2018年6月18日

研究成果のポイント

・わずか5℃の温度差で1平方cmあたり12マイクロワットの電力をみ出せる熱電変換素子の開発に成功しました。
・現在の半導体集積回路と同じ方法で作製できるため、大量生産により加工コストを大幅に下げることができます。
・身の回りにある小さな温度差をエネルギー源とする、IoT社会を支える環境電源技術として役立つと期待されます。

概要

早稲田大学の富田基裕(とみたもとひろ)次席研究員、および渡邉孝信(わたなべたかのぶ)教授、大阪大学の鎌倉良成(かまくらよしなり)准教授、静岡大学の池田浩也(いけだひろや)教授らの研究チームは国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同で、半導体集積回路の微細加工技術を応用した、体温で発電する高出力密度の熱電発電素子の開発に成功しました。

近年、身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)社会にむけて、環境中の微小なエネルギー源から電力を生み出して小さなセンサ端末を駆動させる技術の開発が世界で活発化しています。今回の発明は、素子構造が簡単で、現在の半導体の微細加工技術で大量生産することが可能であり、集積化すると1平方センチメートル当たり10マイクロワット以上の電力を生み出すことを実現しました。

本研究成果は、米・ハワイで6月18〜22日(現地時間)に開催される「VLSIシンポジウム(2018Symposia on VLSI Technology and Circuits.)」にて発表しました.

なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CRESTの助成を受けて実施されました。
研究領域:微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出
研究課題名:計算科学を駆使したオン・シリコン熱電デバイスの開発
研究代表者・研究機関:渡邉孝信・早稲田大学

これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

物質に温度差をつけると起電力が生じる現象はゼーベック効果と呼ばれ19世紀から知られている。ゼーベック効果を利用した熱電発電は、太陽光発電などと比べて発電効率が悪く、応用が限られていた。2000年代に入ってナノテクノロジーが急速に進歩し、高い発電効率を可能にする新物質が次々に開発された。半導体集積回路につかわれるシリコンも、ナノメートルサイズの太さのワイヤ形状(ナノワイヤ)にすることで高い発電効率を実現できることが10年ほど前から分かっており、現在、シリコンの微細加工技術を使った小さな熱電発電素子の開発が世界中で行われている。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

シリコンのナノワイヤで高効率の熱電発電をさせるには、大きな温度差をナノワイヤ内に維持する必要がある。このため従来は、ナノワイヤを長くして熱抵抗を大きくし、熱がナノワイヤの周辺に漏れないようにシリコン基板に空洞を設けてナノワイヤを空中に架橋させる構造が採用されてきた。しかし、シリコン基板をくり抜くと機械的な強度が低下するのに加え、高密度で素子を集積できない、製造コストが高くなるなどの課題があった。

これに対し、当研究グループが発明したシリコンのナノワイヤ型熱電発電素子では、基板表面から裏面への適切な熱流制御によって、空中架橋せずに大きな温度差を短いナノワイヤ中に発生させることができる。この方式であれば、ナノワイヤを短くするほど単位面積あたりから生み出せる電力が増えることがシミュレーションで予測されている。また、現在の半導体集積回路の製造方法と同じ方法で作製できるため、大量生産により加工コストを大幅に下げることもできる。

 

図1 左:従来のナノワイヤ型熱電発電素子の構造。右:当グループが発明した熱電発電素子の構造。

そのために新しく開発した手法

最先端の半導体集積回路の製造ラインでも使用されている液浸ArF露光装置を用いて、シリコンのナノワイヤを用いた熱電発電素子を作製し、印加温度差と発電量の関係を様々な長さのナノワイヤで測定した。裏面への排熱効率を向上させてナノワイヤの内の温度差を維持するため、通常750マイクロメートルの厚さがある大口径シリコン基板を研磨して50マイクロメートルまで薄くした。

 

図2 左:当グループが発明した熱電発電素子の温度分布。右:今回の研究で得られた発電密度と先行研究の発電密度の比較。

今回の研究で得られた結果及び知見

その結果、シミュレーションの予測通り、ナノワイヤを短くするほど発電量が上昇することを確認した。長さ250ナノメートルのナノワイヤを用いた場合、空中架橋される従来のシリコンナノワイヤ熱電発電素子と同水準の発電密度に達することを確認した。シリコン基板を薄くすることでさらに発電密度が10倍に増え、わずか5℃の温度差から、1平⽅センチメートルの面積あたり12マイクロワットの電力が生み出せることが分かった。

研究の波及効果や社会的影響

今回達成した発電性能は、体温と大気の間の温度差など、身の回りにある小さな温度差をエネルギー源として、センサの駆動と間欠的な無線通信を可能にする電力であり、今後のIoT社会を支える環境電源技術として役立つと期待される。

今後の課題

今後は実際に大規模集積化せた熱電発電素子を試作し、発電モジュールとしての性能を確認する必要がある。また、発電素子に定常的に温度差を設ける実装上の⼯夫、時間的な温度ゆらぎを捉えて発電できる素子構造を検討し、様々な環境で熱電発電が行えるようにする必要がある。

研究メンバー

・早稲田大学
研究院 富田基裕次席研究員(筆頭著者)、理工学術院 渡邉孝信教授(論文責任著者)
・大阪大学
大学院工学研究科 鎌倉良成准教授
・静岡大学
電子工学研究所 池田浩也教授

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 集積エレクトロニクス講座
http://www.si.eei.eng.osaka-u.ac.jp/index.html

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