoraro, P.V. Sasorov, D. Golovin, A. Yogo, G. Korn, and S.V. Bulanov

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業・さきがけ「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」( https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/research_area/ongoing/bunyah27-1.html )の支援の下、実施されました。

参考URL

大阪大学 レーザー科学研究所 光・量子放射制御研究領域
https://prcra.vlda-cons.org/

用語説明

磁場凍結の破れ

プラズマ の中に磁場があると、電子やイオンといった電荷を持つ粒子は、磁場に纏わり付くように回転運動をするため、プラズマは磁場と一緒に動く。この状態を、磁場凍結あるいは磁力線凍結と呼ぶ。「磁場凍結の破れ」は、粒子の運動が激しくなり、磁場凍結が保たれない状態を指す。

電子ジェット

光に近い速さで噴き出る電子の集団。何らかの力によって電子の速さや方向が変えられると、波長の短い光(ガンマ線)を発生する。

ガンマ線

非常に波長の短い、高いエネルギーの光。同じく光の一種であるエックス線よりも波長が短く、10ピコメートル(1000億分の1メートル)より短い波長をもつ。

磁気リコネクション

プラズマ の中で、逆方向を向く磁場同士がぶつかって繋ぎ変わる現象。繋ぎ変わる際に、磁場のエネルギーの一部が、近傍のプラズマのエネルギーに変換される。オーロラや太陽のフレアでも重要な役割を担っていることが明らかになっている。

プラズマ

固体・液体・気体に続く物質の第4の状態であり、分子が電離しイオンと電子に分かれて運動している状態である。電離層、太陽風、星間ガスなどがプラズマ状態であり、宇宙の質量の99%以上はプラズマ状態である。

相対論効果

アインシュタインの特殊相対性理論では、物質が光に近い速さで運動すると、その物質の質量が増加したかのような振舞いを見せるなど、従来のニュートン力学では説明できない現象が発生する。後述の高強度レーザーをプラズマに照射すると、電子の動きが光の速さに近づくため、様々な相対論的な効果を実現することができる。

LFEXレーザー施設

短いパルスで高出力が得られるレーザー装置。一瞬(1兆分の1秒=1ピコ秒)ではあるが、世界中の総発電量をも上回る超高強度出力(2千兆ワット=2ペタワット)が得られる。これは、典型的な発電所(100万キロワット)が発生する電力の200万基分に相当する。「LFEX」は日本の光技術の粋を結集した最先端装置であり、国内企業の技術競争力の向上に大きく寄与するとともに、世界的に高く評価されている。