生命科学・医学系

2018年11月19日

研究成果のポイント

・慢性腎臓病(CKD)患者において、睡眠の質が低い患者と睡眠時間が短いあるいは長い患者(睡眠時間5時間以下あるいは8時間超)は、CKDが進行し、透析に至るリスクが高いことを明らかにした。
・健常者では短時間睡眠などの睡眠障害がCKDのリスクであることが報告されていたが、将来透析に至るリスクが高い通院治療中のCKD患者における睡眠障害の重要性はこれまであまり評価されていなかった。
・CKD患者の睡眠障害の解消がCKDの進行抑制に繋がる可能性が示唆され、増加の一途をたどる透析患者数の抑制策の一つして、CKD患者の睡眠に注目すべきであることが示された。

概要

大阪大学キャンパスライフ健康支援センターの山本陵平講師と大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科学の猪阪善隆教授らの研究グループは、腎機能が低下している慢性腎臓病(CKD)患者1601人の睡眠に関するアンケート結果を用いて、睡眠の質が低いCKD患者と睡眠時間が短いあるいは長いCKD患者(睡眠時間が5時間以下あるいは8時間超)は、CKDが進行して透析に至るリスクが高いことを明らかにしました。

これまで、健常者において短時間睡眠などの睡眠障害はCKDのリスクであることが報告されています。一方、将来透析に至るリスクが高い通院加療中のCKD患者における睡眠障害の重要性はこれまであまり報告されておらず、米国の小規模研究(約400人)のみでした。

Chronic Kidney Disease Japan Cohort (CKD-JAC)研究※1は、国内17病院に通院中のCKD患者約3000人を追跡している大規模疫学研究です。山本講師らは、研究開始時にピッツバーグ睡眠質問票※2に回答し、睡眠の質と時間を評価可能であったCKD-JAC参加患者1601人が、追跡開始後約4年間にどれくらいCKDが進行して透析に至っているかを評価しました。その結果、睡眠の質が低い患者は、正常の患者よりも透析に至るリスクが約1.3倍高くなっていました。また、短時間睡眠(睡眠時間が5時間以下)と長時間睡眠(睡眠時間が8時間超)の患者は、約7時間睡眠の患者と比較して、透析に至るリスクが約2.1倍および約1.5倍に高くなっていました(図1)

今回山本講師らの研究グループは、日本人CKD患者の大規模疫学研究のデータを用いて、CKD患者における睡眠障害の重要性を明らかにしました。睡眠障害を認めるCKD患者では、その原因を特定し、治療介入を行うことによって、CKDの進行抑制効果が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Clinical Journal of American Society of Nephrology」に、11月16日(金)午前7時(日本時間)に公開され、オーディオサマリ(英語)がPodcastで配信されました。

図1 睡眠時間と透析に至るリスク

研究の背景

我が国の高齢化および生活習慣病の増加に伴って、高額の医療が必要な透析患者数は増加の一途を辿っており、我が国の医療費の増大の一因です。透析に至るCKD患者数を抑制するためには、喫煙や運動不足などのCKDの進行に関連するライフスタイルを特定し、それらのライフスタイルの改善に繋がる治療戦略の確立が急務です。

短時間睡眠等の睡眠障害は様々な生活習慣病のリスクですが、蛋白尿と腎機能低下で特徴づけられるCKDにおける重要性は近年まであまり評価されていませんでした。

山本講師らの研究グループは、大阪大学職員6834人の職員健診データを用いて、5時間以下の短時間睡眠が蛋白尿のリスクであることを2011年に世界で初めて報告しました。その後同様の結果が国内外から報告され、健常者において短時間睡眠はCKDのリスクであることが明らかにされました。

透析に至るリスクが高い通院加療中のCKD患者において、睡眠がCKDの進行にどのような影響を及ぼしているかは明らかではなく、CKD患者を対象にした疫学研究においてその重要性を評価する必要があります。山本講師らの研究グループは、国内17病院に通院中のCKD患者の大規模疫学研究であるCKD-JAC研究の参加者1601人の追跡データを用いて、CKD患者における睡眠の重要性を評価しました。その結果、健常者と同様に、CKD患者においても、睡眠が重要なライフスタイルであることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、睡眠の質が低いCKD患者と睡眠時間が短いあるいは長いCKD患者は、透析に至るリスクが高いことが明らかになりました。そのような睡眠障害を有するCKD患者では、その原因を特定し、その原因に応じた治療を行うことによって、透析に至るリスクを軽減できる効果が期待できます。高額な医療費が必要な透析療法に至るCKD患者数が近年増加の一途を辿っていますが、その増加を抑制する治療戦略を確立する上で、睡眠は注目すべきライフスタイルの一つであることが示されました。

研究者のコメント

日本人は、諸外国と比較して非常に睡眠時間が短い民族であり、睡眠が健康に与える影響が最も強いと考えられる国の一つです。我々の一連の研究によって、5時間以下の短時間睡眠がCKDの発症のみならず、透析への進行のリスクであることが明らかになりました。日本人の健康増進および医療費の削減には、日常生活において十分な睡眠時間を確保することが重要だと考えます。

特記事項

本研究成果は、2018年11月15日(木)17時(米国東部時間)〔11月16日(金)午前7時(日本時間)〕に米国科学誌「Clinical Journal of American Society of Nephrology」(オンライン)に掲載され、オーディオサマリ(英語)がPodcast で配信されました。

タイトル:“Sleep Quality and Sleep Duration with CKD are Associated with Progression to End Stage KidneyDisease”
著者名:Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Yoshitaka Isaka, Etsuko Yamakoshi, Enyu Imai, Yasuo Ohashi,and Akira Hishida for the CKD-JAC investigatorsPodcast
URL:https://www.asn-online.org/media/podcast.aspx

なお、本研究は、協和発酵キリンの支援によって実施されました。

用語説明

※1 Chronic Kidney Disease Japan Cohort (CKD-JAC)研究
CKD-JAC研究は、大阪大学医学部附属病院を含む国内17病院において実施されているCKD患者の大規模疫学研究です。2007~2008年にCKD患者約3000人が登録され、現在も追跡中です。

※2 ピッツバーグ睡眠質問票
睡眠の質を評価するために開発されたピッツバーグ睡眠質問票は、睡眠研究の領域において現在世界で最も活用されているアンケート調査票です。18項目の質問から、7種類の睡眠要素(睡眠の質、入眠時間、睡眠時間、睡眠効率、睡眠困難、睡眠薬の使用、日中覚醒困難)をそれぞれ0~3点で評価し、その合計点を算出します(0~21点)。一般に合計点6点以上であれば睡眠の質が低いと判定されます。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 腎臓内科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/index.html

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