自然科学系

2019年4月3日

研究成果のポイント

・緑膿菌の多剤耐性化に関わる薬剤排出膜タンパク質複合体の構造決定に成功
・これまで各構成分子の構造については分かっていたが、菌体内で働いている姿を世界で初めて解明
・多剤耐性緑膿菌の新しい視点での抗菌剤の開発につながる可能性

概要

大阪大学蛋白質研究所の堤研太大学院生(当時。現特任研究員)、米原涼特任研究員(当時。現株式会社Epsilon Molecular Engineering 研究員)、岩崎憲治准教授(当時。現筑波大教授)、中川敦史教授、山下栄樹准教授らの研究グループは、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法※1を用いて、院内感染で問題になる多剤耐性緑膿菌※2で働く薬剤排出膜タンパク質複合体※3MexAB-OprM※4の構造解析に世界で初めて成功し、菌体内で複合体が構築される仕組みや薬剤排出の新しい制御機構を明らかにしました。

耐性菌が発現する一つの原因として、菌体にとって毒物である抗菌剤を薬剤排出タンパク質複合体が菌体外に排出してしまい抗菌剤を効かなくしていることが挙げられています。薬剤排出タンパク質複合体は環境の異なる膜にある2種類の膜タンパク質と1種類のタンパク質から構成されており、これまでに、各構成タンパク質の構造は明らかにされていました。しかし、これら3種類のタンパク質がどのように連携して複合体を形成し、菌体内に侵入してきた抗菌剤を排出しているのかは解明されていませんでした。

今回、山下准教授らの研究グループは、薬剤排出タンパク質複合体を安定に単離する方法を発見し、クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析法を用いて菌体内で働いている薬剤排出タンパク質複合体の構造を決定しました。今回決定した構造から複合体の構造形成に必須のアミノ酸残基や薬剤の排出過程の鍵となる動きを見出し、変異体を用いた解析により薬剤耐性が下がることを確認しました。これにより、複合体形成を阻害する化合物や複合体としての排出過程を阻害する化合物を開発できれば、新規の抗菌剤の開発に繋がる可能性があります。

本研究成果は、英国の科学誌「Nature Communications」に、4月3日(水)18時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

複数の抗菌剤が効かない多剤耐性緑膿菌による免疫不全患者への院内感染は、重篤な症状を引き起こし社会的に大きな問題となっています。緑膿菌が多剤耐性化する主な原因として、菌体内に進入した抗菌剤を排出し、抗菌剤を効かなくする薬剤排出タンパク質複合体が関与していることが知られていました。薬剤排出タンパク質複合体の薬剤排出機構を理解するために、これまで各構成タンパク質の構造が明らかにされていましたが、各構成タンパク質の構造だけでは、複合体を形成する過程や薬剤を完全に菌体外に排出するための機構が不明なままでした。

今回、山下准教授らの研究グループは、薬剤排出タンパク質複合体の各構成タンパク質を単離精製し、それらを合わせて再構成することで均質な2つの膜を貫く膜タンパク質複合体を得ることに成功し、クライオ電子顕微鏡法により複合体の構造を原子分解能で解析しました(図1)。また、構成タンパク質間の接触領域に変異を入れて複合体が機能しないことを確認することで、巨大な複合体の構造がどのようにしてできるかを明らかにしました。

さらに、抗菌剤の存在下での構造解析にも成功し、抗菌剤非存在下及び存在下の構造比較をすることにより、薬剤の取り込みを制御する場所を発見しました。

図1 二つの膜にまたがる薬剤排出タンパク質複合体の構造

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、抗菌剤の菌体外への排出を抑える化合物の設計が容易になり、これまでにない新しい仕組みに基づく多剤耐性菌に対する抗菌剤の開発に繋がることが期待されます。特に、MexAB-OprM複合体は緑膿菌における薬剤排出の最も主となる複合体分子であるので、この複合体の阻害剤ができれば、これまで排出されていた抗菌薬が菌体内で作用することになり、多剤耐性緑膿菌の特効薬となる可能性があります。

研究者のコメント

原子分解能での膜タンパク質の構造解析はまだまだ難しい現状ですが、離れた生体膜に存在している膜タンパク質をリンカーなどで繋がずに100%機能する形のままで構造解析を進めなければ、連携した膜タンパク質複合体の反応が理解できないと考え研究を進めてきました。

特記事項

本研究成果は、2019年4月3日(水)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Structures of the wild-type MexAB-OprM tripartite pump reveal its complex formation and drugefflux mechanism.”
著者名:Kenta Tsutsumi, Ryo Yonehara, Etsuko Ishizaka-Ikeda, Naoyuki Miyazaki, Shintaro Maeda, Kenji Iwasaki, Atsushi Nakagawa and Eiki Yamashita

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等支援技術基盤プラットフォーム」及び「創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム」の支援を受けて行われ、蛋白質研究所に設置されたクライオ電子顕微鏡を用いて得られた成果です。

用語説明

※1 クライオ電子顕微鏡単粒子解析法
極低温下で凍結固定したタンパク質溶液を高性能電子顕微鏡で撮影し、画像処理技術を駆使することによりタンパク質の画像を膨大な量集め 3 次元構造を構築する方法である。

※2 多剤耐性緑膿菌
健常者には通常、病原性を示さない弱毒細菌である緑膿菌が、様々な種類の抗菌剤に対して耐性を獲得した菌体である。院内感染を引き起こす菌体の一つである。

※3 薬剤排出膜タンパク質複合体
菌体の2種類の膜(外膜、内膜)を貫く膜タンパク質複合体。3種類の構成タンパク質からなり、抗菌剤、界面活性剤や色素など菌体に取っては毒となる分子を菌体外に排出する。

※4 MexAB-OprM
緑膿菌の中で、最も多く発現している薬剤排出膜タンパク質複合体である。

参考URL

大阪大学 蛋白質研究所 蛋白質解析先端研究センター 超分子構造解析学研究室
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/rcsfp/supracryst/

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