工学系

2017年11月7日

研究成果のポイント

・大規模サッカースタジアムでミリ波※1を用いた次世代5G(ファイブジー)無線※2実験に成功
・スタジアムでの無線では電波干渉が課題だったが、ミリ波を利用することで干渉問題を解決
・オリンピック会場やサッカースタジアムでの活用に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の村田博司准教授がリーダーを務めている日欧国際連携共同研究プロジェクトRAPIDは、大阪府吹田市の市立吹田サッカースタジアム(ガンバ大阪本拠地、40,000人収容)において、大規模サッカースタジアムとしては世界で初めてミリ波を用いた次世代(5G)無線通信実験を行い、未来のスマートフォン等の通信速度の大幅な向上に有効であることを明らかにしました。

これまでスマートフォン等の移動端末を用いた無線通信では、利用者が密集している場所において、通信速度が遅くなり、快適に利用することができないという問題がありました。この通信速度低下の原因は、限られた無線周波数を同じ空間で共用するために、ある端末からの電波が他の端末の通信を妨害する電波干渉が多発するためでした。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて、数万人の観客が集まる大型競技場においても快適な無線通信を実現できる次世代無線システム、『5G無線』が求められています。

今回、村田准教授らの研究グループは、電波の届く範囲を制限しやすく、電波干渉を抑えることが可能なミリ波の特徴に着目し、光ファイバ無線※3と呼ばれる無線と光通信の融合技術を巧みに利用した通信システムを構築し、実証試験を行いました(図1)。ミリ波の通信のためのアンテナ局を客席の天井等に分散配置することで、スタジアムのように大勢の観客が着席しているような環境において、高速な通信が可能であることを実証しました。さらに、光ファイバ無線を用いて、5Gシステム設計のための詳細な特性を取得することにも成功しました。これにより、東京オリンピックメイン会場のような大規模スタジアムでの5G開発が加速することが期待されます。

本研究成果は、無線・アンテナ関係の国際会議 2017 IEEE CAMA において、12月4日(月)14時20分(日本時間)に公開されます。

図1 市立吹田サッカースタジアムでの5G無線実験

研究の背景

現在、5G無線システムの研究開発が盛んに行われています。しかしながら、それらは、大都市部の街頭やオフィス等での開発が中心でした。5G無線は、その優れた性能から、スタジアムのような多くの人が集まる環境での利用が非常に期待されていますが、世界的には4G無線の普及がまだ進んでいないこともあり、実際のスタジアム環境での5G実験は報告されていませんでした。

5Gで利用されるミリ波は高速通信に適しており、電波干渉を小さく抑えることが可能です。しかし、通信のためのアンテナ局を多数設置する必要があり、アンテナ局のコストを低く抑えることが大きな課題になっていました。

村田准教授らの研究グループでは、アンテナ局をシンプルなリモートアンテナとして動作させることで低コスト化を実現することを提唱しています。これは、従来、アンテナ局で個別に行っていた、無線信号の処理機能を中央局に集中させて、多くのアンテナ局で共用することで、システム全体のコストを抑える構成です。アンテナ局の構成の簡素化に有効な新たなアンテナの開発や、光ファイバ無線を用いた伝送システムの設計・試作を行い、スタジアムでの実証試験に成功しました。

5Gでは既存のWi-Fiや4Gなどの通信システムとミリ波を連携して快適な通信環境を実現することも重要です。既存通信との連携のために、モバイルIP技術を活用することで、利用者が意識することなくWi-Fiや4Gとミリ波の通信を自動で適切に切り替えることができるシステムを開発し、スタジアムでの実証試験でその動作を確認しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、サッカースタジアムのような多くの観客が集まる場所(オリンピック競技場、野球場、等)において5G無線が有効であることが明らかになりました。今後、オリンピックやワールドカップでの5G無線の開発がますます加速することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年12月4日(月)より茨城県つくば市で開催された国際会議 2017 IEEE CAMA において発表されます。
タイトル:“Millimeter-Wave Communication System Using Photonic-Based Remote Antennas for ConfigurableNetwork in Dense User Environment”
著者名:Hiroshi Murata, Yui Otagaki, Naruto Yonemoto, Yasuyuki Kakubari, Kensuke Ikeda, Nobuhiko Shibagaki,Hiroyuki Toda, Hiroshi Mano, Usman Habib, and Nathan Gomes

なお、本研究は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究の一環として行われ、同志社大学理工学部戸田裕之教授、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所、株式会社日立製作所、一般財団法人電力中央研究所、コーデンテクノインフォ株式会社の協力を得て行われました。

用語説明

※1 ミリ波
波長が1~10 mm(周波数30 G~300 GHz)の電波であり、現在利用が進みつつある周波数帯。高速な通信に必要な帯域の確保が可能であり、直進性が高く、狭い指向性も可能であり電波の届く範囲を制御しやすい特徴がある。

※2 5G無線
現在普及しているLTEやLTE-Advancedなどの4Gの次となる第5世代移動通信システム。2020年の実用化を目指した研究開発が進められている。超高速通信に加えて、低遅延性や多端末の接続などの性能向上が期待されている。

※3 光ファイバ無線(Radio-over-Fiber:RoF)
無線の信号を光信号に変換して、光ファイバを利用して無線信号を送る技術。光ファイバは、あらゆる情報伝送ケーブルの中で伝送中の信号の減衰が最も小さく、同軸ケーブル等で困難な高い周波数の無線信号の伝送も可能である。

研究者のコメント

8月初旬、4日間の猛暑日での実験でしたが、関係者の努力と熱意のお蔭で、実際のサッカースタジアムにおいて、5G無線を使って4K動画をダウンロードすることに成功しました。我々のプロジェクトは、日欧国際連携プロジェクトであり、実験にはイギリスのメンバーも参加しました。また、このプロジェクトでは、ポーランド・ワルシャワの大型ショッピングセンターでの5G実験にも成功しています。(2017年7月、日本関係者も参加、ワルシャワでプレス発表。)

参考URL

大阪大学 大学院基礎工学研究科 システム創成専攻電子光科学領域 光エレクトロニクス講座 光波マイクロ波グループ
http://www.ec.ee.es.osaka-u.ac.jp/jp/

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