生命科学・医学系

2018年12月18日

研究成果のポイント

・近年、畜産領域におけるコリスチン耐性菌の増加が報告されヒトへのさらなる拡大が懸念されています。
・難治性多剤耐性菌感染症治療において切り札となるコリスチンに耐性を示す細菌の出現は、感染症治療において大きな脅威となっています。
・今回、研究グループは、開発途上国の住民におけるコリスチン耐性菌保有状況を調べ、70.4%と極めて高率であることを明らかにしました。
・ボーダレス社会の今日では、国や地域を超えて耐性菌が容易に広がるため、国際的な耐性菌監視体制強化と迅速な蔓延予防対策が求められます。

概要

大阪大学大学院薬学研究科の山本容正招へい教授(大阪大学名誉教授)らの研究グループは、ベトナムの地方住民のコリスチン耐性菌保有状況を調べたところ、驚くことに約7割の住民が腸管にコリスチン耐性大腸菌を保有していることを見出しました。

開発途上国においては多剤耐性菌※1が蔓延し、広範囲に拡散していると言われています。多剤耐性菌の耐性遺伝子が病原菌に伝達されて生じる多剤耐性菌感染症の増加は医療への大きな脅威です。なぜなら、感染症を治療するための有効な抗生物質が無ければ、もう治療の手立てがないからです。特に、抗生物質コリスチンは、大腸菌や緑膿菌などのグラム陰性桿菌への殺菌作用を持ち、複数の抗菌薬に耐性を持つ多剤耐性菌に対する限られた治療薬の一つで、WHOが極めて重要な抗菌薬と位置付ける「切り札」です。

コリスチン耐性大腸菌は病原菌ではないので、住民自身は無症状ですが、先進国の住民からはほとんど検出されておらず開発途上国の住民にこのような極めて高い保菌が明らかになったのは初めてで、感染治療上最も懸念されているコリスチン耐性菌が想像以上のスピードで地域コミュニテイーの中で広がっていることが判明しました。

本研究の成果は、2018年11月1日に「Journal of Antimicrobial Chemotherapy」に掲載されました。

背景・内容

コリスチンは1950年に発見された古い抗菌剤で、副作用の頻度が高いことから日本では人への使用は限定されてきました。しかし、畜水産領域では飼料への添加物として世界的に広く利用されています。コリスチン耐性は、従来、細菌の染色体遺伝子突然変異※2で起きることが知られており、頻度は低いものの一定程度は観察されていました。この染色体突然変異による耐性は、他の細菌へ伝播しないため問題視されていませんでしたが、2015年に中国で伝達性コリスチン耐性遺伝子※3が発見され、コリスチン耐性の性状が他の菌にも容易に伝達することが示されるにおよび世界的な問題となりました。なぜなら、ひとたびコリスチン耐性遺伝子が他の耐性遺伝子を有する病原菌に移れば、あらゆる抗生物質にも耐性を示し、最後の手段であるコリスチンにも耐性を示す「悪夢の細菌」と呼ばれるスーパー耐性菌※4が生じる可能性が示されたからです。

開発途上国では、家畜やその食肉等に耐性菌が蔓延していることは知られています。ベトナムでは、コリスチンが家畜飼料に広く添加されているため、食肉製品にコリスチン耐性菌が含まれることを本研究グループは示してきました。今回、このような環境下における地域住民のコリスチン耐性菌保菌状況を調査しました。その結果、7割もの住民が糞便中にコリスチン耐性大腸菌を保有している実態が明らかとなりました。これらコリスチン耐性大腸菌はいずれも伝達性コリスチン耐性遺伝子を保有していることも判明しました。

ベトナム・タイビン省の地域コミュニテイー住民98人の糞便からコリスチンに耐性を示す菌の検出率(腸管に棲息している割合)は、70.4%(69人)でした。これらの耐性菌はいずれも伝達性コリスチン耐性遺伝子(mcr)を保有していることも判明しました。検出されたコリスチン耐性大腸菌はそれぞれ異なる核型※5に分類されることから、このような蔓延は特定のコリスチン耐性大腸菌株が拡散流行したものでは無く、伝達性コリスチン耐性遺伝子の伝播によると考えられます。

図1 ベトナム地方コミュニティ住民のコリスリン耐性菌保菌状況

効果・今後の展望

コリスチン耐性非病原性大腸菌※6の保菌は、保菌者に直ちに健康障害を起こすものではないため治療介入対応は現時点で必要ではないと考えられます。ただ、保菌される菌中に存在する伝達性コリスチン耐性遺伝子が他の病原菌へ伝達されると、抗生物質の効かない難治性感染症が増大し医療現場の脅威となることは明らかです。すでに大多数(7割)の住民がコリスチン耐性菌を保有する事態については、早急な公衆衛生学的対応が求められます。

特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が連携して推進する地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「薬剤耐性細菌発生機構の解明と食品管理における耐性菌モニタリングシステムの開発」(研究代表者・山本容正)ならびに日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業基盤研究(A)海外学術調査「ベトナムにおけるコリスチン耐性細菌蔓延実態の分子疫学的調査研究」(研究代表者・山本容正)の支援を受けて、大阪健康安全基盤研究所の河原隆二主任研究員、山口貴弘主任研究員、大阪大学大学院医学系研究科藤谷好弘大学院生、大阪大学大学院薬学研究科佐々木将大研究員、琉球大学平井到教授ならびにタイビン医科薬科大学(ベトナム)の共同研究者が共同で行ったものです。

本研究の成果は、2018年11月1日発行の「Journal of Antimicrobial Chemotherapy」電子版(DOI: 10.1093/jac/dky435) に掲載されました。
タイトル:Wide dissemination of colistin-resistant Escherichia coli with the mobile resistancegene mcr in healthy residents in Vietnam
著者:Yoshimasa Yamamoto, Ryuji Kawahara, Yoshihiro Fujiya, Tadahiro Sasaki, Itaru Hirai,Diep Thi Khong, Thang Nam Nguyen and Bai Xuan Nguyen

用語説明

※1 多剤耐性
3種類以上の抗生物質クラスに対する耐性。

※2 染色体遺伝子突然変異
染色体上のDNAに物理的変化が生じること。

※3 伝達性コリスチン耐性遺伝子
プラスミド(細菌細胞内で染色体とは別に自律的に複製、分配される染色体以外のDNA)に組み込まれ他の細菌に伝達されるコリスチン耐性遺伝子。現在までにmcr-1~8までの遺伝子の存在が確認されている。

※4 スーパー耐性菌
カルバペネム系抗生物質ならびにコリスチンにも耐性を示す多剤耐性菌で、結果ほとんどの抗生物質が効かなくなる。

※5 核型
制限酵素によって切断された大腸菌染色体DNAのパルスフィールド電気泳動により識別される。異なる材料より分離された大腸菌株間の系統比較が可能となる。

※6 非病原性大腸菌
通常大腸菌は病原性を持っていないが、一部大腸菌は病原性遺伝子を有する病原大腸菌に分類される。

参考URL

大阪大学 大学院薬学研究科
http://www.phs.osaka-u.ac.jp/index.cgi

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