生命科学・医学系

2018年3月29日

研究成果のポイント

・慢性閉塞性肺疾患(COPD※1)の新規モデルマウスに、ヒトに類似した老化現象が認められた。
・2種のテトラスパニン※2の発現を低下させることでCOPDが発症するが、これにより抗老化分子サーチュインの発現が低下し、老化が誘導されることを見出した。
・根本治療のないCOPDや、老化進行を抑制する新規治療薬開発につながることが期待される。

概要

大阪大学大学院医学系研究科武田吉人助教、熊ノ郷淳教授ら(呼吸器・免疫内科学)の研究グループは、独自に作成したCOPDモデルマウスの長期にわたる研究から、本マウスが加齢とともにCOPDを進行させるだけでなく、様々な老化表現型を示すことを突き止めました(図1)

慢性閉塞性肺疾患COPDは、21世紀の国民病ともいわれ、世界で2億、国内600万人の患者が推定されています。COPDは肺の老化を進行させることが知られていますが、COPDと老化の関係についてはほとんど解明されていませんでした。

今回、研究グループは、COPDモデルマウスが、COPDだけでなく、骨粗鬆症、体重減少、短命といった症状を示す老化マウス※3であることを見出しました。さらに、本モデルマウスで老化を引き起こすメカニズムとして、テトラスパニンCD9とCD81の発現が低下すると、抗老化分子として知られるサーチュイン(SIRT-1)の発現が低下し、これが種々の細胞死(アポトーシス)や慢性炎症を誘導することを突き止めました。

本発見により、肺疾患において重要な機能(COPDのブレーキ役)をしているテトラスパニンが、老化鍵分子(サーチュイン)の発現を維持することで、老化ブレーキ役としても働いていることが示されました。テトラスパニンの発現や機能を亢進させる薬剤を開発することで、21世紀の国民病といわれるCOPDだけでなく、老化進行を抑制する薬剤の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、2018年3月23日(金)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

図1 肺を守るたんぱく質から老化メカニズムの解明。
テトラスパニン(CD9/CD81)の発現低下に伴い、サーチュイン(SIRT1)の発現が低下し、これが骨粗鬆症や体重減少といった老化現象を引き起こす。

研究の背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、21世紀の国民病ともいわれています。気管支拡張剤などの対症療法はあるものの、根本的な治療薬は皆無で、2030年には世界死因の第三位になることも予想されています。さらに、喫煙や大気汚染が主な原因で発症するCOPDは、肺の生活習慣病ともいわれ、老化に伴って発症することから老化促進肺ともみなされていましたが、COPDと老化の関係についてはほとんど解明されていませんでした。

本研究の成果

これまでに武田助教らは、肺に高発現しているテトラスパニンのうち、機能と分布の類似した2種類のテトラスパニンCD9とCD81の二重欠損マウスが、ヒトに類似したCOPDモデルになることを見出していました(Takeda et al. TheJournal of Biological Chemistry, 2008)。今回、この独自に作成したCOPDモデルの長期にわたる研究から、本マウスが加齢とともに進行するCOPDだけでなく、COPDに併存するとされる骨粗鬆症、体重減少、さらには白内障、性腺萎縮、脱毛、白内障を含む多様な老化表現型を示し、野生型マウスより3割程度短命となることを明らかにしました。さらに、本マウスが多様な老化表現型を示すメカニズムとして、テトラスパニンCD9とCD81の発現が低下すると、抗老化分子として知られるサーチュイン(SIRT-1)の発現が低下することで、種々の細胞死(アポトーシス)や慢性炎症を誘導することを突き止めました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

慢性閉塞性肺疾患COPDの病態だけでなく治療につながる研究となります。特に、COPDは加齢とともに罹患数が増加することやCOPDと老化の病態が類似していることから老化促進肺とも考えられていましたが、その詳細は不明でありました。今回の研究により、肺の疾患と老化との関係を明らかにすることができました。さらに、本研究にて注目したテトラスパニンは、COPDと老化の両面において治療標的となりうることも示唆されました。

特記事項

本研究成果は、2018年3月23日(金)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:Double deletion of tetraspanins CD9 and CD81 in mice leads to a syndrome resembling accelerated aging
著者名:Yingji Jin1, Yoshito Takeda1*, Yasushi Kondo2, Lokesh P. Tripathi3, Sujin Kang1, Hikari Takeshita4, Hanako Kuhara1, Yohei Maeda1, Masayoshi Higashiguchi1, Kotaro Miyake1, Osamu Morimura1, Taro Koba1, Yoshitomo Hayama1, Shohei Koyama1, Kaori Nakanishi1, Takeo Iwasaki1, Satoshi Tetsumoto1, Kazuyuki Tsujino1, Muneyoshi Kuroyama1, Kota Iwahori1, Haruhiko Hirata1, Takayuki Takimoto1, Mayumi Suzuki1, Izumi Nagatomo1, Ken Sugimoto4, Yuta Fuji2, Hiroshi Kida1, Kenji Mizuguchi3, Mari Ito3, Takashi Kijima1, Hiromi Rakugi4, Eisuke Mekada5, Isao Tachibana1 & Atsushi Kumanogoh1 (*責任著者)
所属:
1. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
2. 大日本住友製薬
3. 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
4. 大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学
5. 大阪大学 微生物病研究所細胞機能分野

用語説明

※1 慢性閉塞性肺疾患COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)
慢性閉塞性肺疾患COPDは、21世紀の国民病ともいわれ、世界で2億、国内600万人の患者が推定。気管支拡張剤などの対症療法はあるが、根本的な治療薬はないため、2030年には世界死因の第3位になることも予想されている。さらに、喫煙や大気汚染が主な原因で発症するCOPDは、肺の生活習慣病ともいわれ、老化に伴って発症することから老化促進肺ともみなされていたが、COPDと老化の関連についてはほとんど解明されていなかった。

※2 テトラスパニン
細胞膜4回貫通型タンパクファミリーで、ヒトでは33種類のタンパクからなる構成される。生体には普遍的に発現しており、なかでもCD9とCD81は肺内における発現が強い。テトラスパニンの発現が、炎症性疾患やがんの転移、感染症発症に関与することが知られている。CD9/CD81二重欠損マウスが、無刺激でCOPDを発症することからCOPDの新規モデルになる。本研究では、COPDモデルが、野生型に比べて早期に老化に至ることからCOPDと老化の密接な関係が示唆された。

※3 老化マウス
遺伝子操作により老化を自然発症するマウスは、世界に数種類と限られている。本マウスは、COPD自然発症モデルとしても貴重であるが、多様な老化表現型を示す老化促進型を示す新たな老化モデルとしての発見としても貴重であり、今後アンチエイジングをターゲットにした研究や治療応用にも活用可能である。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/index.html

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