2019年3月20日

研究成果のポイント

・ライナックを用い、従来測定が不可能であった生体反応を1億分の1秒以下の実時間で直接観測した。
・ライナックは高エネルギー電子線を照射しておこる現象を観測するものであり、これまでは、物理・化学現象の追跡に用いられてきたが、生体分野での活用はされてこなかった。
・今回の手法を用いれば、生体反応機構の解明に留まらず、新しい化学反応の開発、活性酸素による種々の疾患の原因の解明、活性酸素消去剤としての新規薬物のスクリーニング等、医学・薬学へ展開が期待できる。

概要

大阪大学産業科学研究所の小林一雄特任教授は、ライナック※1(図1)を使用して、従来測定が不可能であった生体反応を1億分の1秒以下の実時間で直接観測し、特異的反応の鍵となる中間体をとらえることに成功しました。

具体的には、電子線照射したことにより生じる化学種と生体を構成するタンパク質との反応を短時間で観測しました。

また、今回用いた手法を様々な生体反応に展開し、センサー機能※2、遺伝子転写制御※3、エネルギー生成※4、薬物解毒※5等様々なこれら生体反応の鍵となる反応を解明しました。

他にも、活性酸素やラジカル※6が老化、癌、リウマチ等の種々の疾患に関与すると考えられていますが、これら化学種は不安定でその挙動は推測の域をでていません。それに対して、ライナックの特徴を生かし、活性酸素やラジカルを瞬時に生成させ、実時間で標的となる生体分子との反応を直接観測に成功しました。

本研究成果により、生体反応機構の解明に留まらず、新しい化学反応の開発、活性酸素による種々の疾患の原因の解明、活性酸素消去剤としての新規薬物のスクリーニング等、医学・薬学へ展開が期待できます。

本研究成果は、2019年2月11日に米国科学誌「Chemical Reviews」に掲載されました。

図1 研究に用いたライナック(大阪大学産業科学研究所)

研究の背景

これまで、ライナックを用いた研究は、高エネルギー電子線によって引き起こされる物理・化学現象を追跡する手段として用いられてきました。一方で、生物に対する研究は放射線損傷や癌治療等の観点から注目されてきたものの、放射線反応はレーザーを用いた研究と比較して、非特異的であり、ほとんどの研究者に注目されていませんでした。

しかしながら、ライナックは1億分の1秒と短い時間に安定で世界一の高い線量が得られるため、生体系で見られる微小な変化を定量的に解析できます。実験条件を設定すれば、そこでおこる過程は特異的あり、また放射線によって引き起こされる化学反応は、ほかの反応を起こすための手法では決して実現できない新しい化学反応になる可能性があると考えていました。

特記事項

本研究成果は、2019年2月11日に米国科学誌「Chemical Reviews」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Pulse Radiolysis Studies for Mechanism in Biochemical Redox Reactions”
著者名:Kazuo Kobayashi

用語解説

※1 ライナック
電子銃により発生した電子を真空の加速器管内で加速することで高エネルギーの電子が得られる。

※2 センサー機能
細胞は温度、酸素濃度等環境の変化に応答することが知られている。その環境変化に応答するセンサーが存在しており、センサータンパク質が機能している場合が多く見られる。

※3 遺伝子転写制御
生体の遺伝子の情報が細胞の機能に変換する過程を転写と言い、この過程は厳密に制御されている。

※4 エネルギー生成
細胞が生きていくためにはエネルギーを調達する必要がり、酸素を使って高エネルギー物質からエネルギーを取り出す系が存在する。この系では電子を運ぶタンパク質が存在する。

※5 薬物解毒
細胞が環境から取り込んだ薬物は解毒化する過程が存在しており、その最初の段階で酸素分子を使って水溶性にする。この特異的反応を行うタンパク質が存在する。

※6 活性酸素・ラジカル
生体に使われる酸素分子の一部は活性酸素と呼ばれる活性な分子種である活性酸素やラジカルが生成する。その活性酸素は種々の生体障害をひきおこす。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所付属 量子ビーム科学研究施設
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/rl/

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