生命科学・医学系

2019年8月26日

研究成果のポイント

・歯ぎしりや顎関節症の治療などに使われるマウスピース(口腔内スプリント)が、チック※1症状を軽減させることを証明した
・チックには薬物治療、認知行動療法、脳深部刺激療法※2などが行われているが、社会生活上の困難さが残る方が多数いる
・取り外し可能で簡便なマウスピースを装着することで、チック症が即時に改善され、さらには、他の精神症状も緩和されることが期待される

概要

大阪大学の村上旬平講師(歯学部附属病院障害者歯科治療部)、吉田篤教授(大学院歯学研究科口腔解剖学第二教室)、神戸大学の橘吉寿准教授(医学研究科システム生理学分野)らのグループは、マウスピース(口腔内スプリント)を装着したトゥレット症候群※3の患者さんのチックの変化を装着前後で観察し、チック症状が軽減することを証明しました(図1)

これまで、トゥレット症候群のチック治療には薬物療法、認知行動療法、脳深部刺激療法などが行われています。しかし、これらによっても症状が改善されず、生活上の困難さやハンディキャップを持ったまま社会生活を送らざるをえない患者さんにとって、新たな治療アプローチが望まれていました。

今後、チックの治療法にマウスピースを組み合わせることで、チックによるさまざまな生活上の困難が緩和できることが期待されます。

本研究成果は国際パーキンソン病・運動障害疾患学会誌「Movement Disorders」に8月24日に公開されました。

図1 マウスピースでチック症状が軽減する

研究の背景・内容

トゥレット症候群は音声チックを伴い複数の運動性チックが、1年以上持続する精神神経疾患で、治療には薬物療法、認知行動療法、脳深部刺激療法などが用いられていますが、治療法は確立しておらず、さまざまな生活上の困難をかかえている患者がたくさんいます。そのため生活上の困難さやハンディキャップを持ったまま社会生活を送らざるをえない方にとって、症状を緩和させる新たなアプローチが望まれています。

研究グループは、22名の患者でマウスピースを装着したときのチック症状の変化を観察しました。また、症状の評価は、自己評価レポートやビデオ解析を用いて点数化しました。その結果、70%以上の患者で、マウスピースを装着した後に運動および音声チックが有意に減少することが分かりました(図2)

図2 マウスピース装着によるチック症状改善の効果

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、マウスピースがトゥレット症候群のチックや生きづらさを緩和させる治療法になることが期待されます。薬物療法、認知行動療法、脳深部刺激療法など他の治療法に組み合わせることで、症状をさらに緩和させる治療法の開発につながるだけでなく、マウスピースの作用メカニズムの解明からチックのメカニズムの解明にも寄与すると期待されます。

研究者のコメント

マウスピース(口腔内スプリント)を装着し咬合すると、閉口筋筋紡錘に生じる筋紡錘感覚が無意識下で増強されます。この筋紡錘感覚の増強が、トゥレット症候群のチックを減少させた可能性を考えています。筋紡錘感覚が大脳で情動機能を担っている島皮質に伝達されることが、動物実験で明らかになっているためです。

口腔内スプリントがトゥレット症候群治療に広く応用されることをめざして、今後は、トゥレット症候群の発症/治癒のメカニズムと筋紡錘感覚との関連の研究を進めたいと思っています。(吉田教授)

特記事項

本研究成果は国際パーキンソン病・運動障害疾患学会誌「Movement Disorders」に8月24日(土)午前4時(日本時間)に公開されました。

【タイトル】”Oral splint ameliorates tic symptoms in patients with Tourette syndrome”
【著者名】村上旬平1,橘吉寿2,秋山茂久1,加藤隆史3,谷口あや1,中島好明1,下田麻央1,和氣弘明2,金生由紀子4,高田昌彦5,南部篤6,吉田篤7
1. 大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部
2. 神戸大学大学院医学研究科システム生理学分野
3. 大阪大学大学院歯学研究科口腔生理学教室
4. 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻こころの発達医学分野
5. 京都大学霊長類研究所分子生理研究部門統合脳システム分野
6. 生理学研究所生体システム研究部門,総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻
7. 大阪大学大学院歯学研究科口腔解剖学第二教室

用語説明

※1 チック(tic)
突発的で、不規則な、体の一部の速い動きや発声を繰返す状態です。運動性チックと音声チックに分かれ、運動性チックの症状には瞬き、首振り、顔しかめ、物にさわる、物をける、飛び上がるなどがあります。音声チックの症状には発声、咳払い、鼻鳴らし、汚言(人前や社会的な場で、言うことがはばかられるような汚い言葉をいってしまう)、反響言語(人の言ったことを繰返してしまう)などがあります。

※2 脳深部刺激療法(DBS:DeepBrainStimulation)
脳の深いところにある大脳基底核と呼ばれる部分に手術で電極を埋め込み、微弱な電流で刺激する治療法です。

※3 トゥレット症候群
18歳未満で発症し、複数の運動チックと音声チックが1年以上続く脳の神経の病気です。推定される有病率は学童期の子ども1000人あたり3-8人で、原因としてドーパミンを中心とする脳の神経伝達物質のアンバランスの関与が指摘されています。強迫症、注意欠如多動症、限局性学習症、発達性協調運動症、怒り発作といった症状を高率で併発するため、QOL(生活の質)が著しく低下し、生活自体が困難になるケースがあります。

参考URL

大阪大学 歯学部附属病院 障害者歯科治療部
https://web.dent.osaka-u.ac.jp/disabl/index.html

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