生命科学・医学系

2019年7月8日

研究成果のポイント

・食道がんの抗がん剤投与前後のCT検査で、原発巣および転移リンパ節のサイズ測定をそれぞれ行うことで、両者の抗がん剤に対する効果が大きく異なることを明らかにした。
・とくに転移リンパ節における治療効果が、原発巣のものと比較して、術後の成績をより正確に反映することを見出した。
・食道がんにおける術後予後をより正確に予測することで、オーダーメイド治療が可能となり、治療成績の向上につながることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科大学院生の浦川真哉(博士課程)、牧野知紀助教、土岐祐一郎教授(消化器外科学)らの研究グループは、食道がんにおいて手術の前に行われる抗がん剤治療(術前化学療法※1)前後のCT検査で、転移リンパ節の治療効果が術後の再発や予後をもっとも正確に予測することを明らかにしました。

通常、治療効果の判定には原発巣※2での腫瘍サイズで評価しますが、食道は臓器の形態上測定が困難とされています。今回、牧野知紀助教らの研究グループはCT検査で腫瘍サイズの測定が可能な転移リンパ節に着目しました。転移リンパ節の縮小率を用いて予後や再発形式を評価することで、より正確に術後の予後予測が可能となることを示しました。

本研究成果により、これまでの原発巣よりもむしろ転移リンパ節において化学療法前後のサイズを測定することで、個々の食道がん患者さんに適したオーダーメイド治療が可能となり、食道がん全体の治療成績の向上につながることが期待されます(図1)

本研究成果は、米国科学誌「Annals of Surgery」に、2019年7月3日(水)に公開されました。

図1 リンパ節転移を伴う食道がん治療戦略
術前化学療法前後でのCT検査にて、すべての転移リンパ節サイズの(和の)縮小率が30%以上の際は手術を行い、30%未満のわずかな縮小のみの場合は、別の化学療法や放射線治療等を経て手術を行うことで良い成績が得られる可能性がある。

研究の背景

進行した食道がんでは周囲への転移、とくにリンパ節への転移を高い確率で伴いますが、抗がん剤治療を行った後に手術を行うのが一般的です。しかしながら、同じ手術を施行しても術後の予後が良好なのは、がんが術前の化学療法によく反応して小さくなっているケースであることが分かっています。したがって手術前の画像を用いた正確な治療効果の判定が予後予測のうえで非常に重要です。一般的に判定には原発巣が標的にされますが、食道の場合、臓器の形態上腫瘍サイズの測定が困難という問題があるため、これまでに術前に正確に抗がん剤治療効果判定を行う最適な方法は確立していませんでした。そこで、牧野知紀助教らの研究グループは、転移リンパ節に着目し、抗がん剤治療前後の転移リンパ節の縮小率と術後の予後や再発形式との関係を調べました。

本研究の成果

今回、牧野知紀助教らの研究グループは、食道がん術前化学療法前後でのCT検査結果を用いて、原発巣に加えて全ての転移リンパ節のサイズを測定することで、化学療法を行った食道がん組織での治療効果および術後の再発や長期予後をより正確に予測できることを証明しました。
まず、抗がん剤治療前にリンパ節転移ありと診断した胸部食道がん(他の臓器にがんが広がっていったものを除く)で、抗がん剤治療後に根治手術を施行した251例を対象とし抗がん剤治療前後でCT検査を行いました。251例のデータを解析した結果、抗がん剤治療前後で原発巣サイズ、転移リンパ節サイズともに明らかに縮小しており、化学療法によるがんの縮小が確認されました。この原発巣および転移リンパ節の縮小率と手術後の予後との関係をみると、それぞれ縮小率60%、30%を境にして予後が最も大きく分かれることが判明しました。予後に関する検討では、CT検査で転移リンパ節が縮小したケース(転移リンパ節サイズの縮小率≧30%)は縮小しなかったケース(転移リンパ節サイズの縮小<30%)と比較して、生存率が明らかに良いことがわかりました。また、原発巣と転移リンパ節のサイズ変化による予後評価を比較すると、転移リンパ節でのサイズ変化での評価の方が顕著に生存率を反映していました(図2)。また術後の再発形式に関しても検討すると、原発巣・転移リンパ節ともに術前化学療法後にあまり縮小しなかった群(原発巣の縮小率<60%、転移リンパ節の縮小率<30%)では縮小した群と比べるとリンパ行性※3や血行性(肺、肝臓、骨など)※4の再発頻度がそれぞれ高く、その傾向は原発巣よりも転移リンパ節で顕著でした(図3)。これらのことから、CTによる転移リンパ節縮小率30%の指標を用いることは、食道癌の治療効果予測や再発・予後予測においてもっとも優れていることが示されました。

図2 食道がん化学療法前後でのCTサイズ指標による予後予測
(A)CT評価による原発巣の治療効果と予後:原発巣縮小率が大きい方(60%以上)が術後の予後が良好である。縦軸は無再発生存率、横軸は術後経過(年数)を表す。
(B)CT評価による転移リンパ節の治療効果と予後:転移リンパ節縮小率が大きい方(30%以上)が術後の予後が良好である。また原発巣の治療効果と比較して生存率の違いが顕著である。

図3 食道がん化学療法後の治療効果(原発巣・転移リンパ節)と再発形式
(A)リンパ行性の累積再発率:原発巣・転移リンパ節いずれも縮小率が小さい群の方が再発率が高い。縦軸は累積再発率、横軸は術後経過(年数)を表す。
(B)血行性の累積再発率:原発巣・転移リンパ節いずれも縮小率が小さい群の方が再発率が高い。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これらの知見により、化学療法前後で原発巣が治療効果ありとされても転移リンパ節の治療効果が乏しいケースではリンパ行性や血行性再発が明らかに多く予後が悪いため、別メニューの化学療法や放射線療法を行うなどオーダーメイド治療の確立に大きく貢献し、最終的に食道がん全体の治療成績の改善につながるものと期待されます。

特記事項

本研究成果は、2019年7月3日(水)に米国科学誌「Annals of Surgery」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】“Lymph node response to neoadjuvant chemotherapy as an independent prognostic factor in metastatic esophageal cancer”
【著者名】Shinya Urakawa1, Tomoki Makino1†, Makoto Yamasaki1, Koji Tanaka1, Yasuhiro Miyazaki1, Tsuyoshi Takahashi1, Yukinori Kurokawa1, Masaaki Motoori2, Yutaka Kimura3, Kiyokazu Nakajima1, Masaki Mori4, Yuichiro Doki1.
【所属】
1.大阪大学 大学院医学系研究科 消化器外科学
2.大阪急性期・総合医療センター 消化器外科
3.近畿大学 医学部・大学院医学研究科 外科学(上部消化管部門)
4.九州大学 大学院消化器・総合外科
†同等貢献&責任著者

用語説明

※1 術前化学療法
手術の前に抗がん剤治療を行うこと。腫瘍を小さくしてかつ微小転移を撲滅することでより長期の生存が得られることが分かっており現在進行食道がんにおいての標準治療となっている。

※2 原発巣
最初にがん(腫瘍)が発生した病変のこと。食道癌であれば食道内にできた腫瘍(病変)のことを食道癌の原発巣という。

※3 リンパ行性再発
がん細胞が原発巣からリンパ液の流れにのって、リンパ節に移動しそこで増殖・再発すること。

※4 血行性再発
がん細胞が原発巣から血管に入り込み、臓器や器官に移動し、そこで増殖・再発すること。

研究者のコメント(牧野知紀助教)

進行した食道がんはリンパ節への転移が高率に認められますが、集学的治療のひとつとして化学療法後に手術するのが一般的です。今回の研究により、食道がんの抗がん剤の効果は原発巣と転移リンパ節とで大きく異なっていること、とくに全身への腫瘍の広がりを反映する転移リンパ節における治療効果が術後再発や生存をより正確に予測することを見出しました。今後は、これまで一般的であった原発巣の治療効果判定に加えて転移リンパ節の治療効果に応じたオーダーメイド治療が可能となり、それが最終的に食道がん治療成績の向上につながることが期待されます。

参考URL

大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻 外科学講座消化器外科学
https://www2.med.osaka-u.ac.jp/gesurg/index.html

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