磁場中で逆回転する電子と電磁波の一体化を実証
量子コンピュータのノイズ問題解消への新展開
研究成果のポイント
・互いに逆に回転する電子と電磁波が一体となって回転することを実証
・これまで一体化の影響は小さく無視できるものだったが、電子と電磁波を非常に高く協同させることで可能に
・逆回転する電子と電磁波の一体化によってノイズの影響を受けない光の粒を作り出すことができ、量子コンピュータなどの実用化のために不可避なノイズ問題に対する、全く新しい解消法の確立につながる
概要
大阪大学大学院基礎工学研究科の馬場基彰招へい教員(科学技術振興機構さきがけ研究者兼務)は、横浜国立大学の吉岡克将氏(博士課程後期3年)、米国ライス大学の河野淳一郎教授とシンウェイ・リー氏らと共に、互いに逆回転する電子と電磁波が一体となって回転することを、実証しました。
これまで磁場中で回転運動する電子が、同じ向きに回転する電磁波と結合し、一体となって回転(一体化)することは知られていましたが (図1) 、互いに逆回転する電子と電磁波の一体化については、検出されたことがありませんでした。
今回、馬場招へい教員、吉岡氏及び河野教授らの国際的な研究チームは、電子と電磁波を従来よりも高く協同させられる試料と電磁波の共振器 を作成することで、電子とは逆回転する電磁波が共振する回転速度が、電子との結合によってずれることを検出しました。また、この回転速度のずれが逆回転する電子と電磁波の一体化の証拠であることを理論的に示しました。今回の一体化の検出の成功により、ノイズの影響を受けない光の粒を作り出すことができ、量子コンピュータなどの実用化に向けて常に問題となるノイズ問題に対して、全く新しい解消法を確立できる可能性があります。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Photonics」に、4月17日(火)午前0時(日本時間)に公開されました。
図1
磁場中で回転運動する電子が、それと同じ向きに回転(順回転)する電磁波だけでなく、逆回転する電磁波とも一体となって回転することが実証された.
研究成果
これまで、磁場中で回転運動する電子が、同じ向きに回転する電磁波と非常に強く結合して一体化することは知られていましたが、逆回転する電磁波との一体化は観測された例はなく、それが起こりうることも、あまり認識されていませんでした。その観測のために、河野教授らの実験グループは、マイケル・マンフラ教授(米国パデュー大学)の研究グループが作成した、電子がほとんど衝突なく回転できる非常に綺麗な半導体膜試料を、電磁波を長時間閉じ込めることができる共振器に組み込み、電子と電磁波とが高く協同するようにました。また、吉岡氏とも協力し、共振器に照射する電磁波の回転方向を制御した上で、それが共振する回転速度が、磁場の強さによってどのように変化するのかを測定しました。その結果、電子の回転運動と逆回転する電磁波でも、それが共振する回転速度が磁場の変化と共に変化する様子を観測することに成功しました。馬場招へい教員は、この回転速度の磁場による変化が逆回転する電子と電磁波の一体化の証拠であることを、回転運動する電子と電磁波の運動方程式から出発して解析していくことで、理論的に示しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、量子コンピュータや量子情報通信などの量子情報技術の実用化に向けて常に問題となるノイズ問題に対して、全く新しい解消法を確立できる可能性があります。電磁波を用いた量子情報処理においては、光子という電磁波(光)の粒1つ1つに情報を担わせますが、ノイズによる情報の改変や、光子自体がいなくなってしまうことが問題となります。逆回転する電子と電磁波の一体化によって、ノイズの影響を受けない光子を作り出せることが知られています。その一体化の実証に成功した本研究成果を今後発展させていき、ただ光子を作り出すだけでなく、その光子を自在に制御できる技術を確立していくことで、量子情報技術が直面するノイズ問題に対して全く新しい解消法を確立できる可能性があります。
特記事項
本研究成果は、2018 年4 月17 日(火)午前0 時(日本時間)に英国科学誌「Nature Photonics」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Vacuum Bloch-Siegert shift in Landau polaritons with ultra-high cooperativity”
著者名:Xinwei Li, Motoaki Bamba, Qi Zhang, Saeed Fallahi, Geoff C. Gardner, Weilu Gao, Minhan Lou,Katsumasa Yoshioka, Michael J. Manfra, and Junichiro Kono
なお、本研究は、浜松ホトニクスの河田陽一氏と高橋宏典氏の協力を得て行われました。また、米国ArmyResearch Office、米国National Science Foundation、米国Department of Energy Office of Basic Energy Sciences、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業から支援を受けました。
また、吉岡克将氏はJSPS の二国間交流事業制度の支援を受けて本研究チームに参加しました。
参考URL
大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻
http://www.es.osaka-u.ac.jp/ja/department/graduate/mes.html
用語説明
- 共振器
光は時間とともに振動する波であり、2枚の鏡を向かい合わせると、それらの間で光が何度も反射されながら閉じ込められる。2枚の鏡の距離に応じて決まるある特定の振動数の光だけが閉じ込められる(共振する)ことから、光の共振器と呼ばれる。光だけでなく、電波などの一般的な電磁波についても共振器を作ることができ、本研究ではテラヘルツ領域の振動をする電磁波を閉じ込めた。