2019年12月9日

概要

早稲田大学理工学術院の片岡淳(かたおかじゅん)教授らの研究チームは、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所の宮本修治(みやもとしゅうじ)特任教授、大阪大学核物理研究センターの嶋達志(しまたつし)准教授と共同で、1-10メガ電子ボルト(MeV)のガンマ線を高精度に可視化する、コンパクトなカメラを開発しました。さらに、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所が運営するニュースバル放射光施設で準単色ガンマ線ビームを用いたイメージング実験に挑戦し、1.7MeVおよび3.9MeVのガンマ線を最高レベルの解像度でイメージングすることに成功しました。本装置は数キログラム(kg)と軽量のため50kg級の小型衛星にも搭載可能で、宇宙物理に残された「最後の窓」MeVガンマ線の観測にむけ、新たな切り札として期待されます。

光の仲間であるガンマ線は、波長が電子・原子のサイズに匹敵するほど短く、波ではなく粒子として振る舞います。とくに1-10MeVのガンマ線は透過力の強さと反応の複雑さゆえ、これを直接「観る」技術は望まれつつも、いまだ確立していません。宇宙観測においては、1991年に米国NASAからコンプトン宇宙ガンマ線天文台(CGRO衛星)が打ち上げられ、ここに搭載されたコンプテル(COMPTEL)検出器※1が観測に挑みました。コンプテルは高さ2.6m、重さ1,500kgに及ぶ巨大装置のため、開発や打ち上げの困難さもあり、以降30年ものあいだ観測が停滞しています。しかしながら、1-10MeVのガンマ線は励起した様々な原子核から生じ、星の内部や宇宙の元素合成を紐解く、重要な鍵が得られると期待されます。

今回、研究チームは1-10MeV観測に特化した軽量小型コンプトンカメラ※2を独自に開発し、ニュースバル放射光施設の準単色ガンマ線ビームを用いた高精度イメージングに成功しました。これにより、同カメラを20×20cm2に拡張するだけで、コンプテルに迫る観測を簡単に実現できることを示しました。最先端科学の実証の場としての小型衛星開発は、ビッグサイエンスが主流の現代科学において突破口となる可能性を秘めています。

本研究成果は、Nature Researchが運営する英国のオンライン科学雑誌『Scientific Reports』に2019年12月6日午前10時(現地時間)に掲載されました。

論文名:Development and performance verification of a 3-D position-sensitive Compton camera for imaging MeV gamma rays
掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-54862-z

発表のポイント

・1-10MeVのガンマ線に特化した、軽量・コンパクトな高精度カメラを開発
・1.7MeV, 3.9MeVの準単色ガンマ線を用いて、実機で性能検証
・50kg級小型衛星でも巨大衛星に迫る観測が可能なことを実証

発表内容

研究の背景

ガンマ線は光の仲間であるにもかかわらず、人間の目には直接見ることができません。透過力が強くレンズや反射鏡でも集光できないため、そのイメージングは困難を極めます。とくに、1-10MeVのガンマ線は“粒子”としてエネルギーの一部を電子に渡し、自らは別な方向へ散乱される「コンプトン散乱」と呼ばれる複雑な反応を起こします。サッカーの一場面に例えると、キッカーが蹴ったボールをキーパーが弾いてゴールネットを揺らす場面に良く似ています(図1)。ボールの到来方向を知るには、キーパーがはじいた位置とエネルギー、ネットを揺らす位置とエネルギーの両方を知る必要があります。つまり、電子と散乱ガンマ線、両方の運動学を同時かつ正確に紐解くことで、はじめてガンマ線の到来方向を決定でき、これを「コンプトンカメラ」と呼びます。コンプトンカメラの原理そのものは1970年代に提案された古いアイデアですが、その技術的困難さから、実現と広い普及を阻んできました。

科学的な視点に立つと、1-10MeVのガンマ線は原子核物理を探るうえで重要かつ最適な宝庫です。励起状態の原子核(たとえば酸素や炭素)からでるガンマ線(核ガンマ線)は、1-10MeVに集中しており、宇宙の元素合成を解く、重要な鍵が得られます。実際、1991年に米国NASAから打ち上げられたCGRO衛星には巨大なコンプトンカメラ(コンプテル検出器)が搭載され、銀河面から超新星爆発由来と考えられる26Al(アルミニウム:1.8MeV)や44Ti(チタン:1.1MeV)の空間分布を調べることに成功しました。しかしながら、コンプテルは高さ2.6m、重さ1,500kgに及ぶ巨大装置であり、膨大な開発コストやロケット搭載重量の制限から、その後30年間にもわたり、1-10MeV領域の観測が停滞しています。そのため、電波・可視光・X線などほかの波長帯にくらべMeVガンマ線の観測は2~3桁も浅く、「宇宙物理に残された最後の窓」と比喩されることもあります。

ところが近年、世界中でピギーバック衛星など数十kg級の小型衛星開発が盛んに行われ、安価かつ短期間での供給が可能となっています。コンプテルと同等、あるいは凌駕する性能をもつ軽量・コンパクトなガンマ線カメラが開発されれば、小型衛星にも搭載し、MeVガンマ線天文学の新たな一歩が約束されます。そして「小型衛星が科学をリードする」新しい未来へと展望が広がります。

図1 サッカーの一場面にたとえた、コンプトンカメラのイメージング原理

方法

このたび、早稲田大学・片岡研究室では1-10MeVのイメージングに特化した新型コンプトンカメラを開発しました。図2に示す通り、装置はコンパクトかつ軽量で、大きさ5x5x10cm3、重さ1kg程度です。本装置の鍵は、独自開発の「3Dシンチレータ」(特許6145248号)です。ガンマ線阻止能に優れたCe:GAGGシンチレータ(ガドリニウム アルミニウム ガリウム ガーネット)を採用し、これを光センサーである上下の光半導体増幅素子(MPPC)で挟み込むことで、ガンマ線の反応位置を3次元かつ2mmの精度で計測します。さらに、上下MPPCから独立に得られる位置情報を比較することで、検出器内で多数回散乱したイベントの90%以上を除去し、同時に得られるスペクトル情報から、検出器外にガンマ線が逃げてしまうエスケープイベントを除去します。これにより、軽量コンパクトでありながら、1-10MeVで高精度のガンマ線イメージングが可能となりました。

本研究では、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8内に併設されたニュースバル放射光施設において、MeVガンマ線イメージング実験に挑戦しました。ニュースバルは兵庫県立大学を中心に整備された施設であり、SPring-8で加速された高エネルギー電子ビームをレーザー光(NdレーザーやCO2レーザー)に衝突させることで、1-40MeVの準単色ガンマ線を発生します。アイソトープなど放射線源では実現できない高エネルギーガンマ線を提供できる世界屈指の実験施設であり、様々な科学・応用研究に役立てられています。

図2 (a)開発したコンプトンカメラの構成(b)実機カメラの写真

実験と結果:1.7MeV/3.9MeVガンマ線の高精度イメージング

実験では、コンプトンカメラの正面および20°の方向から1.7MeV, 3.9MeVのガンマ線を照射し、それぞれの画像を取得しました。図3に結果を示します。解像度は1.7MeVガンマ線に対し3.4±0.1°(0°から照射:FWHM)、3.8±0.1°(20°から照射:FWHM)となり、同エネルギーにおけるコンプテルの解像度(3.9°:FWHM)を凌駕する、優れた値が得られました。さらに、3.9MeVガンマ線に対してもイメージングに成功し、解像度は4.0±0.5°(0°から照射)、4.6±0.4°(20°から照射)となりました。図4は0°、20°からのガンマ線画像を合成し感度補正した画像で、同じ強度のガンマ線ビームが、入射方向に依らず正しく撮影できている様子が分かります。さらに、ガンマ線に対する検出感度(固有効率)も2MeV以下でコンプテルを上回る、優れた結果が得られました。これらは、電磁シミュレーション(Geant-4)の結果とも正確に一致しており、設計通りのパフォーマンスを示すことが実証されました。

図3 コンプトンカメラで取得した、準単色ガンマ線の画像
(左上)1.7MeV、正面 (右上)1.7MeV、20°方向 (左下)3.9MeV、正面 (右下)3.9MeV、20°方向をイメージング

図4 0°、20°からの1.7MeVガンマ線強度を感度補正した

展望:小型衛星搭載にむけて

これらの結果を受け、本論文では小型衛星搭載にむけ装置を最適化し、期待される性能について議論しています。たとえば50kg級の小型衛星(おおよそ50cm立方サイズ)を想定すると、装置面積を20×20cmまで拡張することが可能です。また、シンチレータの厚みを厚くし、1-10MeVでの感度を高めることが期待できます。ここでは、散乱体の厚み10mm(現状では3mmを2層)、吸収体の厚み60mm(現状では40mm)が最適と仮定しました。実験と同じ条件でシミュレーションを行った結果を図5に示します。上はカメラの解像度、下は感度に相当する固有効率を占めています。青が前章の実機カメラ、黒がコンプテルの性能、赤がここで提案する「小型衛星用」カメラの性能です。いずれも、2MeV以下の領域においてコンプテルの性能に匹敵、もしくは凌駕することが分かります。コンプトンカメラのような非集光型装置では、有効面積の指標として検出器の面積(S)と立体角(Ω)の積がしばしば用いられます。SΩが大きいほど優れた装置であり、コンプテルの場合SΩは1MeVで15cm2sr、2MeVで20cm2srとなります。一方で、今回提案する装置のSΩは1MeVで11cm2sr、2MeVで6cm2srであり、圧倒的に軽量小型ながらも、コンプテルに迫る観測が期待できます。

最後に、典型的な衛星軌道(Low Earth Orbit:軌道高度500km)を想定し、2週間程度の観測(1Msec)を行った場合に期待できる感度を図6に示します。合わせて、1-10MeVの代表天体であるカニ星雲(Crab)で期待されるスペクトルを点線で示しました。カニ星雲と同程度の明るさであれば、小型衛星でも2MeV程度までの観測が十分可能であることが示されました。

図5 本研究の装置(青)コンプテル(黒)小型衛星用装置(赤)の性能比較。
上は解像度、下は検出感度(固有効率)

図6 典型的な軌道(LEO)を想定した場合、小型衛星による2週間程度の観測(1Msec)で実現される感度

研究の波及効果や社会的影響

近年、あらゆる科学分野が高度化し、その進展は多額の資金と多数の研究者を動員して行われる巨大プロジェクト(いわゆるビッグサイエンス)に委ねられる傾向が益々強くなっています。このような巨大科学は大きな恩恵を得られる反面、膨大なマンパワーと国際協力が必要で小回りが利かないこと、また成果が出るまでに長い時間を要し、開発の難しさやコストの調達など、様々な面で不可避のリスクもあります。とくに衛星開発においては、打ち上げ失敗によるリスクなどが加算され、宇宙科学の発展の高いハードルとなっている事実は否めません。これに対し、数十kg級の小型衛星は、開発コストと技術的ハードルが桁違いに低く機動性が高い反面、サイズの小ささゆえに、先端科学に貢献することは困難と考えられてきました。小型衛星は宇宙ビジネスの一翼を担うと期待されつつも、現時点では一部の通信衛星や民生部品、新規開発部品の宇宙動作実証など、用途が工学分野に限定されており、理学面での恩恵は少ないと言わざるをえません。

本研究は、このような現状に大きな一石を投じるものです。図7に示す通り、数十kg級の小型衛星でも、搭載装置を高性能化することで数トンクラスの巨大衛星と互角に渡り合えること、これにより、宇宙物理に残された「最後の窓」を開拓できる可能性を実機で検証しました。宇宙創成のビッグバン以来、我々の身の回りにある元素がどのように生成され、蓄積されたのか?元素合成の歴史は宇宙進化の歴史そのものと言えます。1-10MeVのガンマ線観測により、宇宙科学に新たな1ページが加わることは間違いありません。

図7 コンプテル衛星と、本研究で想定する50kgクラス小型衛星のサイズの違い。小型衛星でも、巨大衛星に負けず先端科学に貢献できる可能性を裏付けた

今後の課題

本研究は原理実証としてMeVガンマ線カメラの動作確認を行いましたが、今後は小型衛星搭載に向けた20×20cm2のプロトタイプ装置開発が必要です。さらに、衛星軌道上では地磁気に補足された荷電粒子の混入や、バックグラウンドとなるガンマ線の効率よい除去方法を確立することが不可欠です。より進んだフェーズにおいては、実際に搭載する小型衛星や軌道の選定、電気・通信インターフェースの調整や噛み合わせも重要な課題となります。本研究はようやくその第一歩を踏み出した段階であり、今後の進展にご期待ください。

論文情報

・掲載誌:Scientific Reports
・論文名:Development and performance verification of a 3-D position-sensitive Compton camera for imaging MeV gamma rays
・著者:Hiroki Hosokoshi, Jun Kataoka, Saku Mochizuki, Masaki Yoneyama, Soichiro Ito, Hiroaki Kiji, Fumiya Nishi, Shuji Miyamoto, Tatsushi Shima
・掲載URL:https://www.nature.com/articles/s41598-019-54862-z

研究メンバー

・早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻 細越裕希(実験リーダー)、片岡淳、望月早駆、米山昌樹、伊藤颯一郎、木地浩章、西郁也
・兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所 宮本修治
・大阪大学 核物理研究センター 嶋達志

補足情報

※1 コンプテル(COMPTEL)検出器
詳細は以下の文献を参照下さい:
・Diehl , R. et al., “COMPTEL observations of Galactic 26Al emission”, Astron. & Astrophys. 284, 445-460, (1995)

※2 コンプトンカメラ
コンプトンカメラ全般の原理や詳細については、以下の文献をご覧ください
・日本光学会機関紙「光学」2016年8月号「放射線物質を可視化するコンプトンカメラ」(片岡淳、武田伸一郎、高橋忠幸)第45巻pp.289-299
・応用物理学会「応用物理」2019年11月号「ガンマ線イメージングがつなぐ宇宙と医療」(片岡淳、第88巻, No.11 pp.730-734)

本研究は、科学研究費補助金・基盤研究(S)(H27~31年度)「実用化へ向けた高解像度3Dカラー放射線イメージング技術の開拓」(代表:片岡淳:早稲田大学理工学術院・教授)の支援を得て実施したものです。

参考URL

大阪大学 核物理研究センター 極低バックグラウンド研究グループHP
http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/Divisions/np1-c/index.html

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