自己抗体が出現するエピゲノム要因をヒトで解明

自己抗体が出現するエピゲノム要因をヒトで解明

遺伝子配列が同じ一卵性双生児の片方のみが疾患発症する要因を探る

2017-11-24生命科学・医学系

研究成果のポイント

・一卵性双生児を対象とした研究手法により、ヒトで自己抗体が出現するエピゲノム要因を厳密に解明。
・これまで、ヒトにおいてはゲノム配列による要因とエピゲノム要因 とを区別するのは困難であった。
・さまざまな疾患のエピゲノム要因をヒトで解析する先鞭となる研究成果であり、一卵性双生児による解析は、エピゲノム因子をヒトで臨床応用する唯一の検証環境として期待できる。

概要

大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンターの渡邉幹夫准教授らの研究グループは、自己抗体 が出現するエピゲノム要因を、一卵性双生児を対象に解析することにより、ヒトにおいて世界で初めて明らかにしました。

これまでも疾患に関連するエピゲノム要因は少なからず報告されていますが、いずれも遺伝的背景が混在した一般のヒト集団を対象としたものであり、同一の遺伝的背景におけるエピゲノム要因は解析されてきませんでした。

今回、渡邉准教授らの研究グループは、甲状腺に対する自己抗体が片方にのみ出現している一卵性双生児ペアを対象とすることにより、ヒトで遺伝的背景が一致した状態で自己抗体出現に関係するエピゲノム要因を解析するとともに、エピゲノム要因(環境因子)が影響しやすい個体と影響しにくい個体が遺伝的に規定されている可能性、すなわち、疾患の発症要因として環境因子が関わりやすい個体とそうでない個体が存在することを初めて明らかにしました (図1) 。

これにより、自己抗体出現のメカニズムを解析する貴重な成果が得られるとともに、一卵性双生児を対象とした、疾患に関するエピゲノム要因解明手法が広く知られ、ヒトでのエピゲノム解析が各段に発展することが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Thyroid」に2017年11月初旬に公開されました。

図1 一卵性双生児では「環境因子への感受性の個体差」を解析可能

研究の背景

これまで、自己免疫性甲状腺疾患では遺伝要因と環境要因の双方が発症に関与していることが知られており、遺伝要因についてはGWAS(ゲノムワイド関連解析)を使った報告などがありましたが、環境要因の代表であるエピゲノム要因を厳密にヒトで報告したものはありませんでした。

渡邉准教授らの研究グループでは、一卵性双生児を対象とした研究手法により、ヒトで自己抗体が出現するエピゲノム要因を厳密に解明しました。これは、従来は動物実験等でしか実現できなかった、遺伝子配列が同じであるが表現型(疾患発症など)が異なる個体の比較をヒトで行った画期的な成果です。

本研究成果が社会に与える影響

本研究成果により、自己免疫性甲状腺疾患の病因である自己抗体の出現に、エピゲノム要因がどのように影響しているか、また、それは個体の遺伝子配列によってどのように異なるのかが明らかになり、遺伝子配列の違いをもとにしたテイラーメイド医療につながることが期待されます。さらに、自己抗体だけでなくさまざまな表現型の違いを用いて同じように一卵性双生児で解析することで、疾患に限らない多くのヒトの表現型に及ぼすエピゲノム要因を解明できる可能性が高く、医学のみならず、経済学・教育学・心理学等においても応用できる全く新しい研究手法であると考えられます。

特記事項

本研究成果は、11月初旬に米国科学誌「Thyroid」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Genotype-based epigenetic differences in monozygotic twins discordant for positive antithyroglobulinautoantibodies”
著者名:Mikio Watanabe, Yoichi Takenaka, Chika Honda, Osaka Twin Research Group, Yoshinori Iwatani

なお、本研究は、文部科学省プロジェクト特別経費、および科学研究費助成金を用いて行われ、大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンターの協力を得て行われました。

研究者のコメント

ツインリサーチ では、ご協力いただけるふたごの皆さんを集めるのが大変です。一卵性双生児・二卵性双生児のいずれでもご協力いただけるふたごの方を求めております。ふたごを対象とすることで、一般のヒトを対象とするだけでは困難な、環境要因の厳密な解明が可能です。ツインリサーチでは病気だけでなく、教育・心理・行動などのヒトのすべての営みについて、環境要因の解明ができます。

参考URL

大阪大学 大学院医学系研究科保健学専攻 生体情報科学講座
http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~prevdiag/

用語説明

自己抗体

本来は外来抗原(自己由来でない抗原)に対してできる抗体が、自己の抗原に対してできることがあり、これを自己抗体という。自己免疫疾患で出現していることが多く、病因との関連が強い。

エピゲノム要因

ゲノムDNAの配列に依存しないが、ゲノムDNAからの遺伝子発現に影響する要因であり、DNAのメチル化やヒストンのアセチル化などが知られている。DNA配列が同じでも表現型が変わりうる要因(環境要因・後天的要因)のひとつ。

ツインリサーチ

遺伝配列が同一である一卵性双生児、遺伝配列が50%の相同性を示す二卵性双生児を対象にすることで、環境要因(後天的要因)を厳密に評価できる研究手法。