自然科学系

2018年7月6日

研究成果のポイント

・これまでは化学者の直感にたよらざるを得なかったキラル材料の開発において、分子配置の対称性制御という新しい着想が鍵となることが明らかに
・キラル分子の磁気遷移双極子モーメントの向きに着目、効果的な配置理論の予測に基づき、S型、X型ダブルヘリセンを実際に合成、飛躍的なキラル物性の向上を実証
・3Dディスプレイ、内視鏡などの医療応用、セキュリティーペイントなどへの応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の森直准教授らの研究グループは、らせん分子の代表選手であるヘリセン(図1)※1を様々に配列・検証し、対称性の高いS型およびX型配置が物性向上の鍵となることを世界で初めて明らかとし、実際に合成して実証しました。

これまでキラル材料※2の設計・合成においては信頼できる理論体系がなく、その年代ごとに合成できるようになった分子をやみくもに作ってみるか、化学者が経験と直感をもとに個別に設計するかしかなく、理論に裏打ちされた設計指針は存在していませんでした。

今回、森准教授らの研究グループは、まず、キラル材料の代表選手であるヘキサヘリセンを様々な配置にレゴのように並べて、そのキラル物性がどのように向上されうるかを量子化学計算を用いて徹底的に調査しました(図2)。その予測結果は、対称性の高いS型、X型配置において性能の向上が見られることを示唆することが判明しました。

また、並べる数や間隔などについても検討した結果、最終的に、二つのヘキサヘリセンが融合した、ダブルヘリセンが最適な材料となりうることを見出しました。

以上の考察をもとに、今回、対称性の高い二種類のS型、X型のダブルヘリセンを検討対象として設定し、合成に成功しました。また、そのキラル物性が飛躍的に向上することを明らかとしました(図3)。さらにその要因を追求し、物性の向上には磁気遷移双極子モーメント※3の強度に加え、その方向が重要な要因であることをも解明しました。これは分子の対称性により決定されています。すなわち、美しい分子ほど性能が高いという、これまでの化学者の直感を理論的に裏付ける結果となりました。これらの研究成果は、理論と実験の両面から、完全な円偏光発光性分子を合理的に設計する指針を得る一助になったと考えることができます。また、分子そのものの設計指針が得られたという成果にとどまらず、多数の分子を並べるような超分子材料や、表面化学における適切な分子配置の指針が得られたという波及効果を伴うため、今後の多方面の材料開発において飛躍的な進展が期待されます。

本研究成果は、Springer-Nature社「CommunicationsChemistry」に、7月5日(木)19時(日本時間)に公開されました。

図1 らせん分子、ヘキサヘリセンのエナンチオマー(鏡像体)。

図2 ヘリセンを様々に配列した場合のキラル物性を理論予測し、元の物性と比較した図。
対称性の高いS型(青)、X型(赤)が有望であることが確認できる。

図3 実際に合成されたX型およびS型のダブルヘリセンの化学構造と結晶構造。
本研究において、高い対称性により優れたキラル物性を示すことを実証した。

研究の背景

キラル材料、即ち右手型・左手型の3次元的な分子構造に基づく先端材料において、これまでは、点不斉、軸不斉、面不斉、らせん分子などが用いられてきました。しかしながら物性を飛躍的に改善するための論理的な設計指針は存在せず、化学者の直感に基づく個別の検討を中心に、少しずつ発展するにとどまっていました。

森准教授らの研究グループでは、分子そのものに手を加える(置換基導入)という従来型の方法を採用せず、まず、らせん分子をどのように並べれば物性が向上するのかを理論的に検証しました。また、その予測結果に基づき、実際にS型、X型の二種類の縮環したダブルヘリセンを合成しました。これらの分子は対称的で非常に美しい構造をしています。また、これらの分子が、予測どおりの優れたキラル物性を示すことも明らかとなりました。具体的には、ベンゼン環あたり(分子の大きさに相応)にして、50%~70%の物性の向上が達成されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、美しくて高性能なダブルヘリセンが得られたことになりますが、それ以上に、いかに論理的に分子を配置し、あるいは設計すればよいかという、キラル材料の論理的な新しい方法論が明らかとなりました。すなわち、直感的な設計・合成、検証という従来型の材料開発から脱却した戦略により、材料開発コストを飛躍的に改善することが可能になりました。これらの成果により、近年注目を集めている、3Dディスプレイや医療現場の内視鏡技術、セキュリティーペイントなどの情報通信分野での応用などの先端材料科学分野において(図4)、技術革新の飛躍的なスピードアップに貢献するものと期待されます。

図4 キラル材料の想定される応用分野。
円偏光発光(CPL)などの利用が期待されている。

研究者のコメント

美しい分子に性能が宿ることは直感的に正しいという感覚は持っていましたが、今回のキラル材料の研究において、理論的な裏付けが得られました。キラル材料そのものは一般的にはなじみの薄いものかもしれませんが、このような概念は様々な材料設計に応用可能な着眼点であるものと期待しています。

特記事項

本研究成果は、2018年7月5日(木)19時(日本時間)にSpringer-Nature社「Communications Chemistry」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Symmetry-based rational design for boosting chiroptical responses”
著者名:Hiroki Tanaka, Mina Ikenosako, Yuka Kato, Michiya Fujiki, Yoshihisa Inoue, and Tadashi Mori*
なお、本研究は、文部科学省科学研究補助金の研究の一環として行われました。

用語説明

※1 ヘリセン
複数の芳香環が辺を共有しながら縮環した化合物。三次元的な制限により、左巻き、右巻きのらせん構造を有することが特徴であり、一般に強いキラル物性を示す。ベンゼン環の数によって、ペンタヘリセン(ベンゼン環5つの場合)、ヘキサヘリセン(同6つ)、ヘプタヘリセン(同7つ)などと呼称される。

※2 キラル材料
右手型、左手型を示し、またそれらを識別することのできるような先端材料。3Dディスプレイ、内視鏡、セキュリティーペイントなどへの応用が期待されている。

※3 磁気遷移双極子モーメント
二つの異なる電子準位間を分子が遷移するとき、電磁波の磁気的部分とどのようなカップリングをしているかを表す物理量。キラル物性を特徴づけるものであり、分子がどの程度ねじれているかなどの立体構造の指標となる。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 応用科学専攻 分子創生学講座 木田研究室
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~kida-lab/

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