2018年11月30日

研究成果のポイント

・高出力レーザー実験で太陽や地球の磁気圏で起こる磁気リコネクション※1を再現
・電子スケールのミクロな情報を広大な宇宙の観測で明らかにすることは非常に困難だった
・プラズマの普遍的な性質の解明が進展し、核融合研究等への貢献に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の蔵満康浩教授らの研究グループは、高出力レーザーGekko XIIを用いて、電子が駆動する磁気リコネクションを実験的に世界で初めて明らかにしました(図1)。磁気リコネクションは、磁場のエネルギーがプラズマ※2のエネルギーに変換される普遍的な機構で、宇宙空間において太陽フレアや磁気圏サブストームなど様々な現象で磁場からプラズマへのエネルギーの変換器として働きます。

これまで磁気リコネクションのトリガー機構は、電子の運動が重要な役割を果たすと考えられてきましたが、実験的な実証についてはなされていませんでした。

今回、蔵満教授らの研究グループは、弱い外部磁場の下で固体ターゲットを高出力レーザーで照射することにより、電子のみが磁場と直接相互作用する状態を作り出し、電子の運動が駆動する磁気リコネクションを実験的に初めて観測しました。これにより、ミクロの物理がマクロな現象を支配するプラズマの普遍的な性質の解明が進展し、将来的には核融合研究等への貢献が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、2018年11月30日(金)18時(日本時間)に公開されました。

図1 プラズマ発光を撮像することにより、磁気リコネクションに特徴的なプラズモイドとカスプを捉えた。

研究の背景

これまで、宇宙の研究では、遠方の現象であれば望遠鏡などを用いたマクロな全体の撮像(イメージング)や、地球の近くであれば人工衛星による「その場」でのミクロなプラズマの計測が行われてきました。それぞれミクロとマクロの情報が同時に得られないというジレンマを抱えていました。大阪大学では、以前から核融合エネルギーの開発を目指して、大型レーザーを用いた実験を行っていましたが、大型レーザー施設と関連する技術を、宇宙の研究に生かそうという提案が20年以上前に著者の1人である大阪大学レーザー科学研究所の高部英明特任教授(常勤)を中心に提案されました。いわゆる「実験室宇宙物理※3」と呼ばれる分野は大阪大学で生まれ、大阪大学主導で世界的な広がりを見せる様になってきました。本研究は、大阪大学における実験室宇宙物理研究の一環として、宇宙の主要な要素の一つである磁気リコネクションについて、大型レーザーGekko XII(GXII)を用いた実験を行いました。磁気リコネクションでは、反平行磁場が再結合するそのトリガー機構において、電子の運動が本質的であることが知られていました。しかし、電子スケールの非常に小さくミクロな情報を、広大な宇宙空間の観測で明らかにすることは困難でした。

蔵満教授らの研究グループでは、GXIIレーザーを固体ターゲットに照射しプラズマを生成し、弱い外部磁場を印加することにより、プラズマ中の電子のみが磁場と結合する状態を作り出しました。磁場を印加した場合のみプラズマが集束されることを干渉計測※4を用いて撮像しました。これは、プラズマが磁力線を押し曲げながら伝播していることを表しており、引き伸ばされた磁力線の反平行成分が磁気リコネクションを起こしうることを示しています。

さらに、雰囲気のプラズマを加え外圧を増すことにより電子運動が駆動する磁気リコネクションを実現し、特徴的なカスプ構造※5とプラズモイド※6の撮像に成功しました。また、このプラズモイドの速度から、電子運動が駆動する磁気リコネクションで生成されるアウトフロー※7の速度が電子質量で定義したアルフヴェン速度※8と同程度になることを実験的に明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、これまで検証が難しかった実験室プラズマ中の電子の役割の解明が期待されます。電子はイオンに比べ非常に軽く、その時間的空間的な挙動はイオンのそれに比べ圧倒的に小さく、プラズマの全体像を見ようとすると、電子スケールの現象を分解することは極めて困難でした。これは、宇宙空間のプラズマも同様で、全体像を捉えると細かい構造は見えず、細かい構造を見ると全体像が見えないというのが宇宙の現象を研究する上での問題でした。本研究では、地場の強さを制御することで、全体像を見つつ、電子だけが磁場と結合する系を作り出しています。磁場やプラズマの速度等を制御することは、実験における大きなメリットで、宇宙の現象を研究する強力なツールになり得ます。また、磁気リコネクションだけでなく宇宙の様々現象で、電子スケールの物理が重要な役割を果たすと考えられています。大型レーザーを使った実験的な研究が、宇宙の様々な未解決の問題に貢献できると期待されます。電子の役割はプラズマの普遍的な性質であり、将来的には核融合研究等の進展と理解にも寄与すると考えられます。

特記事項

本研究成果は、2018年11月30日(金)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Magnetic reconnection driven by electron dynamics”
著者名:Y. Kuramitsu, T. Moritaka, Y. Sakawa, T. Morita, T. Sano, M. Koenig, C. D. Gregory, N. Woolsey, K. Tomita, H. Takabe, Y. L. Liu, S. H. Chen, S. Matsukiyo, and M. Hoshino
DOI:10.1038/s41467-018-07415-3

なお、本研究は、日本、台湾、フランス、イギリス、ドイツとの国際共同研究のもと行われました。国内参加機関は、大阪大学大学院工学研究科に加えて、大阪大学レーザー科学研究所、自然科学研究機構核融合科学研究所、九州大学大学院総合理工学府、東京大学大学院理学系研究科です。

研究者のコメント

大阪大学のGekko XIIレーザーはオイルショックを契機に核融合エネルギーの実現を目指して作られました。建設されてから既に35年が経ち、アメリカや欧州の超大型レーザーと比べるとエネルギー的に何桁も劣っています。このような厳しい状況の中でも、独自のアイディアと着眼点があれば、まだまだ世界と競争していけると考えています。

用語説明

※1 磁気リコネクション
磁化プラズマ中で起こるエネルギーの解放現象。反平行磁場がつなぎ変わる際に磁場のエネルギーがプラズマのエネルギーに変換される。太陽フレアなども磁気リコネクションにより引き起こされる。

※2 プラズマ
固体、液体、気体に次ぐ物質の第4の状態。高温で原子がイオンと電子に電離した状態で、様々な集団現象を見せる。宇宙の見える物質の99%以上がプラズマの状態にある。

※3 実験室宇宙物理
核融合等の研究に使われてきた大型レーザーを用いて、宇宙の現象を実験室で模擬する比較的新しい学問。大阪大学で生まれて大阪大学で育った。

※4 干渉計測
プラズマと真空の屈折率の違いにより密度を計測する手法。昨年ノーベル賞を受賞した重力波の計測に用いられたのも干渉計測である。

※5 カスプ構造
磁気リコネクションに特徴的なくさび状の尖ったプラズマの構造。

※6 プラズモイド
磁気リコネクションの結果として、プラズマがちぎれてできるプラズマの塊。ちぎれた側の尖った構造が前述のカスプになる。

※7 アウトフロー
磁気リコネクションで磁場のエネルギーがプラズマに変換され、プラズマの流れ(フロー)として現れる。このアウトフローはアルフヴェン速度程度になることが理論的に知られている。

※8 アルフヴェン速度
プラズマ中の磁場の振動に関わる波の伝搬速度。磁化プラズマの固有の波の一種。本件に関する問い合わせ先

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 極限プラズマ工学領域
http://www.eie.eng.osaka-u.ac.jp/le/

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