工学系

2019年6月27日

研究成果のポイント

・細胞の代謝経路の流れを光照射によりコントロールする技術を開発
・これまで培養液中に薬剤を加えることで代謝を調節していたが、オン・オフ可能な光照射を利用することで代謝を動的に制御することが可能に
・多数の化学反応を経てできる生分解性プラスチック原料など有用物質生産において、微生物の培養プロセスの最適化への応用に期待

概要

大阪大学大学院情報科学研究科の清水浩教授・戸谷吉博准教授らの研究グループは、外からの光照射により、微生物の中枢代謝※1の流れ※2を自在にコントロールする技術を世界で初めて開発しました。

これまで培養液に薬剤を加えることで特定の遺伝子の発現を誘導することはできましたが、オン‐オフを繰り返しながら動的に中枢代謝の流れを制御する技術はありませんでした。今回、清水教授・戸谷准教授らの研究グループは、藻類由来のタンパク質を利用した光誘導の代謝スイッチを構築し、大腸菌の中枢代謝経路の制御に応用しました。このタンパク質は緑色光下で特定のプロモーター※3の下流の遺伝子発現を誘導し、赤色光下で抑制します。本研究によって開発した株では、主要な解糖系路の流れを緑色光と赤色光の照射により変えることに成功しました(図1)。光誘導のスイッチによる制御は、細胞の代謝を最適化し、高効率な有用物質の生産プロセスを確立するための有用なツールとなることが期待されます。

本研究成果は、国際学術雑誌「Metabolic Engineering」に公開されました。

図1 光スイッチによる代謝の流れの制御

図2 緑および赤色光下における大腸菌の培養

研究の背景・内容

大腸菌などの工業微生物を利用して、燃料アルコールや生分解性プラスチック原料などの様々な有用化合物が生産されています。その際に、原料の糖は代謝経路という多数の化学反応を経て目的物質に変換されます。代謝経路には複数の分岐点があるため、原料から目的物質への変換効率を高めるには、それぞれの分岐点における代謝の流れの割合を最適化する必要があります。従来、培養液に薬剤を加えることで遺伝子発現を誘導して分岐比を調節していましたが、一度加えた薬剤を培養液から除くことはできないため、スイッチのオン‐オフを繰り返して制御することはできませんでした。そこで、光合成生物などが有する光照射による遺伝子発現制御の仕組みに着目し、この分子装置をもともとは光による制御を持たない工業微生物の大腸菌に導入することで、外から自由にオン-オフが可能な光を利用した新しい代謝の制御技術の開発を目指しました。

清水教授・戸谷准教授らの研究グループでは、藻類由来のタンパク質CcaS/CcaRを利用することで、中枢代謝の重要な分岐点の酵素の発現量を光によって調節するスイッチを開発し、主要な解糖系路の流れを緑色光と赤色光の照射により変えることに成功しました(図1)。本研究では、多くの生物が糖の分解に利用する解糖系とペントースリン酸経路に着目し、この2つの経路の分岐点であるグルコース6リン酸イソメラーゼの遺伝子発現量の制御に応用しました。構築した細胞は、緑色光下では主に解糖系を、赤色光下では主にペントースリン酸経路を利用して糖を分解していることを実験で確認しました(図1図2)。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

細胞の中枢代謝は、生育や有用物質生産において重要な現象であり、生物工学や医療分野において、代謝の仕組みを理解し、応用するために迅速かつ可逆に代謝の流れを制御するための技術が求められています。本研究で開発した光誘導の代謝スイッチによる制御は、細胞内の代謝の流れを最適化し、高効率な有用物質の生産プロセスを確立するための有用なツールとなることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、国際学術雑誌「Metabolic Engineering」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Optogenetic Switch for Controlling the Central Metabolic Flux of Escherichia coli”
著者名:Sebastian Tommi Tandar, Sachie Senoo, Yoshihiro Toya and Hiroshi Shimizu

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業探索加速型「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域の「光駆動ATP再生系によるVmax細胞の創製」、科学研究費補助金若手B(16K18298)および基盤C(18K04850)の研究の一環として行われました。

用語説明

※1 中枢代謝
細胞内に取り込んだ糖を分解し、その過程でエネルギーを獲得する機構。多数の化学反応からなり、連続する一連の反応を代謝経路と呼ぶ。

※2 代謝の流れ
代謝経路における個々の化学反応の反応速度。代謝フラックス。

※3 プロモーター
代謝を担う化学反応の多くは酵素と呼ばれるタンパク質が触媒するものであり、これらの酵素の発現量は遺伝子の上流にあるプロモーターによって調節されている。本研究では、CcaS/CcaRによる調節をうけるプロモーターとして、シアノバクテリアのcpcG2遺伝子のプロモーター配列を利用した。

研究者のコメント

生物工学など様々な分野で、代謝の流れを可逆的に制御するための技術が求められています。本研究では、光という応用性の高い入力を新しく利用することに成功しました。このシステムに必要な構成部品の量や特性を最適化することで、代謝の流れの制御を実現しました。

参考URL

大阪大学大学院情報科学研究科 代謝情報工学講座 清水浩研究室
http://www-shimizu.ist.osaka-u.ac.jp/hp/index.html

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