生命科学・医学系

2018年4月9日

研究成果のポイント

・飢餓状態と肥満状態の両者に共通して、脂肪細胞での発現量が上昇する因子としてSDF-1※1を見出した。
・SDF-1は脂肪細胞が分泌するアディポサイトカイン※2であり、脂肪細胞におけるインスリンの効きを悪くすることを発見した。
・SDF-1シグナルを阻害することで、肥満2型糖尿病の治療につながることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科の福原淳範寄附講座准教授(肥満脂肪病態学)らの研究グループは、脂肪細胞が分泌するSDF-1が脂肪細胞のインスリンの効きを悪くし、インスリン誘導性の糖取り込みを低下させることを発見しました(図1)

飢餓状態と肥満状態ではインスリンが作用しにくくなります。今回、マイクロアレイデータベースを用いた解析によって、脂肪細胞において飢餓状態と肥満状態で発現が増加する因子としてSDF-1を見出しました。SDF-1は脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインであり、SDF-1が脂肪細胞のインスリンシグナルを障害することで、インスリン誘導性の糖取り込みが低下することを発見しました。実際に、脂肪細胞のSDF-1を欠損したマウスでは血糖値が低下しており、インスリンが作用しやすくなっていました。

本研究の成果を受けて、SDF-1シグナルを阻害することで脂肪細胞のインスリン感受性を増強させ、肥満2型糖尿病の治療につながることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Diabetes」に、3月28日(水)に公開されました。

図1 脂肪細胞由来SDF-1は脂肪細胞のインスリン誘導性の糖取り込みを低下させる
インスリンはインスリン受容体と結合し、IRS-1を活性化することで、Aktがリン酸化され、糖取り込みが行われます。本研究結果から、1.SDF-1の発現が増加し、2.ERKが活性化され、3.IRS-1タンパク質が低下し、4.Aktのリン酸化が低下、5.糖の取り込みが低下することを発見しました。つまり、SDF-1が増加すると、インスリン誘導性の糖取り込みが低下する=インスリンが効きにくくなります。

研究の背景

インスリンは膵臓で作られるホルモンの一種であり、血液中の糖を細胞に取り込む役割を持っています。このメカニズムとして、インスリンがインスリン受容体と結合し、IRS-1※3を活性化することで、Aktがリン酸化され、糖取り込みが行われます(図1右側)。インスリンの効きが悪くなると、細胞へ糖を取り込みにくくなり、高血糖の状態が続きます。これが糖尿病を引き起こします。

飢餓状態と肥満状態では、インスリンが作用しにくくなることが知られています。例えば、副腎皮質ホルモン※4や炎症性サイトカイン※5などの脂肪細胞由来ではない外来性の因子が増加し、脂肪細胞に作用することで、インスリン感受性※6が低下することが知られています。

本研究グループは、これまでに脂肪細胞が分泌するアディポサイトカインが、肥満病態の形成に重要な役割を果たすことを報告してきました。しかし、アディポサイトカインが脂肪細胞自体に作用してインスリン感受性を制御することは知られていませんでした。また、アディポサイトカインの一つであるSDF-1は、脂肪細胞では最も遺伝子発現量が高いケモカインですが、細胞への糖取り込みに対する作用は解析されていませんでした。

本研究の成果

公開されているマイクロアレイデータセットを用いて、脂肪細胞において飢餓状態と肥満状態で発現が上昇する因子として、アディポサイトカインであるSDF-1を同定しました。SDF-1の機能を知るために、まず、マウスの脂肪細胞にSDF-1タンパク質を添加しました。その結果、IRS-1タンパク量が減少し、インスリン誘導性のAktタンパク質のリン酸化が減弱し、インスリン誘導性の糖取り込みが低下しました。そのメカニズムとしてSDF-1はERKリン酸化を誘導し、IRS-1のセリン636リン酸化と蛋白分解を引き起こすことで、IRS-1蛋白量を減少させることを見出しました。

次に脂肪細胞に発現するSDF-1が脂肪細胞のインスリン感受性を制御する可能性を調べるために、培養脂肪細胞のSDF-1をsiRNAでノックダウンしたところ、IRS-1タンパクが増加し、インスリン誘導性のAktリン酸化が増加し、インスリン誘導性の糖取り込みが増加しました。さらに、SDF-1受容体であるCXCR4の阻害ペプチドTC14012をマウス初代培養脂肪細胞に添加するとIRS-1タンパク質が増加しました。以上の結果から、脂肪細胞の内因性SDF-1が脂肪細胞のインスリン感受性を制御することが示されました。

最後に、脂肪細胞が産生するSDF-1の機能を調べるために、脂肪細胞特異的SDF-1KOマウスを作成し表現型を調べたところ、本KOマウスはコントロールマウスと比較して、体重や組織重量、摂食量に差がありませんでした。空腹時血糖値は差がみられませんでしたが、血中インスリン濃度は有意に低く、インスリン負荷試験やグルコース負荷試験の血糖値が有意に低下していました。高脂肪食負荷による肥満状態でも同様でありました。すなわち、本KOマウスはインスリン感受性が増強していました。本KOマウスの脂肪組織ではIRS-1タンパク量が増加しており、インスリン投与後のAktリン酸化が増強していました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、SDF-1シグナルを阻害することで脂肪細胞のインスリン感受性を増強させ、肥満2型糖尿病の治療につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2018年3月28日(水)(日本時間)〕に米国科学誌「Diabetes」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“SDF-1 is an autocrine insulin-desensitizing factor in adipocytes”
著者名:Jihoon Shin1,2, Atsunori Fukuhara1,3*, Toshiharu Onodera1,4, Shunbun Kita1,3, Chieko Yokoyama1,5, Michio Otsuki1, and Iichiro Shimomura1,2 (*責任著者)
所属:
1. 大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2. 大阪大学 大学院生命機能研究科
3. 大阪大学 大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学
4. 大阪大学 大学院医学系研究科 糖尿病病態医療学
5. 神奈川工科大学 応用バイオ科学部 栄養生命科学科

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)基盤研究の一環として行われました。

用語説明

※1 SDF-1
Stromal derived factor-1の略。CXCL12とも呼ばれる。脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン※2の一つ。

※2 アディポサイトカイン
脂肪細胞はアディポネクチンなどの様々な生理活性物質を分泌しており、アディポサイトカインと総称される。肥満状態におけるアディポサイトカインの発現・分泌異常は、肥満に伴う糖尿病や慢性炎症、動脈硬化性疾患と深く関連する。

※3 IRS-1
Insulin Receptor Substrate 1の略。インスリンがインスリン受容体に結合し、これがIRS-1を介してAktがリン酸化され、糖取り込みが行われる。IRS-1のSer636の部位がリン酸化されると、IRS-1は分解される。

※4 副腎皮質ホルモン
副腎皮質から分泌されるホルモン。

※5 炎症性サイトカイン
炎症の形成にかかわるサイトカイン。

※6 インスリン感受性
インスリンが働きやすいこと。肥満状態では同じインスリン量を注射しても血糖を下げる作用が低下しており、インスリン感受性が障害されている。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/endmet/www/home/index.html

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