生命科学・医学系

2018年4月10日

研究成果のポイント

・脂肪組織酸化ストレスを除去することにより、肝臓への脂肪蓄積が減少し、インスリン抵抗性が改善され、健康的な肥満を誘導することを明らかにした。
・肥満状態の脂肪組織では、増加した酸化ストレスによって中性脂肪蓄積は抑制されるが、脂肪肝などの異所性脂肪蓄積が生じて糖尿病の発症につながる。
・脂肪組織酸化ストレスを標的とすることにより、代謝異常を合併しない健康的な脂肪蓄積を誘導する治療法の創出につながる。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の福原淳範寄附講座准教授(肥満脂肪病態学)、奥野陽亮助教(内分泌代謝内科学)らの研究グループは、脂肪組織酸化ストレスを抑制することで、健康的な肥満を誘導することを明らかにしました。

これまで、肥満状態の脂肪組織では、酸化ストレスが増加することが知られていましたが、その役割は不明でした。今回、脂肪組織特異的に酸化ストレスを増加または除去した遺伝子改変マウスを作出し、それぞれについて解析したところ、脂肪組織酸化ストレスは健康的な脂質蓄積を抑制し、肝臓への脂肪蓄積を増やし、インスリン抵抗性を悪化させていることが明らかになりました。

本成果により、脂肪組織酸化ストレスを標的とすることにより、代謝異常を合併しない健康的な脂肪蓄積を誘導する治療法の創出につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Diabetes」に、4月4日(水)に公開されました。

図1 インスリン抵抗性のレベルによる、通常の肥満と健康的な肥満
過食・運動不足により肥満になると、インスリン抵抗性が高くなる。脂肪組織酸化ストレスを抑制すると、インスリン抵抗性が改善され、健康的な肥満となる。

研究の背景

本研究グループは、これまでに、肥満状態では脂肪組織の酸化ストレスが増加し、肥満に伴う代謝異常の発症と関連することや、酸化ストレスがアディポサイトカイン※1の制御異常を誘導することを報告してきました。肥満は過食や運動不足により引き起こされます。肥満といっても、インスリン抵抗性や代謝異常を合併する病的な肥満者と、これらを合併しない健康的な肥満者がいますが、この2者を区別する分子メカニズムは不明でした。

本研究の成果

脂肪細胞特異的なaP2プロモータ※2を用いて2種の抗酸化酵素(カタラーゼとSOD1)を過剰発現させることで、脂肪細胞特異的に酸化ストレスを除去した遺伝子改変マウスを作成したところ、脂肪組織量は増加する一方、肝臓への脂肪蓄積は減少し、インスリン抵抗性が改善しました。反対に、脂肪細胞特異的なアディポネクチンプロモータCre※3を用いて、脂肪細胞特異的に抗酸化物質グルタチオンを除去し、酸化ストレスを増加させた遺伝子改変マウスを作成したところ、脂肪組織量が減少する一方、肝臓への脂肪蓄積が増加し、インスリン抵抗性が悪化しました。そのメカニズムとして、酸化ストレスによって脂肪細胞のSREBF1※4の転写活性が抑制されることで、脂質合成酵素の発現量が減少することを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

脂肪組織酸化ストレスを標的とした薬剤を創出することにより、健康的な脂質蓄積を誘導し、肥満2型糖尿病の治療につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年4月4日(水)に米国科学誌「Diabetes」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Oxidative stress inhibits healthy adipose expansion through suppression of SREBF1-mediatedlipogenic pathway”
著者名:Yosuke Okuno1, Atsunori Fukuhara1,2,*, Erika Hashimoto1, Hironori Kobayashi1, Sachiko Kobayashi1,3, Michio Otsuki1and Iichiro Shimomura1(*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 代謝血管学

用語説明

※1 アディポサイトカイン
脂肪細胞はアディポネクチンや炎症性サイトカインなどの様々な生理活性物質を分泌しており、アディポサイトカインと総称される。肥満状態におけるアディポサイトカインの発現・分泌異常は、肥満に伴う糖尿病や慢性炎症、動脈硬化性疾患と深く関連する。

※2 aP2プロモータ
脂肪細胞特異的に発現するaP2遺伝子の転写制御領域。

※3 アディポネクチンプロモータCre
脂肪細胞特異的に発現するアディポネクチン遺伝子の転写制御下にCre遺伝子を発現する遺伝子改変マウス。

※4 SREBF1
Sterol Regulatory Element Binding Transcription Factor 1の略称。脂質合成関連遺伝子の転写調節を行う転写因子。

研究者のコメント

肥満した脂肪組織において酸化ストレスが増加する事は、2004年に当研究室が報告したが、脂肪組織特異的に酸化ストレスを制御したモデルの作出が困難であり、これまでその意義は不明だった。今回は、2種類の抗酸化酵素を同時発現させる事により、脂肪組織酸化ストレスを除去する事に成功し、脂肪組織酸化ストレスが健康的な脂肪蓄積を抑制する事を見出した。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/endmet/www/home/index.html

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