特定ガスを狙い撃ち!アンモニアの高感度検出に成功

特定ガスを狙い撃ち!アンモニアの高感度検出に成功

食の安全や公衆衛生、ヘルスケア分野での活用へ

2019-5-29工学系

研究成果のポイント

・アンモニアを高選択的かつ高感度で検出できる有機結晶 を開発
・有機結晶のナノ空孔が“分子ふるい”として機能し、狙った成分だけを判別することで、従来の半導体式ガスセンサ では困難だった高いガス選択性を実現
・作業環境や呼気中のアンモニア計測が可能で、ヘルスケア分野での応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の藤内謙光准教授のグループは、極低濃度のアンモニアを選択的に検出できる材料の開発に成功しました。

これまで低濃度のガスの検出には通常、半導体式ガスセンサが用いられてきましたが、類似ガスへの選択性が低いという課題がありました。

今回、藤内准教授のグループは、独自開発したサブ・ナノスケールの空孔構造を有する有機結晶により、アンモニアだけを高選択的に検出できることを明らかにしました (図1) 。これにより、極低濃度のアンモニアを高い精度で計測することが求められる食の安全や公衆衛生、医学分野への応用が期待されます。

本研究成果の内容は、第68回高分子学会年次大会(2019年5月29日~31日開催)にて5月31日(金)に口頭発表されました。

図1 (左)開発した有機結晶、(右)種々のガスに対する応答特性

研究の背景

低濃度のガスを検出する代表的なセンサとして半導体式ガスセンサが挙げられますが、特定のガス種だけを選択的に検出するのが難しいという課題がありました。

藤内准教授のグループは、トリフェニルメチルアミンと芳香族スルホン酸および芳香族カルボン酸の有機酸から構成される多孔性有機結晶の研究に長年取組んできました。これらの多孔性有機結晶は、筒状や層状、カプセル状の空孔領域をもち、それにより刺激を与えるさまざまな化学種を固体内部までとりこみやすいため、外部刺激応答性材料として適しています。本研究においては、有機酸としてシアノアクリル酸誘導体を用いた蛍光性の多孔性有機結晶を開発しました。結晶中に存在するカプセル状の空孔が“分子ふるい”として機能することで、一酸化炭素などの無機ガスはもちろん、アセトン等の揮発性有機物質や、トリメチルアミン等の類似化合物を吸着せず、アンモニアだけを高選択的に吸着し、蛍光発光の変化として応答することを見出しました。また50ppb という極低濃度でも検出できることを確認しました (図2) 。

図2 蛍光応答特性のアンモニア濃度依存性

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、従来の半導体式センサよりも高精度なアンモニア計測への可能性が示唆されます。例えば公衆衛生分野において実験室等の作業環境で発生する有害なアンモニアの計測 や、医学分野において肝臓や腎機能との相関が示唆されている呼気中のアンモニアの計測 など、低濃度のアンモニアを高い精度で計測することが求められる分野への応用が期待されます。また、本成果が示す空孔を有する有機結晶を利用したガス検出の原理は、アンモニアに留まらず、狙った成分だけを検出する新しいガス検知材料の創出に寄与するものと考えられます。

特記事項

本研究成果の内容は、第68回高分子学会年次大会(2019年5月29日~31日開催)にて5月31日(金)に口頭発表されました。

発表番号:3J16
タイトル:“カルボン酸アミン塩からなる有機複合体のアンモニアセンサ応用”
著者:細川鉄平、稲里幸子、森田幸弘、西谷幹彦、藤内謙光

なお、本研究の一部は独立行政法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援によって行われました。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 超分子認識化学領域
http://www.mls.eng.osaka-u.ac.jp/~mol_rec/index_J.html

用語説明

有機結晶

有機分子が非共有結合性の相互作用(分子間力やファンデルワールス結合等、共有結合よりもずっと弱い結合)によって3次元的に規則性をもって集合することで形成されたもの。

半導体式ガスセンサ

酸化スズなどの金属酸化物半導体がガスと接触したときに生じる抵抗値変化をガス濃度として検知する。毒性ガスから可燃性ガスまであらゆるガスの検知に即応する汎用型のガス検知センサ。長所は低濃度ガスへの感度が高いこと。短所はガス選択性が低いこと。

ppb

Parts-Per-Billionの略で、10億分の1のこと。ppmのさらに千分の一の濃度。

有害なアンモニアの計測

<作業環境におけるアンモニアの許容濃度>

日本産業衛生学会の勧告では、ほとんど全ての作業者が毎日繰返し暴露しても、有害な健康影響が現れないと考えるアンモニア濃度の上限は25ppmと定められている。

呼気中のアンモニアの計測

<呼気中のアンモニア>

生体内のアンモニアは主に腸内のタンパク質の分解に伴って発生し、門脈や動脈で肝臓に運ばれ、尿素サイクルで尿素へ代謝され尿に排出される。また、胃潰瘍や胃がんの原因となるヘリコバクターピロリ菌からも生産される。アンモニアは呼気には必ず含まれる物質であり、生理的に正常な人間の呼気中には約1ppm以下のアンモニアが含まれる。