自然科学系

2018年6月27日

研究成果のポイント

・大きな表面積を持った安定な水素結合性の有機フレームワーク(HOF)※1を構築し、6つのカルボキシアリール基をもつ HAT※2骨格が、高結晶性の有機多孔質材料※3の構築に有用な基本骨格であることを初めて実証
・HOFは結合が弱く、壊れやすいなどの問題点があったため、大きな表面積を持ち、熱的・化学的に安定なHOFを構築するための、普遍的な方法が求められてきた
・二酸化炭素を内部に吸収し、アルコールに変換するなどの機能を有した多孔質材料への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の久木一朗助教、鈴木悠斗氏(大学院生)、藤内謙光准教授とカスティーリャ・ラ・マンチャ大学(スペイン)のAbderrazzak Douhal(アブドルザク ドウハル)教授らの国際共同研究チームは、カルボン酸の水素結合という弱い力で分子をつなげたにもかかわらず、分子同士の滑らない強固な重なりと水素結合ネットワークの3次元的な編込みにより、耐熱性・耐薬品性に優れ、かつ大きな表面積を持った単結晶性、蛍光発光性の水素結合性有機フレームワーク(HOF)の開発に成功しました。本多孔質材料は、1 gあたり1288 m2の広いBET比表面積※4をもち、大気下において305℃までその構造を維持することができます。また、通常は水素結合を開裂させてしまうようなアルコールや濃塩酸に浸漬して加熱しても、その構造は壊れないなど、従来のHOFと比較して、著しく安定な材料であることが分かりました。

そのようなHOFはこれまでも散見されましたが、設計通りの構造を体系的に構築することは難しく、その方法論の確立が求められてきました。一方、これまでに当研究チームは、6つのカルボキシフェニル基をもったHAT誘導体(CPHAT)が、高い耐熱性をもったHOFを与えることを見つけていました。久木助教らはこのHAT誘導体が安定で高い表面積を示すHOFを構築するための鍵となる基本骨格であると考え、より長い腕をもったHAT誘導体(CBPHAT)を合成・結晶化することで、熱的・化学的に安定でより高い表面積を示す今回のHOFを得るとともに、HAT骨格の有効性を実証しました(図1)。これにより、HAT誘導体の特徴を生かして、様々な大きさ・形状・表面の化学的性質を持った熱的・化学的に安定な有機多孔質材料の開発が可能になります。

本研究成果は、2018年6月9日(土)(日本時間)にWiley-VCH Verlag GmbH社のドイツ化学会誌(Angewandte Chemie International Edition)のジャーナルHPにオンライン版として公開されました。

図1 6つのカルボキシアリール基を持ったHAT誘導体をもちいて構築した、非常に安定な多孔質構造体。

研究の背景

内部に規則的に並んだナノメートルサイズの空間をもつ材料は、有機分子やガスなどの吸着・貯蔵材として、立体選択的な化学反応の場として、あるいは有機エレクトロニクス材料として、近年非常に活発に研究されています。有機分子をいろいろな結合(共有結合、配位結合、水素結合など)でつなぎ合わせてフレームワークを作ることによって、目的に応じた多種多様な多孔質材料を構築することができます。中でも、比較的弱い分子間相互作用である水素結合によって有機分子をつなぎ合わせたフレームワーク(HOF)は、再結晶などの簡便な操作によって、高い結晶性の多孔質材料を作成できます。また、特定の溶媒に簡単に溶解するので、使用後の回収・再生が容易に行えます。一方、その結合の弱さゆえに、大きな穴の開いた構造はできにくく、また、穴の中にたまった溶媒分子を取り除くと構造が壊れやすいなどの問題点があり、大きな表面積を持ち、熱的・化学的に安定なHOFを構築するための、より普遍的な方法が求められてきました(図2)

図2 水素結合でつなぎ合わせた多孔質構造体の構築。穴の中にたまった溶媒分子を取り除いても構造が壊れずに保たれる必要がある。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、HAT誘導体が、(1)水素結合を通じて、(2)3次元状のネットワークを構築し、(3)さらにそのネットワークが相互貫入するとともに、(4)分子が滑らないように積層することによって、極めて安定なフレームワークを構築することを見出しました(図3)。本研究で示したHAT誘導体の特徴を生かしたHOFの構築方法を用いることで、さらに様々な大きさ・形状・表面の化学的性質を持った熱的・化学的に安定な有機多孔質材料の開発が可能になります。これにより、例えば温暖化ガスを内部に選択的かつ大量に吸収できる多孔質材料や、内部で二酸化炭素をエタノールなどの有用な化学物質へと変換できる多孔質材料など、現在世界中で開発が進められている機能性多孔質材料の開発が躍進することが期待されます。

図3 (1)水素結合の形成、(2)3次元ネットワークの構築、(3)ネットワークの相互貫入、および(4)滑らない分子の積層を経た極めて安定な多孔質フレームワークの形成

特記事項

本研究成果は、2018年6月9日(土)(日本時間)にWiley-VCH Verlag GmbH社のドイツ化学会誌(Angewandte Chemie International Edition)のジャーナルHPにオンライン版として公開されました。
タイトル:“Docking Strategy to Construct Thermostable, Single-crystalline, Hydrogen-bonded Organic Framework with Large Surface Area”
著者名:Ichiro Hisaki, Yuto Suzuki, Eduardo Gomez, Boiko Cohen, Norimitsu Tohnai, and Abderrazzak Douhal
DOI:10.1002/anie.201805472
ジャーナルHP:https://onlinelibrary.wiley.com/journal/15213773

なお、本研究は、文部科学省、日本学術振興会科学研究費助成事業(KAKENHI;JPT15K04591, JPTA18H019660)およびスペイン財務省(MINECO;MAT2014-57646-P, FPU15/01362)による支援を受けて行われました。

用語説明

※1 HOF(Hydrogen-bonded Organic Framework)
水素結合性の有機フレームワークのこと。特に内部に空間を持った構造体を指すことが多い。適切な位置に水素結合基を導入した有機分子は、溶液からの結晶化の際に、水素結合によって分子が規則的に連結された高い結晶性の構造体へと集合する。このような構造体を、HOFと称する。

※2 HAT
Hexaazatriphenylene(ヘキサアザトリフェニレン)の略称。ベンゼンに3つのピラジン(ベンゼンの1,4位の炭素原子が窒素原子に置き換わった環状分子)が縮環した3回対称性の多環式芳香族複素環化合物。

※3 有機多孔質材料
有機分子を構成要素に取り入れた多孔質材料(内部に非常に多くの細孔を持った材料)のこと。様々な化学反応を用いて多種多様な構成分子を合成することができるため、目的に応じた細孔の形、大きさ、あるいは化学的性質をもった多孔質材料の設計・構築が可能になると期待されている。

※4 BET比表面積
S. Brunauer、P. H. Emmett、E. Tellerの3名によって提案された多分子層吸着の理論に基づいて、実測の吸着等温線から求める多孔質材料の単位質量あたりの表面積のこと。吸着測定は、窒素などの不活性ガスを用いて低温(液体窒素の温度、-196℃)で行われることが多い。BET理論は、本来は比較的大きな細孔をもつ吸着材に対して適応できるが、最近は多孔性を比較する指標の一つとして幅広い系に対して用いられている。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学専攻 物質生命工学コース 超分子認識化学領域
http://www.mls.eng.osaka-u.ac.jp/~mol_rec/index_J.html

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