生命科学・医学系

2018年12月18日

研究成果のポイント

・パーキンソン病に関連する脳深部での異常な脳波を制御する技術を開発した
・脳深部の小さい核の脳波を計測することは困難であったが、脳深部に留置した電気刺激治療用の電極から直接脳波を計測することで、これを制御する技術を開発した
・開発した技術を用い、脳深部の活動とパーキンソン病との関係を明らかにすることで、治療に繋がると期待される

概要

大阪大学の栁澤琢史教授(高等共創研究院)および貴島晴彦教授(大学院医学系研究科脳神経外科学)らの研究グループは、脳深部の脳波を患者さん自らが制御して変える新しい技術を開発し、パーキンソン病※1と脳深部活動との関係を明らかにしました。

これまで視床下核※2と呼ばれる脳深部の脳波異常(β振動※3)は、パーキンソン病の症状の原因と考えられておりましたが、詳細については解明されていませんでした。

今回、貴島教授らの研究グループは、脳深部から計測したβ振動をリアルタイムで計測し、患者さんにフィードバックすることで、患者さん自身がβ振動を制御することに成功し、脳深部の脳波を意図的に制御できることを示しました(図1)。さらに、β振動以外の脳活動がパーキンソン症状に大きく関与する可能性を示しました。今後、脳深部活動を制御することで、パーキンソン病の原因を明らかにし、新しい治療法の開発が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「eNeuro」に、12月18日(火)午前3時(日本時間)に公開されました。

図1 脳深部脳波のリアルタイム・フィードバック
脳の電極からの脳波シグナルからβ振動の強さを計算して黒い丸の大きさで表す。

研究の背景

これまで、脳深部の視床下核と呼ばれる部位は、パーキンソン病の症状に深く関与していることが知られていました。実際、同部位に外科的に電極を留置し、電気刺激を行うと、パーキンソン病の症状が緩和することが知られています。そのメカニズムとして、視床下核における異常な脳活動(β振動)が関与していると考えられてきましたが、β振動だけを制御する方法がなく、詳細は明らかではありませんでした。

本研究の成果

研究グループは、視床下核の電気刺激を治療として受けられているパーキンソン病の患者さんの脳波を、電気刺激装置の電池交換を受ける際に同電極から計測しました。さらに、計測した視床下核の脳波からβ振動の強さをリアルタイムに計算し、その大きさを円の大きさとして患者さんに提示することにより、患者さんは自らの意思で視床下核のβ振動の大きさをコントロールできるようになりました。実際、患者さんが10分間、この円を見ながら大きさを変える訓練を行なったところ、視床下核のβ振動が有意に変化することが示されました。これは、脳深部の脳波を意図的に制御できることを示した初めての成果です。

さらに、β振動とパーキンソン病の症状との関係を調べたところ、有意な関係が見られませんでした。これまで、β振動がパーキンソン病の症状の原因と考えられていましたが、より症状と関連する他の脳活動があることが示唆されました。今後、同様の方法で、脳活動制御を行うことで、パーキンソン病の原因となる脳活動を明らかにし、症状を緩和するための治療につながると期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、パーキンソン病の原因となる脳活動を制御し、症状をより緩和する治療の開発が期待されます。近年、脳深部刺激装置が脳波を自動解析し、刺激を制御する技術が開発されています。本研究成果は、このような技術と組み合わせることで、症状の原因となる異常な脳活動にターゲットを絞り効率的に症状を緩和する新しい治療法の開発につながると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年12月18日(火)3時(日本時間)に米国科学誌「eNeuro」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】“Real-time neurofeedback to modulate β-band power in the subthalamic nucleus in Parkinson's disease patients”
【著者名】福間良平1,2,*, 栁澤琢史1,2,3,*,※, 田中将貴1、吉田史章1、細見晃一1、押野悟1、谷直樹1、貴島晴彦1(*同等貢献、※責任著者)
【所属】
1.大阪大学大学院医学系研究科 脳神経外科
2.ATR 脳情報研究所
3.大阪大学 高等共創研究院

本研究は、AMED脳科学研究戦略推進プログラム「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明」の一環として行われました。

【研究者のコメント】<栁澤教授>

パーキンソン病に対する脳深部刺激療法は、その症状を改善する治療法として普及していますが、メカニズムは未だに明らかではありません。私たちの研究は、深部脳波と症状との関係を明らかにする新しい方法です。また最近は、脳波の状態に応じて刺激を自動で制御する機器が開発されており、本研究成果と組み合わせることで、新たな治療法の開発が期待されます。

用語説明

※1 パーキンソン病
脳深部のドーパミン産生細胞が変性することで、震えや運動障害など多彩な症状を呈する難病。脳深部(視床下核)を電気刺激することで症状が緩和することが知られている。

※2 視床下核
大脳の深部にある大脳基底核と呼ばれる小さい神経核(神経細胞の集まり)の一つ。パーキンソン病の運動症状の発現に重要な役割を果たすと考えられている。パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(Deep brain stimulation, DBS)の刺激部位でもある(図2の電極先端)。

図2 脳深部刺激療法を受けられている患者さんのレントゲン写真(左)と頭部MRI環状断(顔を正面からみた図)
電極の先端が視床下核に置かれている。赤が視床下核の部位。

※3 β振動
脳波をフーリエ変換し13-30Hzの振動成分を抽出したもの。脳深部だけでなく、脳表面の広い範囲で観察される。脳表面では運動や注意などにより変化することが知られている。

参考URL

大阪大学 高等共創研究院 栁澤研究室
https://www2.med.osaka-u.ac.jp/nsurg/yanagisawa/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top