2019年1月9日

研究成果のポイント

1.ニホンアマガエルの合唱に見られる法則性を実験と数理モデルによって研究しました。
2.その結果を、無線センサネットワークの自律分散型制御へ応用しました。
3.生物の集団行動に関する基礎研究としての成果と、生物に学ぶ新しい技術(バイオミメティクス)としての展開が期待されます。

研究の概要

国立大学法人筑波大学システム情報系合原一究助教、大阪大学大学院情報科学研究科村田正幸教授、大学院経済学研究科小南大智助教、大学院情報科学研究科平野康晴大学院生の研究グループは、ニホンアマガエルの合唱の法則性を実験的・数理的に研究し、その成果を無線センサネットワークの自律分散型制御に応用しました。

春になり田んぼに水が入ると、たくさんのニホンアマガエルが鳴き始めます。大きな声で鳴くのはオスだけで、メスは鳴き声を聞きつけてオスに近づいていきます。本研究ではオスのニホンアマガエルの録音データを解析し、「短い時間スケールでは鳴くタイミングをずらし、長い時間スケールでは発声状態と休止状態を一斉に切り替えて合唱を形成すること、すなわち合唱のあいまで一斉に休んでいること」を見出しました。次に、このようなニホンアマガエルの行動特性を、発声状態と休止状態を確率的に切り替える数理モデル(以下、「カエルの合唱モデル」と略記)を用いて定性的に再現しました。

次に、カエルの合唱モデルを、無線センサネットワークの自律分散型制御に応用しました。無線センサネットワークは、多数のセンサ付き無線端末を空間上に分布させる通信システムです。近くの端末同士がバケツリレーのようにデータを送っていくことで、広範囲の情報収集が可能となります。本研究では、カエルの合唱モデルに基づく数値シミュレーションを行い、無線センサネットワークの制御手法としての有用性を検証しました。その結果、「近接する端末同士のパケット衝突を避けつつ、全体として通信状態と休止状態を一斉に切り替えられること」がわかりました。このような性質には、近くの端末同士のパケット衝突の回避性能に加えて、ネットワーク全体の接続性と省エネルギー性能の向上が期待できます。

本研究の成果は、2019年1月9日付で、英国王立協会が出版する科学誌「Royal Society OpenScience」で公開されました。

研究の背景

春になり、田んぼに水が入るとたくさんのカエルが鳴き始めます(図1)。大きな声で鳴いているのはオスで、メスはオスの鳴き声を聞きつけて近づいていきます。夜行性のカエルにとって、鳴き声は繁殖を効率的に進めるための大切な手段と言えます。一方で、オスはメスに向かって鳴くだけでなく、オス同士もお互いの鳴き声を聞いており、音を介してコミュニケーションしています。このようなコミュニケーションを通して、オスはバラバラに鳴くのではなく、ある種の規則性をもって鳴きます。このようなカエルの合唱の法則性を実験データから明らかにしたうえで、その原理を数式を用いて調べるのが本研究の一つ目の目的です。

次に、カエルの合唱と無線センサネットワークという一見異なるシステムの共通点に着目しました(図2)。無線センサネットワークは、多数のセンサ付き無線端末を空間上に分布させる通信システムです。近くの端末同士がバケツリレーのようにデータを送っていくことで、広範囲の情報収集が可能となります。最近では、IoT(Internet of Things,モノのインターネット)※1の基盤技術としても注目されています。無線センサネットワーク上で効率的な通信を行うための重要な観点に、「①近くの端末同士がデータを送るタイミングをずらしてパケット衝突※2を回避すること」、「②バケツリレーのようにデータを送るために、十分な数の端末が同時に起動していること」があります。このような通信に関わる問題を、カエルの合唱の法則性に基づいて解決するのが本研究の二つ目の目的です。

研究内容と成果

本研究ではまず、実験環境において、3匹のオスのニホンアマガエルを1匹ずつケージに入れて、50cm間隔で直線上に並べて鳴き声を録音した音声データ参考文献1を解析しました。その結果、「オス同士が鳴くタイミングをずらす」という先行研究参考文献1,2の結果に加えて、長い時間スケールでみると「鳴いている区間を揃える」という性質を見出しました(図3)。次に、このような性質を数理モデル※3を用いて研究しました。具体的には、個々のカエルは鳴くたびにエネルギーを失い、かつ疲労度が増すという仮説を立てました。そのうえで、エネルギーと疲労度、そして周囲で鳴いているオスの有無によって発声状態(周期的に鳴き声を発する状態)と休止状態(鳴かずに消費エネルギーを低減する状態)を確率的に切り替える数理モデルを提案しました。この数理モデルを用いた数値シミュレーションによって、実験結果を定性的に再現しました。

次に、カエルの合唱モデルを無線センサネットワークの自律分散型制御※4に応用しました。具体的には、100台のセンサ付き無線端末が置かれている状況を考え、カエルの合唱モデルにしたがって端末ごとに通信タイミングを制御しました。この数値シミュレーションから、「近くの端末同士はパケット衝突を回避しつつ、全体としては一斉に通信状態と休止状態を切り替えられること」がわかりました。このような性質には、近くの端末同士のパケット衝突の回避性能に加えて、ネットワーク全体の接続性と省エネルギー性能の向上が期待できます。

今後の展開

夜行性のカエルにとって、鳴き声はオスとメスが出会うための大切な手段です。カエルの鳴き声は一般にとても大きく、繁殖期には大量のエネルギーを消費します。このような大きなエネルギー投資をする際、どのような工夫をしているのか知りたいというのが、この研究のモチベーションです。本研究では、長時間スケールでみるとニホンアマガエルが発声状態と休止状態を一斉に切り替えること、すなわち合唱のあいまで一斉に休んでいることがわかりました。このような行動によって、夕暮れから日付が変わるころまでの長い時間、合唱を維持できているのではないかと予想しています。世界には約6500種ものカエルが知られており、中にはニホンアマガエルよりも優れた省エネルギー戦略をもつものが存在するかもしれません。さまざまな種のカエルの鳴き声を計測して、省エネルギー戦略に繋がるユニークな行動を見つけ、その秘訣を数理モデルとして抽出・解析していくのが今後の課題です。一方、このようにして抽出したカエルの合唱モデルには、無線センサネットワークなどの通信システムへの展開が期待できます。無線センサネットワークにおいては、個々の端末は有限の電力で駆動されており、端末ごとの消費電3力をどうやったら低減できるかがネットワーク全体の省エネルギー性能に直結します。近くの個体と鳴くタイミングをずらしたり、合唱のあいまで休憩するニホンアマガエルの行動には、無線センサネットワークにおける通信性能の向上や消費電力の低減との関係が期待できます。

参考図

図1 オスのニホンアマガエル。
喉にある大きな袋を膨張・収縮させて鳴き声を発する。

図2 ニホンアマガエルの合唱と無線センサネットワークの概念図。
本研究では、短時間スケールではタイミングをずらし、長時間スケールでは状態を一斉に切り替える共通点に着目した。

図3 ニホンアマガエルの鳴き声を録音した実験データ。
短い時間スケールでは鳴くタイミングをずらし、長い時間スケールでは発声状態と休止状態を一斉に切り替えている。

用語解説

※1 IoT
Internet of Things の略で「モノのインターネット」と訳される。モノ(さまざまな機械)同士がインターネットを通して、お互いに通信する状態を表す。

※2 パケット衝突
端末同士が同時にデータ(パケット)を送ると、データの受け渡しに失敗してしまう問題。無線センサネットワークではバケツリレーのようにデータを送っていくので、大事な情報を確実に届けるためには、パケット衝突をいかに減らすのかが大切となる。

※3 数理モデル
数式を用いて、世の中の現象を記述・解析すること。カエルなどの動物の行動の数理モデルの他、病気の流行や交通の流れといった様々な現象を対象とした数理モデルが提案されている。

※4 自律分散型制御
個々の端末が自分の判断で状態を制御すること。一つの端末が全体に指令を出す中央管理型と違い、自分と周辺の状態だけがわかっていればよいため、運営コストが低いという特徴がある。

参考文献

1.Ikkyu Aihara et al., "Complex and Transitive Synchronization in a Frustrated System of Calling Frogs,"Physical Review E, 83, 031913, 2011.

2.Ikkyu Aihara et al., "Spatio-Temporal Dynamics in Collective Frog Choruses Examined by MathematicalModeling and Field Observations", Scientific Reports, 4, 3891, 2014.

掲載論文

【題名】 Mathematical Modelling and Application of Frog Choruses as an Autonomous DistributedCommunication System(自律分散型コミュニケーションシステムとしてのカエルの合唱法則の数理モデリングと応用)
【著者名】 Ikkyu Aihara, Daichi Kominami, Yasuharu Hirano, and Masayuki Murata
【掲載誌】 Royal Society Open Science
doi:org/10.1098/rsos.181117

参考URL

大阪大学 大学院情報科学研究科 情報ネットワーク学専攻 村田研究室
https://www.anarg.jp/

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