生命科学・医学系

2019年2月21日

研究成果のポイント

・抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)の治療効果と治療開始時点の筋肉量の関連性を調査した。
・治療開始時点で筋肉量低下を認める場合、抗PD-1抗体の治療効果が有意に低下した。
・抗PD-1抗体の治療効果に関して、治療開始時点の筋肉量が重要な要素であることが示され、患者さんの筋肉量を維持するための取り組みが治療効果の向上に重要となる可能性が示唆された。

概要

大阪大学医学部附属病院の白山敬之特任助教(常勤)(オンコロジーセンター)、同大学院医学系研究科熊ノ郷淳教授(呼吸器・免疫内科学)らの研究グループは、抗PD-1抗体※1(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)治療の効果が、治療開始時点の筋肉量に影響を受ける可能性を見出しました。

肺がんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)は日常臨床で用いられており、治療を受けている患者さんの中には、かなり長期にわたり効果が持続するケースが見受けられます。現在、治療効果の予測因子に関する研究が世界中で進められていますが、現在のところ、高い治療効果を認める患者さんを事前に予測することは困難な状況です。近年、筋肉は運動器官としてだけでなく、内分泌器官としての機能も注目されており、筋肉から分泌されるマイオカイン※2は抗腫瘍効果をもつことが報告されています。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と患者さんの筋肉量の関係については、これまで明らかになっていませんでした。

今回、研究グループは、後ろ向き観察研究※3として、肺がんにおける抗PD-1抗体の治療効果と患者さんの筋肉量の関係を調査し(図1)、両者に相関があることを見出しました。治療開始時点で筋肉量の低下を認める患者群では、筋肉量低下を認めない患者群と比較して、抗PD-1抗体治療中の病勢進行のリスクが2.83倍となることが示されました。これにより、抗PD-1治療における効果予測において、治療開始時点の筋肉量が重要な因子となる可能性が示唆されました。今後、筋肉量を維持するための取り組みが、治療効果を上げるために重要になってくるかもしれません。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、2019年2月21日(木)午後7時(日本時間)に公開されます。

図1 腹部CTにおける筋肉量評価
大腰筋を緑色で示す。左図は筋肉量が十分であると判断されるが、右図では筋肉量低下と判断される。

研究の背景

肺がん治療において、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)は日常臨床で用いられており、その中にはかなり長期にわたり効果が持続する患者さんがいることがわかっています。これは従来の治療薬ではあまりみられなかった現象です。現在、治療効果を予測するための因子に関する研究が世界中で進められていますが、現在のところ、高い治療効果を認める患者さんを事前に予測することは困難な状況です。近年、筋肉は運動器官としてだけでなく、内分泌器官としての機能も注目されており、筋肉から分泌される生理活性物質であるマイオカインは抗腫瘍効果をもつことが報告されています。しかしながら、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果と患者さんの筋肉量の関係については、これまで明らかになっていませんでした。

本研究の成果

本研究グループは後ろ向き観察研究として、肺がんにおける抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)の治療効果と治療開始時点の筋肉量との関係を調査しました。筋肉量の評価には、腹部CTでの第3腰椎レベルにおける大腰筋の断面積を採用しています。この患者さんの腹部の筋肉量を、アジア人の筋肉量データの基準値に照らし合わせ、治療開始時点の筋肉量低下の有無を判定しました(図1)。その結果、治療開始時点で筋肉量低下を認めた群では、筋肉量低下を認めなかった患者群と比較して、抗PD-1治療薬中の病勢進行のリスクが2.83倍となることが示されました。また、全身状態に問題がないとされるパフォーマンスステータス※4が良好な群の中でも、筋肉量の低下の有無で治療成績に同様の差がみられました。さらに、少数例の検討ですが、1 年以上の長期効果を認めた群は、男性・女性ともに筋肉量が高い集団であることが示唆されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、治療開始時点の筋肉量と抗PD-1抗体の治療効果との関連性が示され、治療開始時点の筋肉量低下は効果不良因子である可能性が示唆されました。現在、抗PD-1抗体の治療効果を予測するためのバイオマーカー研究がすすめられておりますが、今回の研究で得られた筋肉量というマーカーは、既存のマーカーと異なり様々な取り組みによって改善し得る指標です。今後、抗PD-1抗体の治療効果を上げるために、筋肉量を維持するための取り組みが重要となってくるかもしれません。

特記事項

本研究成果は、2019年2月21日(木)午後7時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されます。

【タイトル】“Impact of sarcopenia in patients with advanced non–small cell lung cancer treated with PD-1 inhibitors: A preliminary retrospective study”
【著者名】Takayuki Shiroyama1*, Izumi Nagatomo1, Shohei Koyama1, Haruhiko Hirata1, Sumiyuki Nishida1, Kotaro Miyake1, Kiyoharu Fukushima1, Yuya Shirai1, Yuichi Mitsui1, So Takata1, Kentaro Masuhiro1, Moto Yaga1, Kota Iwahori1, Yoshito Takeda1, Hiroshi Kida1and Atsushi Kumanogoh1,2,3(*責任著者)
【所属】
1.大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
2.大阪大学 免疫学フロンティア研究センター(IFReC) 感染病態分野
3.大阪大学 先導的学際研究機構 生命医科学融合フロンティア研究部門

用語説明

※1 抗PD-1抗体
がんを攻撃する役割を持つ活性化したTリンパ球上に発現するPD-1という分子が、がん細胞に発現しているPD-L1やPD-L2という分子と結合することにより、Tリンパ球の活性化が抑制されます(がんの免疫回避機構)。抗PD-1抗体は、この活性化したTリンパ球上のPD-1と結合することにより、がん細胞上のPD-L1やPD-L2とTリンパ球上のPD-1が結合するのを阻害します。つまり、がん細胞からのTリンパ球への抑制シグナルを阻害し、Tリンパ球が活性化したままの状態を維持することにより、抗腫瘍効果を発揮する薬剤であり、さまざまながん腫において、その治療の有効性が証明されています。

※2 マイオカイン
筋肉から分泌される生理活性物質の総称。生活習慣病の予防や抗腫瘍効果をもつことが知られています。

※3 後ろ向き観察研究
過去の診療データなど、既存情報のみを用いて実施される研究のことをいいます。

※4 パフォーマンスステータス
全身状態の指標の一つで、患者さんの日常生活の制限の程度を示します。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/index.html

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