自然科学系

2019年7月16日

研究成果のポイント

・複数のレーザービームを1点に向けて同時照射することで、プラズマ表面に凹凸構造を作り出し、高効率のレーザー駆動粒子加速を実現。
・レーザー光自身の干渉効果※2で凹凸構造が自己生成されるため、物質表面に微細で高度な凹凸加工を行う従来の手法に比べ、容易に応用開発に適用可能。
・汎用性の高い小型レーザーを複数結合することで、四倍以上の効率改善が見込まれ、レーザーを用いた加速器の小型化と低コスト化に繋がる新たな開発指針。

概要

大阪大学レーザー科学研究所(所長 兒玉了祐)のアレシオ・モラーチェ助教と、マックス・ボルン研究所(ドイツ)、サンクトペテルブルグ大学(ロシア)との国際共同研究チームは、複数のレーザービームの同時照射で現れる干渉パターンが粒子加速を増強することを世界で初めて実証しました。

大阪大学レーザー科学研究所のLFEXレーザー※3の四本のビームを同一点に集光することで、光の干渉パターンを介して、レーザー光から電子などの荷電粒子へのエネルギー変換効率を高くできることを実証しました。本成果は、従来法であるターゲットの表面に微細な凹凸構造を施し、光の吸収率を上げる手法と比較すると、凹凸構造を干渉パターンで自己生成するため、ターゲットのコストを大幅に下げることができます。加えて、大きな高強度レーザーを一台建設するよりも、より小型で汎用性のある高強度レーザーを複数組み合わせる方が、粒子加速に適していることが明らかになり、小型で低コストのレーザー加速器の開発に繋がる成果です。

複数のレーザービームを結合することで、レーザーから電子へのエネルギー変換効率が高くなり、発生する電子のエネルギーと個数が向上するため、レーザー駆動イオン加速※4や高輝度X線源のパフォーマンスを劇的に改善することが期待されます。本成果は、医療応用や非破壊検査等に資する将来のハイパフォーマンスレーザーの開発に対する新しい方向性を示すものです。

本研究成果は、Springer Nature社が発行する総合科学誌「Nature Communications」に、7月5日(日本時間)に掲載されました(https://rdcu.be/bIIgU)。

図1 複数レーザービームの干渉効果による高効率の高エネルギー電子発生。
(a)実験の干渉パターン、(b)対応するシミュレーションで得られた電磁場の分布、(c)観測電子エネルギースペクトル。1ビーム照射と4ビーム照射で照射レーザーの総エネルギーは同じ。

研究の背景

高強度レーザーを物質に照射することでプラズマ※5状態にし、レーザー光とプラズマの相互作用によってプラズマ中の荷電粒子(電子やイオン)を加速することをレーザー加速と呼びます。特に固体薄膜を高強度レーザーで照射することで、高エネルギーのイオン加速が起こることが知られており[例:余語覚文他, Scientific Reports 7, 42451(2017)]、医療応用や構造物の非破壊検査等への応用が期待されています。

イオンエネルギーの増強には、レーザー光のプラズマ中での吸収率の向上が鍵であり、これまで固体ターゲット表面を光の波長オーダーの微細な凹凸構造に加工する方法が試みられていました。しかしこのような微細構造は、強いレーザー光の照射の初期段階で破壊されてしまい、その効果が持続しないという問題がありました。

本研究では、複数のコヒーレント※6なレーザービームを同時に同一点に重ね合わせて照射することで、物質表面に光の自己干渉パターンが発生し、微細加工の凹凸構造と同じ働きをすることを示しました。干渉パターンはレーザーの照射中に持続的に形成されているため、レーザー吸収率が劇的に向上することがわかりました。その結果、発生する電子のエネルギーと個数が飛躍的に増加することを実験的に観測しました。ビーム間の角度を最適化すれば,4倍以上の効率改善が見込まれることをシミュレーションで明らかにしました。

レーザーの干渉という光の特性を活用した本成果は、1つの強いレーザービームよりも、総エネルギーが同じ複数の弱いレーザービームの同時照射の方が、レーザーからプラズマ粒子へのエネルギー変換効率が高くなることを示した画期的なものです。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で示した光の干渉効果はレーザー照射中に持続するため、レーザーのコントラストや照射時間に依存せず、その効果を発揮することができます。また、干渉パターンはレーザーの照射角度など照射条件で制御することが可能であるため、目的に応じて発生する電子のエネルギー制御が可能となり、イオン加速や高輝度X線源などのアプリケーションの開発が一層進むと期待されます。

強いレーザービームの開発には大きな光学素子やエネルギー増幅器が必要であり、その建設費は高くなります。今回の成果により、複数の弱いレーザー光の重ね合わせが、同じエネルギーの1つの強いレーザー光よりも高い効率性を示すことが明らかになりました。これによりハイパフォーマンスレーザーシステム開発が進むと期待されます。

研究者のコメント

本研究で発見した光の干渉パターンによるレーザーパフォーマンスの向上は、人工的に作った構造を利用するのではなく、光に内在する波としての性質を利用したものです。今後も自然に内在する力を引き出すことに繋がる研究をしていきたいと思います。

特記事項

本研究成果は、2019年7月5日(金)(日本時間)にSpringer Nature 社が発行する科学誌「NatureCommunications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:" Enhancing laser beam performance by interfering intense laser beamlets"
(日本語訳 「複数レーザービーム照射の干渉を利用したビームパフォーマンス向上」)
URL:https://rdcu.be/bIIgU
著者名:A. Morace1, 岩田夏弥1, 千徳靖彦1, 三間圀興1, 有川安信1, 余語覚文1, A. Andreev2,3, S. 戸崎翔太1,4, X. Vaisseau1, 安部勇輝 1, 小島完興1,5, 坂田匠平1, 畑昌育1, S. Lee1,5, 松尾一輝1,5, 上司尚善1,4, 乗松孝好1, 河仲準二1, 時田茂樹1, 宮永憲明1, 白神宏之1, 坂和洋一1, 中井光男1, 西村博明1, 疇地 宏1, 藤岡慎介1 & 兒玉了祐1

所属
1 大阪大学レーザー科学研究所,日本
2 マックス・ボルン研究所,ドイツ
3 サンクトペテルブルグ大学,ロシア
4 大阪大学大学院工学研究科
5 大阪大学大学院理学研究科

なお、本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金(70724326, 15K21767, 15K17798, 17J02020,15K21767, 15KK0163, 16K13918, 16H02245)、日本学術振興会特別研究員奨励費(14J06592, 14J06405,15J00850, 17J02020, 17J07212, 18J11354)および研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の支援のもと実施されました。

用語説明

※1 高エネルギー密度科学
レーザーのように、短時間の内に大きなパワーが得られる装置を利用して、星の内部に匹敵する高い圧力(=高いエネルギー密度)を有する物質・プラズマを生成し、その内部状態の挙動や内部で起こる反応を観測することで、プラズマから放出されるX線や粒子の利用を目指す学際的な研究領域。レーザー核融合や実験室宇宙物理も、高エネルギー密度科学に含まれる。

※2 干渉効果
レーザー光の波としての性質によって、複数の光が重なった時に、強め合うところと弱め合うところが現れる効果。その結果、複数のレーザー光の同時照射では物質表面に干渉縞のパターンが形成される。身の回りでは、シャボン玉の表面に現れる虹色の干渉縞や蝶の羽の色などが、干渉による効果として知られている。

※3 LFEX(エルフェックス)レーザー
短いパルスで高出力が得られるレーザー装置。一瞬(1兆分の1秒=1ピコ秒)ではあるが、世界中の総発電量をも上回る超高強度出力(2千兆ワット=2ペタワット)が得られる。これは、典型的な発電所(100万キロワット)が発生する電力の200万基分に相当する。高出力レーザー装置LFEXは日本の光技術の粋を結集した最先端装置であり、国内企業の技術競争力の向上に大きく寄与するとともに、世界的に高く評価されている。

※4 レーザー駆動イオン加速
極短パルス超高強度レーザーを用いて極薄板を加熱し、薄膜表面で発生する静電場により、主にプロトン(陽子)を加速する。近年、炭素や重金属などの他イオンの加速も含め、世界各国で活発に研究が行われている。医療などの応用へ展開するため百メガ電子ボルト以上のプロトンを発生するというのが目標になっている。

※5 プラズマ
固体、液体、気体に続く第4の物質状態(相)で電離気体とも呼ばれる。物質を構成する電子の一部または全部がイオンと電子に分離した状態。

※6 コヒーレント
光(波)の干渉のしやすさを表している。レーザーはコヒーレントな光であり、干渉を起こしやすい。一方で、太陽の光や蛍光灯の光はコヒーレントな光ではないため、干渉を起こすためには様々な工夫を必要とする。

参考URL

大阪大学 レーザー科学研究所 超高強度場科学グループ
http://lf-lab.net/

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