生命科学・医学系

2018年4月4日

研究成果のポイント

・間葉系幹細胞で発現し、骨の空洞(骨髄※1)と、血液細胞を育てる場(ニッチ※2)を作る遺伝子を発見
・骨を造る細胞が骨の中心部分に空洞を保つ仕組みを解明
・血液細胞が造られるしくみの理解が深まり、人工骨髄を作製し試験管内で血液細胞を作る再生医療や、骨粗鬆症の治療法開発への応用に期待

概要

大阪大学の長澤丘司教授(大学院医学系研究科/生命機能研究科/免疫フロンティア研究センター、幹細胞生物学)らの研究グループは、間葉系幹細胞で発現する転写因子※3Ebf3が、骨髄腔(骨の中心部の空洞で血液細胞の工場)と血液細胞を育てる環境(ニッチ)を作ることを明らかにしました。

これまで骨を造る細胞が骨の中心部分に空洞(骨髄)を保つしくみは不明でした。本研究成果より、血液細胞が造られるしくみの理解が深まり、試験管内で人工骨髄を用いて血液細胞を作る再生医療や、骨新生を促進する骨粗鬆症の治療法開発への応用が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Genes & Development(ジーンズ・アンド・ディベロップメント;遺伝子と発生)」オンライン版にて、2018年3月22日(木)に公開されました。

図1 CAR細胞におけるEbf3の役割

研究の背景

血液細胞とは、血液中に含まれる細胞で、体の全細胞へ酸素を供給する赤血球、細菌やウイルス等の感染から防御する白血球、外傷による血管の損傷を修復する血小板からなり、生体にとって重要な細胞群です。血液細胞の寿命は短いので、その多くが毎日死んでいますが、全てが、少数の造血幹細胞※4から毎日産生され続けています(造血)。造血は、骨の中心部分に空いた空洞を占める骨髄でのみ行われており、造血幹細胞は骨髄のニッチと呼ばれる特別な環境によって維持されています。

長澤教授らの研究グループは、以前、造血幹細胞と造血に必須のニッチを供給する骨髄特有の細胞(CAR細胞;CXCL12-abundant reticular cells)を発見しました。また、CAR細胞は、造血幹細胞と接着する長い細胞突起を持った細胞で、血液細胞を育てる他に、脂肪細胞や、骨を造る骨芽細胞を生み出すことを明らかにしています。

しかし、骨の中心部分に造血のための大きな空洞が維持されるしくみは、よくわかっていませんでした。

本研究の成果

長澤教授らのグループは、マウスを用いて、CAR細胞のみでよく働く(高発現)転写因子Ebf3(early B-cellfactor 3)を見出し、Ebf3を発現する細胞に目印をつけることにより、CAR細胞が、生涯、骨芽細胞と脂肪細胞を供給する間葉系幹細胞であることを証明しました。

次に、マウスのCAR細胞でEbf3を欠損させると、老齢になると、骨髄に骨が著明に増加し、骨髄の空洞がほとんどなくなってしまいました。そのマウスでは、CAR細胞の大部分が骨芽細胞の前駆細胞※5に分化し、造血幹細胞や造血を維持できなくなっていました。さらに、生体にはEbf3とよく似たEbf1という分子が存在し、Ebf3の機能を補っている可能性があるので、その両方をCAR細胞で欠損させました。その結果、生まれた直後は骨髄が正常に存在していましたが、若年期より骨髄は骨で埋まり、CAR細胞の大部分が骨芽細胞の前駆細胞に分化し、造血幹細胞や造血を維持できなくなっていました。以上より、骨髄の間葉系幹細胞のみで高発現するEbf3は、骨芽細胞への分化を抑制して骨髄の空洞を維持し、血液細胞を育てる微小環境(ニッチ)を造っていることが明らかになりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

CAR細胞は、骨髄で血液細胞を育てる他、一部が脂肪細胞と骨代謝に必須の骨芽細胞を供給する重要な細胞です。これまで、CAR細胞の脂肪細胞への分化を抑制する遺伝子Foxc1が明らかになっていますが、本研究成果により、骨芽細胞への分化を抑制する遺伝子Ebf3が明らかになりました。いずれの遺伝子も、造血幹細胞と造血に必須のニッチを供給するために必須で、血液を造る微小環境の実体の解明が大きく進みました。

本研究の成果は、造血不全と骨粗鬆症の治療法開発に貢献する可能性があります。骨髄不全や、多くのがんの化学療法や放射線療法等では造血幹細胞が減少するため、これを補う治療が必要ですが、補給に十分な造血幹細胞や血液細胞を試験管内で増やすことはできません。Ebf3やその上流、または下流で働く遺伝子を用いて、試験管内で造血幹細胞ニッチを作製すると、これが可能になる可能性があります。また、哺乳類の骨は分解と骨芽細胞による新生を繰り返して品質を保っており(骨代謝)、Ebf3は、骨新生を抑制するので、その機能をうまく調節すると、骨が減少する骨粗鬆症疾患の治療に役立つ可能性があります。

特記事項

本研究成果は、2018年3月22日(木)に米国科学誌「Genes & Development(ジーンズ・アンド・ディベロップメント;遺伝子と発生)」(オンライン)に掲載されました。
【タイトル】“Stem Cell niche-specific Ebf3 maintains the bone marrow cavity”
【著者名】 Masanari Seike1,3, Yoshiki Omatsu1,3, Hitomi Watanabe2, Gen Kondoh2 and Takashi Nagasawa1※. (※責任著者)
【所属】
1. 大阪大学大学院医学系研究科/大学院生命機能研究科/免疫フロンティアセンター(iFReC) 幹細胞生物学
2. 京都大学ウイルス・再生医科学研究所 統合生体プロセス分野

本研究は、京都大学ウイルス再生医科学研究所の近藤玄教授の協力を得て行われました。

用語説明

※1 骨髄、骨髄腔
哺乳類の血液細胞は、骨の中心部にある空洞(骨髄腔)を満たす骨髄で造られている。

※2 ニッチ
造血幹細胞ニッチとは、造血幹細胞が接着し、それを維持するのに必須の微小環境。

※3 転写因子
核のDNAに結合し、特定のタンパク質を産生させる分子。

※4 造血幹細胞
生涯にわたり自身を複製でき、全ての血液細胞を生み出すことができる細胞。

※5 前駆細胞
特定の細胞の元になる未分化な細胞で、生涯の一部の期間でしか自身を複製できない。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 幹細胞生物学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/introduction/research/microbiology/stem

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