生命科学・医学系

2019年12月16日

研究成果のポイント

・僧帽弁閉鎖不全症を有する患者に対する人工心肺※1非使用の経心尖アプローチによる僧帽弁※2形成術に成功
・人工心肺を使わずに弁形成術を行うため、心臓手術のさらなる安全性の向上および低侵襲化
・人工心肺を使わない僧帽弁形成術の成功例は国内初

概要

大阪大学大学院医学系研究科の澤芳樹教授(心臓血管外科)らのグループは、これまで重症心不全患者に対する筋芽細胞シート移植やiPS細胞を用いた再生医療など、多岐にわたる重症心不全治療の開発を進めてきました。また、一方で低侵襲心臓手術の推進にも積極的に取り組み、今では標準的な治療法となった経カテーテル的大動脈弁置換術においても、2009年に国内初の症例を無事成功しております。今回、これまでは人工心肺を用いて心臓を一時的に停止させて行っていた僧帽弁形成術を、左胸部の約4cm程度の創部から心尖部から挿入したデバイスを用いて腱索※3を再建することにより、人工心肺を用いずに心臓拍動下に僧帽弁形成術を行い成功しました。

本治療法は人工心肺を使用しないため、人工心肺の合併症(脳梗塞など)を回避することが可能であり、術後の回復も通常の心臓手術よりも早く、手術のさらなる低侵襲化や安全性向上が期待されます。また、持病や既存の合併症により人工心肺を用いた心臓手術が困難な患者さんに対する治療法としても期待されます。

図1 研究の概要図

研究の背景

重度の僧帽弁閉鎖不全症は放置すると心臓拡大、不整脈、心不全、肺うっ血などを来たすため、心臓手術(僧帽弁置換術、僧帽弁形成術)が必要とされています。従来の心臓弁に対する手術は、人工心肺装置を用いたうえで、上行大動脈をクランプして心筋保護液を注入することで心臓を停止させてから、心臓や大動脈を切開して手術を行っています。そのため、安全性は向上したとはいえ、人工心肺装置の合併症(脳梗塞など)や心停止に伴う一時的な心機能低下などの問題は避けては通れませんでした。そのため、重度の僧帽弁閉鎖不全症は放置すると心不全が進行するにもかかわらず、ある程度症状や心臓拡大が進行した患者さんに対してのみ僧帽弁手術が勧められてきました。澤教授らの研究グループは、新たな治療法として、高難度新規医療技術「NeoChordを使用したbeating mitral valve surgery」のもと、この度経心尖アプローチによる僧帽弁形成術を国内初で実施し、成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本治療法により、低侵襲性や安全性が向上することにより、より早期での治療が可能となるため、患者の予後の改善につながる可能性があります。また、従来の僧帽弁手術が治療不能もしくは非常にリスクが高いとされていた患者に低侵襲治療が可能となることが期待されます。

用語説明

※1 人工心肺
心臓手術などで自己の心臓と肺を一時的に代替する循環装置。心臓の大静脈や右心房から全身の血液を人工心肺装置に吸引(脱血)し、人工肺で酸素化させた血液を上行大動脈などの動脈に送る(送血)することで、心臓を止めている間も全身に血液を循環させる。

※2 僧帽弁
左心室と左心房の間にある弁(僧帽弁)。心臓の拡張期に弁が開口し、収縮期には弁が閉鎖する。閉鎖が不完全な場合、僧帽弁閉鎖不全症となり、長期的に心臓の拡大や心不全、肺うっ血、不整脈などを起こす。

※3 腱索
左心室の筋肉(乳頭筋)から僧帽弁を支持する腱組織(腱索)。腱索が切れたり、伸びたりすることで、僧帽弁の逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が起こる。

研究者のコメント<澤教授>

僧帽弁閉鎖不全症に対する人工心肺を用いない人工腱索再建による僧帽弁形成術は、心臓を止めることなく僧帽弁の治療(僧帽弁形成術)を施行することが可能になります。そのため、従来よりさらに低侵襲であり、人工心肺の合併症などの懸念がありません。そのため、心不全症状がまだ出ていない重症僧帽弁閉鎖不全症の患者様に対する治療も、積極的に行えると考えております。また一方で、持病などのために従来の人工心肺を使用した心臓手術ができない患者様に対する治療の選択肢ともなりえます。この治療法が、患者さまやご家族にとって大きな福音になるよう願いながら、今後も臨床研究を進めて参ります。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 外科学講座 心臓血管外科学HP
http://www2.med.osaka-u.ac.jp/surg1/

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