生命科学・医学系

2018年7月10日

研究成果のポイント

・高脂肪食による肥満により前立腺癌が進行するメカニズムを解明
・マウスモデルを用いることにより、前立腺癌進展のメカニズムを炎症細胞に着目して検証した
・前立腺癌の一部の患者ではセレコキシブなどの鎮痛剤が有用な治療薬となる可能性があることおよび、前立腺癌の予防、治療には高脂肪食を中心とする食生活が悪影響を及ぼし、食生活の改善により前立腺癌の予防、治療につながる可能性を示唆

概要

大阪大学大学院医学系研究科の藤田和利講師、野々村祝夫教授(泌尿器科学)らの研究グループは、高脂肪食により前立腺で炎症が起こり前立腺癌の増殖が促進されること、炎症を抑制することにより前立腺癌の進展を防ぐことを明らかにしました。これまで高脂肪食による肥満は癌の進展を促進することが知られていましたが、詳細なメカニズムは解明されていませんでした。

今回、研究グループは、前立腺癌を発症する遺伝子改変マウスに高脂肪食を投与することにより、前立腺癌の進展が促進され、これらは前立腺癌局所のIL-6※1の増加と骨髄由来抑制細胞※2(MDSC)の増加により生じることを解明しました。また、抗炎症作用を有する鎮痛薬であるセレコキシブや抗リウマチ薬であるIL-6受容体の阻害剤により前立腺癌の増殖が抑制され、さらに同様の現象がヒトでも存在する可能性を示しました。これにより、これまで前立腺癌患者の治療に効果がないとされたセレコキシブなどの抗炎症作用を有する薬が、一部の前立腺癌患者では有効であると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Clinical Cancer Research」に、7月3日に公開されました。

図1 高脂肪食によって炎症が生じ、それに反応するマクロファージが産生するIL-6を介して、前立腺癌が増殖する。

研究の背景

これまでに、肥満と前立腺癌との疫学研究で、高脂肪食が前立腺癌を促進することが知られています。しかしメカニズムに関しては免疫不全マウスを用いた研究が主で、炎症・免疫細胞などの癌微小環境を含めた検討はなされておらず、ヒトに近いマウスモデルでの検討が必要でした。

本研究の成果

研究グループでは、前立腺癌を発症する遺伝子改変マウスに高脂肪食を投与し、免疫細胞の変化を調べることにより、肥満による前立腺癌増殖促進のメカニズムを解明しました。高脂肪食投与マウスでは骨髄由来(免疫)抑制細胞(MDSC)が増殖し、マクロファージ※3由来のIL-6が増加していることが明らかになりました。そのマウスに抗炎症作用を有するセレコキシブ※4または抗IL-6受容体抗体を投与すると前立腺癌増殖は抑制され、骨髄由来抑制細胞の増加も抑制されました。これにより、高脂肪食による肥満が前立腺癌増殖をきたすメカニズムはマクロファージ由来のIL6を介した前立腺癌の増殖促進と癌促進作用のある骨髄由来抑制細胞の増加によるものであることが判明しました。さらにこれらの現象は肥満の前立腺癌患者でも確認されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまでに欧米でセレコキシブの前立腺癌患者に対する前向きのランダム化試験が行われ、効果がなかったという報告がなされていますが、本研究成果により、IL-6や炎症細胞をターゲットとした治療が前立腺癌に炎症を有する患者や肥満前立腺癌患者に有用であることが期待されます。また、高脂肪食を中心とする食生活が前立腺癌の進展に悪影響を与えるため、前立腺癌の予防、治療のため食生活を見直すことが重要であると考えます。

研究者のコメント(藤田講師)

本研究は前立腺癌を発症する遺伝子改変マウスモデルを用いるため、1度の実験に半年近くかかる実験でした。これまでにヒトでの前立腺癌に対して大規模臨床研究で効果がなかったとされるセレコキシブやリウマチの治療薬として使われている抗IL-6受容体抗体が一部の前立腺癌患者さんに有用である可能性があります。また高脂肪食および肥満をおこす生活習慣の改善が前立腺癌の発症予防および治療に役立つ可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2018年7月3日に米国科学誌「Clinical Cancer Research」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】
“High-fat diet-induced inflammation accelerates tumor proliferation of prostate cancer via IL6 signaling”
【著者名】
Takuji Hayashi1, Kazutoshi Fujita1,*, Satoshi Nojima2, Yujiro Hayashi1, Kosuke Nakano1, Yu Ishizuya1, Cong Wang1, Yoshiyuki Yamamoto1, Toshiro Kinouchi1, Kyosuke Matsuzaki1, Kentaro Jingushi3,4, Taigo Kato1, Atsunari Kawashima1, Akira Nagahara1, Takeshi Ujike1, Motohide Uemura1,4, Maria Del Carmen Rodriguez Pena5, Jennifer B. Gordetsky5, Eiichi Morii2, Kazutake Tsujikawa3, George J. Netto5& Norio Nonomura1(*責任著者)
【所属】
1.大阪大学 大学院医学系研究科 泌尿器科学
2.大阪大学 大学院医学系研究科 病態病理学
3.大阪大学 大学院薬学研究科 細胞生理学
4.大阪大学 大学院医学系研究科泌尿器腫瘍標的治療学
5.アラバマ大学バーミンガム校 病理学

本研究は、日本学術振興会科研費により行われ、大阪大学 大学院医学系研究科 森井英一教授(病態病理学)、同大学院薬学研究科 辻川和丈教授、アラバマ大学バーミンガム校 病理学 George Netto 教授の協力を得て行われました。

用語説明

※1 IL-6(アイエル・シックス)
インターロイキン6の略で、T細胞やマクロファージなどから産生され、炎症や免疫を調節するサイトカイン。炎症免疫学分野や癌の増殖に関与することも知られている。

※2 骨髄由来抑制細胞
顆粒球やマクロファージなどの前駆細胞とされ、顆粒球マーカーとマクロファージマーカーを発現している骨髄由来の細胞で、炎症などで免疫寛容を誘導する。癌では癌に対する免疫を抑制することが知られている。

※3 マクロファージ
血液中の単球が組織内に入るとマクロファージになり、細菌や死んだ細胞、異物などを捕食したり、抗原提示を行う。また活性化されるとM1マクロファージ、M2マクロファージなどになり、種々のサイトカインを産生する。M2マクロファージは腫瘍増殖の促進、免疫抑制機能をもつ。

※4 セレコキシブ
シクロオキシゲナーゼ2阻害剤で、鎮痛剤として広く使用されている。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 泌尿器科
http://www.osaka-urology.jp/

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